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コンセプトアーティストのための人体ドローイング📖

ラフドローイングを効率よく上達させるためにできることは「失敗しないこと」

「あなたはデジタルアーティストですか?」

これは、ゲームのキャラクターデザインの仕事をする著者が、知人に実際に問いかけられた言葉だ。

そして質問の意図は案の定、耳が痛くなるようなものだった。

「あなたは乱雑な中から何かが生まれるのを期待して、闇雲に手を動かしているだけなので。」

ゲームキャラクターデザイナーとして活躍する著者が、人体ドローイングのテクニック向上に必要なマインドセットや手段を、実例つきで詳細に教えてくれている。著者以外の業界関係者による作例も充実している。

とにかくたくさんの試作品を作り、失敗を恐れず試すのだ、ということはどんな仕事の現場でもよく言われることかもしれない。企業によっては、その職種界隈が何となく定める最低限の品質より、遥かに低い品質の試作品をスピーディーに、たくさん仕上げることが求められることもあるだろう。

この本が何度も訴えているのは、対象を観察し、ジェスチャーの軌跡を長いストロークで表現すること。そして、失敗しないことだ。

アカデミックな技法書では何度でも主張される「対象をよく観察せよ」は、素早いアウトプットを否定しているわけではなく、なんの目的意識や仮説もなく紙の上に粉をのせることに疑問を呈しているのかもしれない。ある別の技法書では「何度も繰り返し鉛筆でなぞられるアウトラインは、自分の都合で対象を歪めようとする自己中心的な考えを表している」とまで言っていた。

私はiPadで絵をかくとき、偶然の産物を期待しながら闇雲に手を動かしていた。なんのプランや目的意識もないままに、ゾーンに突入し、思考を停止させていたのだった。反省点が毎回「もっと事前に準備すべきだった」の一言に尽きる場面は今までたくさんあったし、今でもやらかしてしまう。

海外の指南書はたくさん失敗談が語られ、また著者の友人知人が提供してくれるエピソードやリファレンスがとても充実しているため、読み物として楽しめるものがたくさんある。

いいお値段ではあるが、クオリティの伴った作品がたくさん詰まっている本だった。


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