私を支えてくれた言葉 #仕事について話そう
今から約20年前、20代前半の私は精神的にボロボロだった。事務の仕事を始めたものの、誰がどんな仕事をしているのかお互いに把握できていないような職場で、何を聞いても怒られていた。商品の出荷履歴や入金状況の一部も、私の入社前からずっと確認できないまま放置されていた。社内の責任者や取引先に問い合わせても「わからない」と言われるか責められるだけで、当時の私には謝るしか出来なかった。
その会社に入る数年前から鬱症状があったものの、続けたかった仕事を嫌々辞めた悔しさから、二度と仕事だけは失いたくなかった。だから、毎日怒られて泣きながらでも働き続けていた。ところが段々と、会社に行きたくない気持ちの方が強くなり、時間通りに目覚めても身体が重くて動けず、遅刻をするようになった。会社に着く時間が日に日に遅くなった。
私が会社で泣く姿を見て、同じ部署の人たちは面白がっていた。普通に接してくれる人だっていたし、全員が悪い人ではなかった。そして、この会社で働いたからこそ出会えた人がいる。その人がかけてくれた言葉には今でも支えてもらっている。(それでも私は辛い経験を美化するのは好きじゃない)
仕事が時間内に終えられず、一人だけ残業をしていたり、とにかく社内ではずっと浮いていた。そんな状態でも「退職したい」と言ったら止められた。もうどうしたら良いのかわからなくなって、一日中泣いていたような気がする。それから数日後、朝礼が終わると他部署のTさんから呼び止められた。
「少し話をしませんか?会議室が空いていますし、許可も取っています」
Tさんは少し年上の先輩で、部署は別でも同じバス通勤だったから話す機会が多かった。仕事の進め方や心がけについて、いつも丁寧に教えてくれていた。私は精神的に弱っていたせいか、アルバイトだったせいか、すぐに辞めると思われていたのか、社会人として扱ってもらった記憶があまりない。だから、Tさんが私にいろいろと教えてくれるのが嬉しかった。だけど、Tさんは他部署の人だから、私を手伝うわけにはいかない。ずっと心配してくれていたと、この時に呼ばれて初めて気が付いた。
「今、すごく辛いですよね?」
Tさんのその一言で、私は泣き出してしまった。誰かに助けて欲しかったからだ。やっとわかってくれる人に出会えた。涙が止まらなくなった。
「悔しいんです。何も出来なくて泣いてばかりで。辞めるのもダメって言われてどうしたら良いのかわからなくて。仕事、出来るようになりたいんです。」
話すのも精一杯で、声を絞り出すように自分の気持ちを伝えた。すると、Tさんが私の目を見てゆっくりと話し始めた。
「あなたは仕事が出来る人です。今回は環境が悪かっただけです。必ず出来るようになります。」
その言葉は嬉しかった。だけど、何を根拠に言っているのか全くわからなかった。それでも、Tさんの真剣さと優しさが表情からも伝わって来て、私は否定せず、ただ頷いていた。それから数日後、他の人の後押しもあり、上司の許可を得ないまま、今でいう「バックレ」でその会社を辞めてしまった。
その後、何度も転職をして、緊張したり、壁にぶつかる度にTさんの言葉を思い出しては折れそうになる心を守って来た。SNSを開けば、毎日誰かが「人のせいにするな」「環境のせいにするな」と語っているけれど、そんなに全てが自分のせいなわけがない。仕事を教える気の無い上司もいれば、業務の進め方がメチャクチャな職場だってある。40代になった今だから、理不尽な出来事も笑い飛ばせるようになった。一方的に責められて、その場では謝罪しても「最悪!ちょっと聞いてよ!」なんて、味方になってくれる人を捕まえて騒いで面白がっていたりする。本当に辛い時には笑い飛ばす必要なんてないのだけれど、否定せずに話を聞いてくれる人は必要だ。辛い気持ちを抱え続けなければいけないような環境なら、私は他を探す。
退職時によく聞く「ここで続かないなら、他へ行っても続かない」という言葉は信じなくて良い。私は仕事仲間が辞める時は「いってらっしゃい!」という気持ちで送り出している。その人に合った環境が必ずあるはずだから。
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