オッペンハイマーを観て

 アメリカ在住です。先日話題のオッペンハイマーを娘と一緒に観てきました。
 この映画、最初から最後まで一貫して、オッペンハイマー自身の目線で語られています。しかし彼の目を通して、その彼を映して描いているのが彼自身という、メビウスの輪のような不思議なツイスト感が面白い。
 彼の感情(エゴ、好奇心、自信、欺瞞、後悔、罪悪感)がシャワーのように降り続きます。暗くはありませんが、ハリウッドのエンタメ型でないことは確かですね。
 原爆がどうやって作られて、なぜ日本に落とされたか、当然ですが全てアメリカ目線です。日本人としては不愉快ですが、彼がとんでもない天才だったということは伝わりました。
 彼は原爆の父と呼ばれ、日本では悪名として認知されてますが、純粋に自分が見つけた論理の正しさを実行することで、現実に物理現象を見たい好奇心だったのだろうと、私は感じました。だから、アメリカ目線とか関係なく、原爆がどうやって発明されたかを見ると興味深いです。
 オッペンハイマーは天才すぎて、サイコパス。彼の頭の中にある頭脳の挑戦と人間としての心が、シーソーの両側でばたんばたん交互に揺れても、知性の欲望の重みが勝って、想像しうる悲惨な結果を見ないことにしてしまう。実験で想像以上の破壊力に歓喜して、でもそれが戦争という了解のもと、広島と長崎に落とされ、その惨状が彼の心を壊していく。
マット・デイモンを観に行ったはずが、主役のシリアン・マーフィーの演技が圧倒的に素晴らしく、また、アインスタイン役のトム・コンティがあまりにアインスタインそのもので笑っちゃいました。
 日本で上映されるかわかりませんが、機会がありましたら是非。3時間以上の映画なので、必ずトイレ済ませて行ってください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?