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第4回 育休プチMBAが目指すもの

これまでは、一人の経営学者として勉強会を開催している理由について語ってきました。ですが、実は続けている理由はもう1つあります。もっともっと個人的な理由。実はこっちのほうが、もしかしたら大きいかもしれない。それは、大学生をはじめとするこれから就職・結婚・出産を迎える次世代に、少しでも社会をよくしてから手渡したい、という気持ちです。

大学に勤めていることもあり、大学生や若手社会人と話をする機会が多いのですが、そのほとんどの人が「子どもは欲しい。でも仕事と両立できるとは思えない」と考えていることが分かりました。「私は両立できるとは思えないから、こどもか仕事かを選ばなくてはならない」「仕事を頑張りたいからこどもは持てない」「こどもが欲しいから仕事はほどほどでいい」と思ってるんですよね。私から見たら、十二分に優秀な女子たちですら。

でも、私もその一人だった。こどもを持つということは「降りること」だと思っていたから、なかなか踏み切れず、こどもを産むのがすごく遅くなってしまった。私は幸運にもムスメに会う人生になったけど、運次第では会えなかったかもしれないという気持ちはいまでもあります。だから、欲しいけど迷う、欲しかったけど無理だった、という人の気持ちは痛いくらいわかる。欲しくないのは個人の選択だから、それは尊重したい。でも、こどもが欲しくないわけじゃないけど仕事が好きだからこそなかなか踏み切れない、こどもは嬉しいけど仕事も好きで続けたい、という人の悩みには寄り添いたい。

どうしてもキャリア構築期と出産適齢期が重なってしまう女性にとって、出産とはすなわち「仕事経験を積むチャンス」を逃すということに等しいです。そして、メディアに出ているキラキラワーキングマザーは実母のフルバックアップが透けて見えるので真似できる気がしない一方で、ごく身近で子育てしながら仕事をしている人は仕事の前線から降りていく。特に、出産前は活き活きと働いていて憧れていた先輩が、こどもができたとたんに権利主張だったりぶらさがりになっていくのを見るのは、とても残念な想いです。

その状況では、「普通の人間である自分に、仕事と子育ての両立は無理」と考えてしまうのはごく当たり前ですよね。つまり、こどもが欲しくないわけじゃないけど、「子ども or キャリア」という選択肢を突き付けられて、諦めてしまう人が少なくないと感じています。だから、こどもとキャリアは二者択一ではない、こどももキャリアもどっちもとれるし両立はけっこう楽しいことだよ、ということが分かったら、もっと気軽に出産に踏み切るだろうし、仕事を頑張ろうという気にもなるんじゃないかなとずっと思っていました。私も、最終的に背中を押してくれたのは、仕事と育児を存分に楽しんでいるロールモデルの存在でした。

なので、この育休プチMBAでの学びによって育児期間を能力開発期間に変えられるということ、キャリアと育児を両立しているスーパーじゃないウーマンがたくさんいることを多くの人に知ってもらえれば、「こどもを持つ=キャリアを諦める」という方程式を崩せるんじゃないかなと思いました。

周りの人へのヒアリングや、仕事で触れるデータたちをみても、女性たちは「こどもが欲しくない」とは思っていません。でも「育てる自信がない」とは思っています。であれば、育てる自信を持たせることが大事ではないでしょうか。こどもが欲しくないという意思は尊重する必要があるし、産みたくても産めない人には配慮をすべきです。でも子どもが欲しいという意思があるし、産むことも出来るけど、仕事をしながら育てる自信がないという人に対しては、学びが解決策になるんじゃないかと思ったんですね。つまり私は、少子化対策には子育て支援ではなく両立支援の方が効くだろうと考えているのです。

先の権利主張やぶらさがりワーキングマザーの姿についても、本人たちもそれでいいと思ってるわけじゃないんですが、育児をしながら業務責任を果たすことのハードルの高さに思考が停止してしまうだけなんです。でもこれは、逆に言えば思考力さえあれば回避できるということだし、自分でも両立に一番必要なのは問題を考え続ける力だと実感しています。であれば、育休期間をつかって思考力を鍛えればいいんじゃないか、と。そうすればいろんな問題が解決するんじゃないか、そうすることで次世代によりよい社会を渡すことが出来るんじゃないか、と。

私たちは、先輩たちから「育休をとるのは当たり前な社会」を渡してもらっています。だからこれを後輩たちに渡す前に、少しでも「育児とキャリアを両立するのは当たり前な社会」にしてから渡したいなと思っています。だから、育休プチMBAのビジョンは『“子どもを持ちながら働く”が本人・家族・企業にとって当たり前になる社会の実現』なのです。現在育児中の女性のためだけの活動とは思っていません。

私が考えているのは、自分たちの次に続く世代です。「スーパーマンじゃなくても、こどもを産んでも大好きな仕事を続けることはできるし、世の中にはそういう人がたくさんいる。あなたがそうなるために必要なのは実家やお金じゃなくて、思考力。だから考えることをやめてはいけないけど、トレーニング機会も作っておくから大丈夫だよ、安心していいよ」といつも心の中でつぶやいています。

ゼミの学生たち。いつも元気をもらってます!

続きはこちら:第5回 育休プチMBA、継続の危機(前編)

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