見出し画像

第6回 育休プチMBA、継続の危機(後編)

育休プチMBAを初めて5ヶ月ほど経った2014年の11月頃、慶應ビジネススクール(KBS)の2年後輩にあたる小早川優子さん(現株式会社ワークシフト研究所代表取締役)と知り合いました。小早川さんはKBSを卒業したあと、金融業界での会社勤めを経て、ダイバーシティマネジメントや交渉論の研修講師やコンサルタントとして独立、当時は3人目のお子さんの育休中でした。ご自分でも育休者向けの講座をやりたいと検討していたところ育休プチMBAを発見し、しかも、代表の私が同じKBSということで、何か手伝えることはないかと知り合い経由で連絡をくれました。小早川さんと私はKBS時代が重複してはいるものの、そのとき私は博士課程で修士課程のMBAとは別のカリキュラムだったこともあり、この時点では面識がありませんでした。彼女のバックグラウンドもよく知りませんでしたが、KBS出身者ならばディスカッションのお作法は出来ているだろうし、共通言語も多いから、いろいろ手伝ってくれるとありがたいなと思って歓迎しました。

早速、1月は小早川さんに育休プチMBAのファシリテーションを任せ、私はSkypeで静岡から傍聴していたのですが、さすがプロ、非常に安定したディスカッションでした。あーこれは安心して任せられるなー、と思ったことを覚えています。ただ、彼女は会社勤めじゃないフリーランスなので、ボランティア活動に時間を割くということはイコール売上を得るための時間を失うということになってしまうため、長く関わってもらうのは難しいだろうなあと感じていました。

私も、大学の業務の傍ら、ボランティア活動で育休プチMBAの運営をするのはけっこう大変です。でも私は活動自体が研究のネタになるし、なによりビジョンを実現したいというお金とは別のインセンティブがいくつかあるので続けてこられました。あと、育休プチMBAの活動を通じて得た知見や開発した教材を改良して、企業向け研修を受託することでコスト(育休プチMBAに費やしている時間とお金)を回収していました。このビジネスモデルは、育休プチMBAを立ち上げた際にみかさんから、「続けやすくするために、ご自分にインセンティブをつけてください」と言われて考えたものでした(さすが敏腕営業、インセンティブ設計の大事さを分かってる)。でも、人を雇えるほどの利益では全然ないし、研究者である私以外に、こういう社会的意義はあるものの手間の割に利益が少ない仕事を引き受けてくれるような変人が他にもいるとは思えないなあーと思っていたところ、小早川さんから4月以降の件についてミーティングの申し入れがありました。そして1月27日にSkypeでミーティング。これが小早川さんと初めての対面でした。

で、そこで話をしたところ、小早川さんは復職後も比較的時間が自由に使えるということがわかりました。1月の育休プチMBAでの様子から、小早川さんがファシリテーションをできるということは分かっていたので、小早川さんと組めば、4月以降も育休プチMBAが続けられる、と思いました。

ただし、こんな儲からない仕事を引き受ける理由が小早川さん側にあるのだろうか?という懸念がありました。が、私と同じく「可能性を感じる活動なので、利益は本業で回収しますから育休プチMBAはボランティアでやりますよ」と彼女が言ってくれたのです。そして2月12日の東京出張の際に初めてリアルに顔を合わせて話してみて、この育休者というマーケットはビジネスの常識から見て非常にユニークだし、企業にとっても個人にとってもニーズがあるのは明白だから、今はよくわかんないけど1年後には大きく化ける可能性があるよね、その可能性にかけてとりあえず4月から一緒にこの事業を育ててみますか?という話に至りました。

で、2015年4月からは、育休プチMBAの利益は活動を維持するためだけに使い、私と小早川さんは無報酬で育休プチMBAの運営に関わり、ここで得た知識や開発した教材を個人の研究業績や法人案件につなげることで、自分たちに必要な利益を本業として回収しようと決めました。ただ非営利活動とはいえ、運営体制を整えるための初期投資がかなり発生するので、ちゃんとお客さんがつかなければ育休プチMBAの運営は赤字になるかも、でもとりあえず2年間やってみて、やはり厳しいということになれば勉強会を畳んでそれぞれの本業に戻ろうと二人で決めたのです。これを一緒に育休プチMBAを立ち上げたみかさんをはじめとする2014年度の運営チームに伝えたところ、とてもとても喜んでくれました。「次に育休をとるときは絶対戻ってくるから」「何ならもう一人産もうかな」と言ってもらえて、心底うれしかったです。(※実際、当時のメンバーは次のお子さんの育休中にまた受講してくれる方がとっても多いです)

で、フタを開けてみたら、2015年度は前年を上回る勢いで参加申し込みがあり、販売直後に売り切れるような状態に。NHKさんやAERAさん、日経DUALさんなど、メディアでの露出も増え、それに伴って参加希望者も増えました。そして法人案件の受注がいくつか入り、法人相手の仕事をするために任意団体ではまずいねということで、小早川さんを代表とした株式会社ワークシフト研究所を2015年12月に立ち上げることになりました。研究成果を活かしたベンチャー設立として、私の所属大学にも認定されたため(文系では初の大学発ベンチャー認定でした)、私は兼業もしやすくなりました。育休プチMBAを続けているうちに当事者のトレーニングだけでは限界があることも痛感したので、復職者たちをマネジメントする側、つまり管理職や経営者向けの講座もラインナップに加えました。私一人では感じていた限界を小早川さんの協力や会社をつくることで突破できるということを実感しています。

株式会社ワークシフト研究所は育休プチMBAを続けるためのしくみとして作った会社なので、株式会社ワークシフト研究所の売上があがらないと、育休プチMBAを続けられなくなります。もちろんまだまだ経営は大変ですし、正直なところワークシフト研究所を作る前に個人で手掛けていた研修事業のほうが経済的には効率がいいです(笑)。でも私たちはワークシフト研究所が掲げている社会的なビジョンを実現したいし、少なくとも今日明日に事業を畳まなくちゃいけないという状態ではないので、しばらくは育休プチMBAも続けられそうだと感じています。なお2016年度からは、株式会社ワークシフト研究所の非営利独立事業として育休プチMBAを正式に位置づけて、育休プチMBA勉強会の監修をするというスタイルにすることにしました。

「計画された偶発性理論(プランドハプンタンスセオリー)」というキャリア理論がありますが、これは「キャリアの8割が予期しない出来事や偶然の出会いによって決定される」という前提で、偶然を意図的・計画的にステップアップの機会へと変えていくべきだという考え方です。ビジネススクールを卒業したときはまさか自分が起業するなんて思っていなかったし、妊娠したときは出産後にさらに仕事の幅が広がるなんて思っていなかった。2014年のみかさんとの出会いからずっと、“子どもを持ちながら働く”が本人・家族・企業にとって当たり前になる社会の実現への解決策の1つとして、この学習機会を維持するためにはどうしたらいいか?を考えていました。そして、その目的のもとに予期しない出来事や偶然の出会いを活かしてきた結果、会社をつくることになりました。

株式会社ワークシフト研究所とは、こうした経緯でできた会社です。皆さま、育休プチMBAともどもどうぞよろしくお願いいたします。

株式会社ワークシフト研究所 http://workshift.co.jp/

↑2015年3月の育休プチMBA報告会での、育休プチMBA・2014年度運営チーム集合写真。最前列左から3人目がみかさん、中列右から3人目が私、最後列左から2人目が小早川さん。

↑2014年の超初期の勉強会。このときは1年後に会社を作ることになるなんて、思ってもいなかった。

たぶん続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?