恐怖症にまつわる雑談

集合体恐怖症についてのインタビュー(上)



I:インタビュアー(飯島暉子:高所恐怖症/acrophobia・巨大物恐怖症/megalophobia)
K:インタビュイー(匿名:集合体恐怖症/ trypophobia)


他人の習慣


K「一番初めに思い浮かんだのが…人の服。」
I「ああ~」
K「なんだっけ…なんかの授業。英語かなんかわかんないけど、週に一回の授業に、ある人が毎週その日その時、蝶がたくさんついたレースの服を着て通っていて」
I「同じくらいのサイズの…」
K「同じくらいのサイズの、蝶だったと思うんだよね。でも平面じゃなくて、蝶の羽の部分は立体的だった。多分、たくさんの蝶が服の上を飛んでるっていうコンセプトなんじゃないかな。」
I「立体的なんだけど、素材はレースなんだ。ワンピースだった?スカート?」
K「白いトップスだった。だから、その柄がこっちはなんか気になる。でも服だから最初は偶然だろうと思ったけど、なぜか毎週水曜日に同じ服着てるの。(笑)」
I「なるほど…その気になるっていうのは、好き嫌いではなくて、ちょっと怖いなっていう恐怖心をおぼえた?」
K「そうだね。恐怖症って、ぞわぞわっていう擬音語が合う気がするんだけど、すごくぞわぞわする。」
I「うんうん…あとは、普段生活していて、突然ウッ!怖いって思う時って他にあるのかな。」
K「そうだね…なんかね、人間が作っているものであったほうが反応しづらいんだよ。例えば自然が生み出した集合体は、自分が制御できない感じがして怖いんだよね。それって多分、なんか集合体恐怖症って呼び名はあるけど、ある種の潔癖症なんだと思う。」
I「ふうん…」
K「あのー…ほら、人間がコントロールできることが良いってこと。人間のコントロール外にあるものに対して怖いっていうのは、潔癖なんだと思ってる。」
I「潔癖なんだ?」
K「…わかんない(笑)僕の理解では割と潔癖な感じ。一般的に呼ばれている潔癖症(不潔恐怖症)と全く同じ感覚かはわからないけど、汚れを“コントロールできないもの”として怖がっているんだとしたら、それはさっき言ったような潔癖なのかなって。
言い切れはしないけど、一般的に潔癖と呼ばれる人たちは、自分の内側と外側が結構区別されていて、外側の物を内側に入れたくないっていうか…入れられないのか、そういう側面があるのかなーって思うのね。
だからさっき僕が言った、人間が管理できないっていうのが、人間を“内側”で、自然を“外側”とすると、コントロールできない“外側”に対する恐怖は潔癖症なんだと思う。」
I「いまのは共感しやすかったかも。“内側”と“外側”っていうのが、潔癖症と呼ばれる人が設けているラインなのね。」
K「みんながそうかはわからないけど。」



マストとベター



I「今、こうして話を始める前に30分待ってもらったじゃない。さっきはちょうど自宅前についたばかりで、私帰宅したらすぐにシャワーを浴びる習慣があるのね。」
K「はいはい」
I「それは外の汚れを持ち込みたくなくて、コロナが始まる前から続けているの。」
K「ああそうか。」
I「でもその…決してマストではないというか、それをしなくてはならないわけではなくて…。一人の時にはそうするけど、例えば友人が泊まりに来た時とかだったら、汚れた格好のままリビングに行くだろうし。雰囲気の方を優先するんだよね。会話を楽しむというか。これは多分恐怖症ではなくて…自分では単なる好みになるのかなって思ってるの。そこまで強い恐怖を抱いていないというか。」
K「なんかさ、潔癖症とか恐怖症みたいなのってさ、多分こう…確実にグラデーションがあるじゃない。」
I「そうだね、グラデーションがあるっていうのは実感するかも。」
K「人とのコミュニケーションを優先させて、まあ絶対じゃないけど、やっぱり気になるっていうのは、もしかするとそのグラデーションの範疇にいるのかもしれないね。」
I「グラデーションについては体感として納得するところがあって、あのー、高所恐怖症も巨大物恐怖症も、今は結構顕著に出ているんだけど、例えば二年前だったらそこまで厳密には怖いと思わなかったというか…」
K「ハイハイハイ」
I「今ほど怖いと思わなくて、うーん…海外ってもっと日本よりも大きな教会とかさ、背の高いモニュメントとか作るじゃない?広場とかに。でもそれを見ていたときの、観光地としての思い出はあっても、恐怖対象として認識していた記憶はないんだよね。
それがいつからか、検索画面で見たら怖いなと思ったり、その、耐震構造とか見えて安心できない大きなものに対してはちょっと怖いなって思うようになってる。それって所謂グラデーションが濃くなってるんだと思うんだよね。」



一番初めの記憶



K「その話ってホントに難しいよね。例えば虫の話だとさ、ちっちゃいときから怖かったんだよね。でも集合体が怖いことと虫がつながったのがいつなのかはわからないけど、そもそも『集合体』っていう概念を知っている状態って、そんなに子供の頃では知識がないと思うから…。でも、さらにそれが潔癖っていう考え方とつながったのは、最近考えたことかな。」
I「ふーん…最近考えたっていうのは、」
K「最近考えたっていうのは、さっき話した、自分がコントロールできない異物に対する恐怖心っていう枠組みで考えたのは、わりと最近かもしれないってこと。」
I「あー、潔癖っていう判断と自分にとっての異物を感じる対象が何かを、最近になって結びついて考えられるようになったんだ?」
K「うん。」
I「虫が苦手ってことのさ、ショック体験があったとかはないの?例えばいちご狩りでもいですぐ食べようと思ったら、その表面に芋虫が付いていた。とかさ。」
K「虫に対しては、昔虫が怖いって話したときに、誰か…大人が返事したんだけど、人間が進化の過程で陸に上がった時、爬虫類はすでに陸で生活していたんだって。で、新しく現れた人間の祖先を、先に住んでいた爬虫類はいじめていたとか。っていう話を聞いたことがあって…」
I「大人からそういう話を聞いて、怖さを感じるようになったと。」
K「うん、印象に残ってるっていうくらいな程度だけど。」





2022年4月5日 通話
2022年6月16日 喫茶「阿蘇」にて

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