水どけの月

フィンランド語で3月は「まーりすくー」Maaliskuuという.氷がとけ、土(maa)が見えてくるということだそうだ。「くー」はKuuで、日本と同じ、そのまま「月」である。ちなみに11月は日本語にすると「まーらすくー」としか書けないの間違えやすいが、Marraskuuというのは「死の月」であって、できたら間違えない方がよいようだ。

タイトルに水どけ、と書いたが、溶けるのは氷ですよね。

今年は本当に「立派な冬」で「しっかりと」寒かったし、雪も降った。(日本語でよく使われる、立派な…しっかり・・・を使ってみた)まだ時々降っているが、名残雪、なんて柔いものではない。昨日は、おお道路が見えてきた、と思っていたが、朝起きたらおお、道路が白い、ということになる。

今まで大きな山になっていた雪は、休暇の間にけっこうどこかへさらって行かれた。雪かき専用車には大小あり、さらに、砂利まき車が活躍する。雪が多いころより、今の方ががっつりと砂利がまかれる。砂利と言うより小石である。気温がプラスになると、地面に積もった雪がとける。すると、非情にもシャーベット状になってしまう。氷の上では歩くことはできないが、シャーベットもなかなか手ごわい。こんなときこそ、小石がまかれていると、それに引っかかりができて歩くことができる。氷点下の夜には氷り、温度が上がるとシャーベット・・・3月いっぱいはこんな感じなのだろうか?なにせ昨年は雪が少なかったので、今年、冬を初めて迎えるような気さえしている。

学校は、1月から校舎ほぼ完成ということで、練習ができるようになった。コロナ解禁で対面レッスンもできるようになった。と思いきや、また使えなくなったりと、なにかと落ち着かない。現在は、両方であり、こうなってくると「今日はオンラインで参加します」と言う学生もいる。遠方の人、子供がいる人・・・そういう楽しい学校である。ちなみに、校舎が新装オープンし、その間使用していた向かいの学校の校舎が、今度は工事に入った。外壁はそのままで、中身をそっくり取り出している。毎朝、消防の車が止まっているのに感心する。中身をとりだし、新しい学生用住居にでもなるのではないかと思う。

私は寒いのが好きだ。それも-10度以下が好きだ。晴れていても天気が悪くても、写真を撮りたくなるのだが、手がしびれてくるときには、強制終了だ。凍傷になってはかなわない。子供の頃はしもやけとは当然のものであると思っていたが、今は、それは湿気が多いからだと思っている。さっさと手を乾かせば防げるのではないだろうか。フィンランドではそれは「数分の間」にやってくる。そろそろ手袋をしなくては、と思うときには、指一本感覚がなくなっていたりする。これで無事に冬を越した。

今、外で車の音がしていると思ったら、残った雪をさらいなおし、まとめる車が仕事をしていた。

水浴の話

さてフィンランドと言えばサウナが有名であるが、今年はキンキンに冷える国ならではのことをやってみた。水浴である。

凍った湖に穴をあけ、水に入る、もしくは泳ぐ。それだけのことであるから、自家用湖があれば、氷を割る労力で実現する。

公共で「湖に穴をあけたよ」という場所が提供されているので、一度人に連れて行ってもらい体験した後、申し込んだ。着替える小屋の中は暖かい。コロナのためそこに入れるのは、一度に3人まで。でも、水に入るのは、たいてい一度に一人である。私は平泳ぎが苦手だから、つかるだけ。プールに入るのと同じ階段が設置されていて、それも温められている。気温が低い間は凍ってしまわないように、けっこうな勢いで、水をかき混ぜているようだ。

小屋に入る前に、最初の全体の玄関のカギを、電話で開ける。電話がかかると、鍵が開く。その中には、ご夫婦の連れまちなのか、ベンチに座っている人もいる。待ち時間の間、門やら小屋やらで仕切られた空間から空と松の木を見て、写真を撮る。先日は「そこに何があるのか」と尋ねられた。「それはスオミの美があります」と、日本語にできない返事をした。「あなたは・・・日本から来た人だね」と質問が続いた。こういう会話はとても好きだ。ただし、ここでフィンランド語をほめられると、その直後から下手になる、と言う毎度の展開になる。答えを用意する時期に来ているのかもしれない。

ひとりで来ている人も多いし、グループの若い女子たちもいる。そのときは、いきなりにぎやかになったりする。体験しにきた友達に一生懸命説明している女子、自ら上がってくると、へへん!素敵でしょ!っていう感じなのが、なんともほほえましく思える(そんな私の年を感じるなあ)。

私にはマイナスの外気温に対する「寒い」という気持ちがぬけているようだ。寒いを通り越した冷たさは、なかなか気持ちがよい、何よりそうそう体験できることではない。だから水着に着かえてから水までの数mは気持ちよい。腰まで水にはいり、少し足をばたばたさせて、(動かないと凍りそうなので)階段を一段ずつおりる。なんとか、肩までつかると心臓が主張しだすので、とりあえず意識して息をしながら、とびはねることにした。これを10回くらい。そこまでできたら自分をほめて、階段を上がる。

風が吹いていると、寒い。

雪が降っている日も寒いが、風が一番つらい(ので避けている)。

日本で滝にうたれる修行よりは、寒くないと思う。

足にはシューズを履いていく。水のなかでは平気でも、そのあと足元が危なくないように。また手袋も一応買い、左手だけにはめている。この方が、階段につかまりやすい気がする。

水からあがって小屋にもどっても、寒い!とすぐ着替えたい気分ではない。零下の中、他の人が上がってくるのを見ていたら、全身から湯気がたっていた。自分の足を見直すと、真っ赤だったりする。いったいどういう仕組みなのだろう、正直、寒くないのである。ぽかぽかしてあたたかい、と言うほどではないのだが、パニックして着替えるにはほど遠し。

フィンランドらしいことであれば、この水浴に行くのもよいと思う。私はホテルのプールしか入ったことがなかったし、夏の湖で泳いだことはない。フィンランドの夏は私にはさほど暑くない。昨年に一度、海で泳いだ次の水体験が、この「開氷水浴」である。

生まれ変わる、という人もいる。

暖かい、という人もいる。

なにより、知らない人とヘイ!ヘイヘイ!を言い合えるのが楽しい。

外気温がマイナスのうちは、おそらく水の方が温度が高いことになる。そろそろ外気温はプラスの日が増え、(日中は、だが)水がもうしばらく冷たいことだろう。「私はどう感じるのだろう」と、今しばらく通いたいと思うのである。




 

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