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「シリマーの秘密」ロボットチャイルド1-2 パウリーヌ・テルヴォ作、戸田昭子 訳


もし自分の世界に逃げる時間があったなら、私は冷静に対応できる。落ちついて、全部を自分に調整できる。そう、耐えられる。そのときには、私は誰にもぶつかったりしない。私は人間としてのあり方を、興味のあることすべてと比較しながら、学ぶ。例えば、それは犬と星。何よりも最高なこととして、シリウス星について話したい。

1.私の名前が入っている。
2.おおいぬ犬座にある。
3.地球から見える星空で、一番輝いている星である。

星は重力のひとつのまとまりでくっついた、堆積を押しつぶしたプラズマの球体だ。人間と同じように、星にも進化の段階がある。星の場合、ある時、核融合反応が起きる。この私の本は、私が今何を生きているのか、星の年齢のように私の進化について描いている。あるいは、星からやってきた生き物について。まあ、そんなところである。

ところで、地球に一番近い星の名は太陽、ということをご存じだろうか? 私に一番近いところにいるのは父。次に近いのは母なのだけど、母は私の変わった性質に耐えられない。(その母のアレルギーのせいで私は犬を飼えない!)

私が自分の星の中にいるときには、すべてが順調だ。星は、内部の放射圧が崩壊重力を抑制しているときに均衡を保った状態にある。私たちは最後には皆、死んでいく。星も同じ。星の燃料が最後まで尽きたときには、もうすでに衰えているか、あるいは赤く巨大に広がっていく。

私は広がりたい。その場合にはこんな可能性がある。
A)宇宙へ向かって違う元素を広げながらすでにスーパーノヴァになって爆発する。
あるいは
B)数量次第では、中性子星かブラックホールをあとに残す。
「星からは、あなたはひとりも友達を手に入れられないわよ」と母は言う。
「誰でも自分の殻をもっています」と私は答える。

母は、ダイエット用品を販売している。すべての人生がダイエットだ。
「おかあさんも常に体重を減らさなくてはならないの?」私は尋ねる。
「もっとたくさんのこともね」と母は言う。

母は袋入り粉製食品と香水の香りを周囲に巻き散らかしている。香水なしの日を作ってほしい、と私は頼む。無臭のときの方が、たやすく息ができる。 母は理解しない。私は ひどい表現はしないが、どうやったら母にこのことが伝わるのかがわからない。もちろん私が喘息もちという証明はない。でもこんな強いにおいには耐えられない。私が思いついた事は、 臭いで中断する。考えは消え去る。

母の会社の事務所から、我が家では耐え間なく人々がざわめいている。私は文句を言う矛先を間違えている。私の非社会性の素質は、母からではなく、遠くからの遺伝に違いない。

話に戻ろう。私が夢に見る友達はどんな人であるべきだろう?

外見がクールで女らしくて、自分の道を行き、外国へ移住して仕事に成功する人々、という人々に、私は惹かれる。 特に、中身が美しい人に憧れる。(別に外見がきれいなことが悪いというわけではない)同じパワーが私にもあるといいな、と夢見る。

私たちの学校にはそういう人はひとりもいない。
あなたは、そういう人ですか?
「お前の考えは野生のとなかいみたいにはねまわってるな」と、父は言う。
私にはいろんな考えがありすぎて、その後ろでじっとしているのは難しい。
私はときどきそいつらに叫ぶ。「止まれ!」

私の周りは全部一瞬止まるけれど、考えの群れは、急いで道を行ってしまう。私は心底困っている。もうその考え達には二度と会わないかもしれない。一気に嫌悪感に襲われる。考えごとと一緒に落ちついていたいだけなのに。

騒音は私を不安定にさせる。ひとつも考えがまとまらない。考えが、 私の周りをまるで蝶のように取り囲む。一番いい考えを、私はキラキラした表紙のノートに書き出す。

ノートは、父からのプレゼントだ。
少し前、 12歳になったお祝いにもらった。
私の中の世界は、大きな財産だ。 父はそれを理解している。
父は、自分の蝶々を世話するように、と私を勇気づける。

何を着ているかということも次に大事だと思う。私はその中の人が、どんな人なのかに一番興味がある。気難しい人か、それとも温かい人だろうか?その人は他の人にもいい人であろうとする人だろうか?

私は同級生のようにおしゃべりができない。普通でいることができない。私は自分のことは好きではなく、こうなりたいと思ったことは一度もない。

両親はすべてを注意深く築いてきた。 リスクを避けてきた。
私が来る前は気をつけていたのだから
すべて順調で、何も崩壊しなかった。

  そして、私が生まれた。
「お前が来る前は、ここは家庭ではなく、単なる家だった」と父は言う。
でも私には、母の目に悲しみが見える。
私は知っている。母がどんなにか、騒音を我慢できる普通の子供を欲しがっていたか、ということを。大勢友達が来て、母親が部屋へジュースとお菓子を持っていける、そんな女の子を。

でも彼らの所へ来たのは私。私は静けさを切望する。
そんな時、私の考えは電線にずらりときれいに止まってる鳥みたいに設置されている。
あるいは枝に、各自が自分の場所にいるように、まさしく私が考えたように。

それらは私の悲しみのシンフォニーだ。
誰も聞いていない、美しくうつりかわる歌。
そしてもうすぐ母がドアを開ける。(おやすみなさいを言うために)

鳥たちは一斉に飛び立つ。月が空に昇る。お母さん、来ないで。泣かないで、やぎ座は消えただけ、と私は言う。何をブツブツ言ってるの?と母が聞いてくる。泣かないで、蝶たち、私は言う。私はカーテンを開ける。見て、きれいな月。また今から始めるつもり?と母は言う。母は頭を横に振る。お休み、と言い、上がっていく。出て行った後、ドアを閉める。

人生は、想像より美しい。頭の中であなたは空を描くことができ、私は母の後ろでささやく。どこかで本当の小鹿が生まれ、あなたはかつてなく美しい。


「シリマーの秘密」第一章ロボットチャイルドはまずこちらからどうぞ。
ロボットチャイルド① 

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