2-3_血管の話

2-3 点滴と血管に纏わるお話

点滴スケジュール

髄液検査で重度の低髄圧であることが確定してから、生理食塩水の点滴が始まった。低髄圧の治療はまずはこの水分補給と臥床安静を続ける「保存治療」からスタートする。すでに自宅で嫌というほど「安静」にし、自分なりに「水分補給」してきたので、正直すぐにでもブラットパッチ(自己血液で硬膜損傷個所を塞ぐ治療)をしてほしかったが、いきなりそうはいかないらしい。

3月4日~3月18日【15日間】
点滴量 500ml×2 
滴下スピード 200ml /1H  点滴時間 5時間
3月19日~24日【6日間】
点滴量 500ml×1
滴下スピード 100ml /1H   点滴時間 5時間

上記のスケジュールでトータル3週間点滴が続いた。水分補給をすることで、髄液の生成を促し、漏れ出ている髄液をカバーするという方法なのだが、即効性があるわけではない。とはいえ、この原始的な方法で最終的には完治できたのがありがたい。

滴下スピードについて

前半の15日間はやや早めの滴下スピードだった。あまり長時間点滴チューブがつながっていると、食事やトイレの時に不便であろうという医師の配慮であったようだが、ハイスピード点滴は血管への負担が大きい。点滴の滴下速度は薬剤により1時間当たりの最大滴下量が決まっており、生理食塩水の場合は500ml/1Hだ。なので、最大スピードではないものの、500ml/1Hを滴下するのは重度の脱水症状の人とかだと思うので滅多にあることではないと思う。看護師さんたちからは、「かなり早いペースで落としている(点滴を滴下している)ので痛みが出るかも」と言われ、結構ヒヤヒヤしていた。

看護師さん泣かせの脆弱な血管

私の両肘内側には採血向きの太いイイ感じの血管があり、健康診断のたびに、「私は看護師さんに優しいな」なんて勝手に思っていたが、点滴は別物だった。通常、肘から手首までのどこかで血管にチューブをいれて点滴をするが、私の腕の表面にはそんな血管がさっぱり見えない。血管を探すのも一苦労だし、点滴のルート確保も大変で、一番細い針がやっと入る程度の細さ。さらに、このハイスピード点滴に血管が耐えられず、たびたび「点滴漏れ」による内出血を起こした。「点滴漏れ」は血管の損傷により、薬剤が漏れてしまうことを言い、そうなるとまた点滴のルート確保からやり直しだ。しかも痛い。竹輪の穴にキュウリを入れたら、意外とキュウリが太くて竹輪の入り口が裂けたような状況だ。

暇人な私は、すかさず点滴漏れを検索するのだが、今回は生理食塩水であったからよかったものの、抗癌剤の場合は漏れた個所が壊死する場合もあるそうだ。2人に1人は癌にといわれる中、もし自分が抗癌剤治療が必要なときは、この血管の脆弱さを医師に伝えておかないと副作用のほうが怖いぞ、などと冷静に色々と考えていた。後に恩人のM先生のブログで「CVポート」という体内にシリコンゴムとカテーテルを埋め込み、点滴ルートを確保する方法があることを知り、現代医療の進歩はなんと素晴らしいものかと思った。

血管の脆さもさることながら、皮膚もあまり強くないため、チューブを止めるためのテープが地味にダメージが大きい。点滴後半戦に入るころには「かぶれ」がひどく消毒のアルコール綿がピリピリした。点滴漏れの内出血も重なり、腕の状態は本当にボロボロで、おりしもピエール瀧さんの覚せい剤使用による逮捕なども重なり、なんだか変に時流に乗っていた。

頻尿注意報

点滴開始から急激に起きた変化は「頻尿」だ。点滴中は1時間に1回は催す。ただでさえトイレに行くという行為は激痛だというのに、頻回となると拷問である。普通に水を飲むより、直接血管に生理食塩水を入れるほうが、体内の循環スピードが速いというのを身をもって実感する。そして、自宅療養中に脱水状態で細々としか出なかった尿が通常の勢いを取り戻し、点滴開始初日に、おそらく脱水状態からは抜け出した。あくまで体の状態から見た主観でしかないのだが、少しでも快復に向かっていると感じられるのは嬉しいことだ。

床と天井だけをみるシュールな日々

入院前半のしんどさは、文字通り「見えている世界が狭い」ことだ。

・ベッドの上でゴロゴロする(廊下側なので窓が見えない)
・トイレに行く(頭を下に下げて床だけ見て歩く)
・検査に行く(ストレッチャーで連れて行ってもらう)
・入浴介助してもらう(ストレッチャーで連れて行ってもらう)

本格的なリハビリが始まるまでは、見えるのは「床」と「天井」のみ。空も見えなければ、外の空気も感じず、季節の移ろいなんぞ知ったことではない。病室とトイレの往復しかしていないので、ナースステーションの場所さえも分からない状態だ。

3月になると毎年東日本大震災のことが特集されるが、今、災害が起きたら自分はどうなるのだろうと思った。病院で患者を避難させる場合、ストレッチャーに乗せてもらえるのは集中治療室にいる重篤な人か、手足が完全に麻痺して自力で動けない人だろう。私は痛みこそひどいものの、手足は動き、意識は明瞭なので、自力で動かねばならないリストに入るはずだ。頭を下げていればなんとかなるとはいえ、走ることはできないから津波がきたら、絶対に逃げられないよな・・・。と思いながら3月の前半を過ごした。

点滴の効果を少しだけ実感

点滴の効果は少なからずあった。開始から4日目には、頭を起こせる角度が90度→45度へと少し上向いた。トイレへは点滴スタンドを杖のようにして下を向き、看護師さんに付き添ってもらっていたが、頭を少し起こせることになって、正面衝突が回避できるレベルになったので、トイレへの付き添いは無しでもよいと伝えた。ナースコールを押すのが面倒だった私にとって、一つ山をクリアした気分だった。

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