一人ひとりに合わせた学び: AIを駆使した個別最適化学習シラバスの考察
今朝、「教育活動に生成AI活用へ 成果報告会で各校が取り組み事例報告」というNHKのニュースがあり公立学校でも徐々にAIが取り入れ始めている様子が記事になりました。
現代の学校教育では、全員が一律のカリキュラムを学ぶことが一般的です。しかし、個々のニーズに合わない教育に落ちこぼれていく生徒、また逆に進み具合の遅さに生徒が満足せず、塾の宿題を「内職」のように処理する現状があります。完全パーソナライズされた学習シラバスを作るには、AIが鍵となるのではないでしょうか。
このNoteでは各国の現状と日本が完全パーソナライズされた学習シラバスを導入するにはどの様な障壁があるのか考察していこうとおもいます。
教育活動での生成AIの活用に関する幾つかの事例や考え方
一つの事例として、ICT教育ニュースでは、教育現場でのAI活用に関して具体的な取り組みが紹介されています。
千葉大学教育学部教授の藤川大祐氏によるブログでは、生成AIを活用した学習方法について深く掘り下げています。彼は、生成AIを用いることで、高校までの教育内容や大学の一般教養程度の学習を、一人で迅速に進めることが可能であると述べています。
特に、言語や国の壁を越えて、世界中の教育方法について質問し、習熟に必要な練習問題を解くことができる点を強調しています。また、生成AIとの協働による学習は、従来の学校教育では実現しにくかった新しい形の学び方を可能にするとしています。さらに、生成AIを活用する上で、鋭い質問をすることの重要性や、プロンプトエンジニアリングとの関連性についても言及しており、質問する技術の向上や、それを通じての学びの深化が可能になると考えています。
義務教育期間に学習速度の個別調整をする国しない国
日本の生まれ年から数え一律に同じ学習指導要領を学ぶ制度ではほとんど留年も飛び級もないため、落ちこぼれていても、簡単すぎてもはや授業中に別のものを自主的に学習していても不動のカリキュラムは変わりませんが各国の事情は違います。
留年制度を設けている国
世界的に成績維持(グレードリテンション、すなわち留年)を実践している国々には様々な例があります。以下は成績維持を実践している国々の例です:
アルゼンチン:アルゼンチンでは全学年で成績維持が考慮されており、小学校では数学、言語、社会科学の基本領域のいずれかで不合格となった場合、生徒は留年します。中学校では、生徒は2科目まで不合格であれば進級が許されますが、3科目以上不合格の場合は留年が必要です。
オーストラリア:2010年までは成績維持が用いられていましたが、ニューサウスウェールズ州の教育訓練省は、学生の留年を学校ではもはや許可しないという政策を実施しました。
ニュージーランド:成績維持はほとんどの例外的な状況を除いて、実質的に廃止されています。代わりに、能力に基づいて子どもたちを異なるクラスに分ける内部学力分けシステムが一般的です。
ヨーロッパの多くの国々(オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン、スイス)では、一般的に成績維持が行われています。
ギリシャ:学生が最終試験で5科目以上不合格の場合、または5月と9月の試験で5科目以下不合格の場合、または授業を114時間以上欠席した場合に成績維持が許可されます。
アメリカ合衆国とカナダ:両国とも成績維持を実践しています。特にアメリカでは、6歳の生徒が最も留年されやすく、12歳の時にも留年の可能性が高まります。
飛び級制度を設けている国
飛び級(グレードスキッピング)を実施している国に関して、先ほどの情報に基づくと、以下の国々で飛び級が一般的または可能とされています:
シンガポール:シンガポールでは、成績が不十分な生徒は、二次教育で成績維持が行われることがあります。ただし、学校当局は生徒がより低いストリームの高いレベルに進む方が適切と判断する場合もあります。飛び級は、特にジュニアカレッジで一般的です。
香港:香港では、小学校および中学校で、生徒が再試験でも不合格の成績を取った場合に成績維持が実施されますが、これは飛び級の機会に影響を与える可能性があります。
アメリカ:アメリカでは、学校によっては飛び級が認められています。学生が特に優秀で、全ての科目で進度が速い場合に限られますが、飛び級はコスト効果が高い方法と見なされています。学生が異なるクラスに割り当てられるだけで、特別な教材やチュータリング、別プログラムにかかる費用は発生しません。
日本のような生まれ年一律学習指導要領が定められている国
日本のように、生まれ年から数えて学習指導要領が定められており、全国で統一されたカリキュラムに基づいて教育が行われている国は多数存在します。こうしたシステムは、特に年齢に基づく学年制度を採用している国々で一般的です。以下は、日本と同様に年齢に基づいた教育システムを採用している国の例です:
イギリス:イギリスも生まれ年を基にした学年制度を採用しており、国全体で教育カリキュラムが統一されています。特にイングランドでは、国立カリキュラムに沿って教育が行われています。
フランス:フランスでは、生まれ年に基づいて学生を学年に割り当てる制度があり、国全体で統一された教育カリキュラムに従って教育が行われています。
オーストラリア:オーストラリアも生まれ年に基づく学年制度を採用しており、各州や地域によってカリキュラムの詳細に違いはあるものの、基本的な枠組みは全国で共通です。
教育カリキュラムが国や地域のレベルで統一されていない国
先進国の中には、義務教育期間における教育カリキュラムが国や地域のレベルで統一されていない場合があります。これは、教育制度が地方分権型であるか、州や地方政府が教育に関して高い裁量を持っているために生じます。以下は、そのような特徴を持つ国の例です:
アメリカでは、教育制度が州によって大きく異なり、各州が自らの教育基準やカリキュラムを設定しています。これにより、全国で統一されたカリキュラムは存在せず、州や地方の教育局が個別にカリキュラムを決定しています。
カナダもまた、教育は各州の管轄下にあり、各州が独自の教育カリキュラムを持っています。これにより、国内で教育内容が地域によって異なる場合があります。
ドイツの教育システムは連邦制に基づいており、各州(ランド)が教育政策を決定しています。そのため、カリキュラムや学校制度に関して州によって違いがあります。
スイスも連邦制国家であり、教育はカントン(州)の責任であり、カントンによって教育制度やカリキュラムに違いがあります。
アメリカの地方分権型の教育制度
アメリカ合衆国における教育システムは、地方分権型であり、州ごとに教育の管理と運営が大きく異なります。
義務教育の学習指導要領(カリキュラム)は、一般的に州の教育省や教育委員会によって設定されますが、具体的なカリキュラムの実施方法や日々の教育内容(シラバス)の詳細は、地域の学区や個々の学校に大きな裁量が与えられている場合が多いです。
州は教育の基準や必須科目、学力評価のための標準化テストなどの枠組みを提供します。これにより、全州の学生が最低限の教育水準を満たすことを保証します。しかし、州が設定するこれらの基準や枠組みの中で、各学区や学校は自らのニーズや地域社会の特性に合わせて、教育プログラムや教育方法を柔軟に調整することが可能です。これにより、教育の質や焦点は地域によって異なり、多様性が保たれています。
また、公立学校だけでなくチャータースクールやマグネットスクール、プライベートスクールなど、さまざまなタイプの学校が存在し、それぞれ独自の教育カリキュラムを提供していることも、アメリカの教育システムの特徴の一つです。特にチャータースクールやマグネットスクールは、革新的な教育プログラムや特定の学問分野への特化を目指して設立されることが多く、これらの学校では独自の教育方針やカリキュラムが採用されることがあります。
完全パーソナル学習シラバスの導入可能性:日米比較
上記で説明したアメリカの地方分権型教育システムには比較的AIよる完全パーソナル学習シラバスが導入が用意である事が示唆されます。日米の比較を見ていきましょう。
アメリカ
アメリカ合衆国の教育システムの特性は、AIによる完全パーソナライズされた学習シラバスを導入しやすい環境を提供しています。以下の理由により、AIを活用した個別化された学習プログラムの導入が促進される可能性があります:
地方分権型の教育システム:アメリカの教育は、州や地域、学校に大きな自由度と裁量権が与えられています。この柔軟性により、新しい教育技術やアプローチを試しやすい環境があります。
教育への革新的な取り組み:アメリカでは、チャータースクールやマグネットスクールなど、特定の教育目標や特色を持つ学校が革新的な教育プログラムを導入することが奨励されています。これらの学校は、AIを含む新しい技術を教育に取り入れる実験場となることが多いです。
テクノロジーとの親和性:シリコンバレーをはじめとするテクノロジー産業の発展により、アメリカでは最新技術へのアクセスが容易であり、教育分野でも先進技術の導入に対する関心が高いです。
個別化学習への需要:多様な学習ニーズを持つ生徒がいる中で、個々の生徒に合わせた学習プランの需要が高まっています。AIによるパーソナライズされた学習は、生徒一人ひとりの理解度や興味に合わせて学習内容を調整できるため、効果的な教育手段として注目されています。
教育技術(EdTech)産業の成長:教育技術の分野では、AIを活用した学習プラットフォームやアプリケーションが次々と開発されています。これらの技術は、学校だけでなく家庭での学習にも適用可能で、よりパーソナライズされた教育経験を提供します。
日本
日本のように生まれ年から数えて完全に学年固定の学習指導要領を設定している国でAIによる完全パーソナライズされた学習シラバスを導入する場合、いくつかの障壁が考えられます。これらは、教育システムの構造的な特性、文化的な要因、技術的な課題など、多岐にわたります。
教育システムの構造的な障壁
教育政策とカリキュラムの統一性:日本の教育システムは、教育基本法や学習指導要領によって統制されており、全国で統一された教育内容が定められています。AIによるパーソナライズされた学習を導入するには、これらの枠組みの中で柔軟性を持たせる必要があります。
教員の役割と準備:現行のシステムでは教員が学習内容や進度を管理しています。AIによるパーソナライズ学習への移行は、教員の役割の変化を伴い、適切な研修や技術への理解が求められます。
文化的な障壁
教育観の変化への抵抗:日本の教育には「画一的な教育」への強い傾向があり、個々の学習ニーズに対応した教育への移行は、教育に対する従来の観念を変える必要があります。
保護者や社会の受容性:AIによるパーソナライズされた教育への移行は、保護者や社会全体の理解と支持を必要とします。新しい教育方法への不安や疑問を払拭するための広報や説明が重要です。
技術的な障壁
データプライバシーとセキュリティ:生徒の学習データをAIシステムで扱うには、プライバシー保護とデータセキュリティの確保が不可欠です。適切なデータ管理と保護の枠組みを構築する必要があります。
技術基盤の整備:全生徒にパーソナライズされた学習経験を提供するためには、高度な技術基盤と十分なITリソースが必要です。学校によっては、必要なハードウェアやソフトウェアの導入、高速インターネット接続の確保など、大規模な投資が必要になる場合があります。
アクセスの平等性:技術的なリソースへのアクセスには地域間で格差が存在します。すべての生徒が平等にAIによるパーソナライズ学習を受けられるよう、地域間の格差を是正する施策が必要です。
「GIGAスクール構想」その先
文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」は、児童生徒一人ひとりに端末を配布し、個別最適化された教育の実現を目指すという大規模なプロジェクトです。この構想により、学校でのICT(情報通信技術)の利用が促進され、教育のデジタル化が進んでいます。端末の整備は、学習の機会均等を図る上で非常に重要な一歩となりますが、いくつかの課題も指摘されています。
アクセスの平等性について
GIGAスクール構想により、学校での端末利用に関しては大きな進歩がありましたが、自宅での学習環境に関しては、まだ解決すべき課題があります。具体的には、以下の点が考えられます:
自宅でのインターネット環境:端末を持っていても、自宅での高速インターネット接続がない場合、オンラインでの学習資料へのアクセスやリモート授業の受講が困難になります。特に地域によるインフラの格差や、経済的な理由で高速インターネットサービスを利用できない家庭では、学習機会に影響が出る可能性があります。
学習環境のサポート:自宅での学習を進めるためには、端末の操作方法や学習アプリの使い方を理解する必要があります。これには、保護者の理解とサポートが必要ですが、すべての家庭で十分なサポートが提供されるとは限りません。
解決策と取り組み
公共のWi-Fiアクセスポイントの整備:自宅でのインターネット環境が整っていない児童生徒が、地域の公共施設や学校でインターネットにアクセスできるよう、Wi-Fiアクセスポイントの整備を進める取り組みがあります。
教育向けの通信費支援:経済的な理由でインターネット環境を整えられない家庭向けに、通信費の支援や割引プログラムを提供する取り組みも一部で始まっています。
ICTリテラシーの向上:児童生徒だけでなく、保護者や教員向けのICTリテラシー研修を実施し、デジタル学習環境を活用するための知識とスキルの向上を図ります。
GIGAスクール構想からAIによる完全パーソナライズ学習までのロードマップ
GIGAスクール構想の実現により、全児童生徒に端末が配布され教育のデジタル化が進展しました。この基盤を活用しAI技術を組み込んだ完全パーソナライズ学習への移行は、以下のようなステップを踏むことが考えられます:
GIGAスクール構想の完全実施:全生徒に端末を配布し、基本的なデジタル環境を整備。
教育用デジタルコンテンツの充実:多様な学習スタイルに対応した教材の開発と配布。
ICT活用能力の向上:教員と生徒のデジタルリテラシーを高める研修プログラムの実施。
データ駆動型教育の導入:学習管理システム(LMS)を用いた学習進度の追跡と分析。
AIによる個別最適化学習の開発:生徒の学習データを基にしたAIアルゴリズムの開発。
パイロットプロジェクトの実施:限定的な学校やクラスでAI学習システムのテスト運用。
フィードバックと改善:パイロットプロジェクトからのフィードバックをもとにシステムの改善。
全面的な導入と評価:成功したAI学習システムを全校に拡大し、その効果を定期的に評価。
このロードマップは、個々の学習ニーズに対応する教育システムへと段階的に移行していくための指針となります。各ステップは、技術的な準備だけでなく、教育コミュニティの理解と協力を必要とします。
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