ショートショート 6/7 「社長」

 私は会社で昇進をするために必死に生きてきた。若い頃は無理が効くのをいいことにほとんど休まず働いていた。40代の頃に役職を与えられると同時に体にもガタがきて、一人で家のことをするのが大変だと感じた頃に一生を過ごしてもいいなと思える人と出会うことができ、プロポーズをした。その後子供も生まれ、昇進も上手くいき、「代表取締役社長」の地位まで昇り詰めることが出来た。

自分の最大の目標であった代表取締役社長になることは出来た。しかし、私は会社のために毎日働いてきたのだが、どうやら保守的な経営というのが私の根本にあるらしく、私主導の元では業績を保つことは出来るがこれ以上伸ばすことは出来ない。

「社長」という肩書は時に邪魔をすることがある。ある会議の際に取引先様とのこれからを考えるというテーマで話した。順調に社員の皆が話し合いを進めてはいるが私の顔色、話し出すタイミングを窺っているように思える。アイデアが交錯する中で私もアイデアを出すと、それに決まってしまうなどという事が起こる。


勿論、風通しの良い会社を作るために、私自身も態度や振る舞いに気を付けてはいるがどうしたものか。


だが、家に帰ると何を言っても大きな声で否定してくる妻がいる。この場所では社会人1年目の気持ちが蘇るとともに、なぜか居心地の良さを感じる。

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