ショートショート1/7　「忘れ物」

　電気を付けていつもの（淡泊な）部屋が姿を現す。スマホの時計を確認すると20時50分。金曜日だというのに残業をさせられ、少し気分が落ちていた。プレミアムフライデーとは何なのかと思う。コンビニで買ってきた親子丼をレンジで温めてから、スーツを脱ぎ手を洗うこのルーティンはいつからだったかなと思いふける。

「おかえり。ご飯できてるよ。」

レンジから親子丼を取り出し、ビールを飲んでから食べ始める。ご飯の感想を言い合いながら食べることは、食事を何倍も楽しくすることを知ってしまったから、こうやって一人で食べるのは虚しいと感じるようになってしまった。食事は空腹を満たすための行動だと言う人がいるけれど、自分がそちら側の人間だった。早く、効率的に食べるのが一番理にかなっていると思っていたが、どうやら食事は思い出になりうる大切な行動だと知った。

寝る前に本を読むと寝付きが良くなるので、中学生からの習慣になっていて毎日している。さて、もう眠くなってきた。栞を挟み本をしまう。寝ようとするが犬の形をした栞が浮かび上がってきて、なかなか寝付けない。

「これ、あげるよ。何でもない日だけど。」

土曜の朝は決まって散歩だ。2日ある休日のスタートは気持ちよく切らなければならない。自分では絶対買わないであろう赤いNIKE靴を履いて出掛ける。