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最後に見たのは……。

 抜けるような青空はいつ見ただろう。

 私はまた曇ってきたどす黒い空を仰いだ。火曜日は確か難聴の再検査に行ったはずだ。その時に傘はさしていなかった。

 「道哉、週末、空いてる?」

 私は友人以上、恋人未満の男友達に電話をして尋ねた。

 「なんだよ、またどこかへ車で連れて行けっていうのか?」

 「そう、なんでわかったの?」

 私は笑いながらスマホを耳に当てていた。

 8月は私の誕生日なので免許の更新が迫っていたので、真夏になる前にさっさと済ませてしまいたかった。

「 駅前の免許センターについてきてほしいの」

「そのあと、ホテルランチバイキングを奢ってくれるなら行くぜ」

 中学の時の同級生だった道哉、その時は話すことなど全然なかったのに、卒業して10年も過ぎたときに同窓会があり、不思議と雑談で盛り上がってからアドレスを交換した。彼は自動車の整備士をしていた。

 私は病院の受付や医療事務の仕事をしているが、そろそろ辞めたいと思っていたところだった。辞めて何をするかなど全く何も考えていなかった。25歳という中途半端な年齢にもうんざりしていた。

 付き合っていた大学時代の玲人はものすごい薄っぺらい男だった。なんでこんなに薄い中身のない男のことが好きになったのかも、今では何も覚えていない。僅か1年だけの付き合いだったが、バカみたいに楽しかった。

「おい、聞いてるのか、沙奈恵」

「ああ、ごめんなさい」

「何時だよ、おまえんちにいけばいいんだ?」

「9時ごろかな」

「早いな、日曜だろうが? 最近リコールや車検が立て込んでいるんだけどな。早い話忙しい、残業で9時まで仕事してるんだ」

「じゃあ、いいわよ。一人で行くわ。ゆっくり寝て。終わったら昼ご飯をマックでも買っていくわね」

「いいや、ホテルのランチバイキングの方がいい」

 沙奈恵は病院で提携ホテルのランチの券の期限がぎりぎりなので事務長から内緒でもらったのだ。


 当日の朝は青空だった。

 抜けるような空に白い雲が浮かんでいた。

 道哉は欠伸をしながら待合でぼんやりとスマホを見ていた。

「さあ、いこうか。久しぶりにおいしいもの 食べられる」

「この青空も貴重じゃない? あんたの部屋の掃除と洗濯してあげる」

 にっこりと微笑んでエビフライや、ローストビーフを並べて目がランランとしている道哉はまるで餌の時間のマメシバのようだ。

 私は笑いながらサンドウィッチをつまんでいた。

「日曜の朝は一緒に起きてこうして飯、食えると楽しいだろうな」

 道哉は私の前に紅茶とアップルパイを置いた。

 水色の小箱をポケットから出して、私の膝に置いた。

 これって、たぶんティファニーの……。

「残業頑張って買ったんだ。高いな。こういうの、ネックレス」

 空の色も箱も抜けるような水色。


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