これでも女なのですが……

「なあ、絶対この人男やんな?」

「……。たぶん男やな」

 私は真後ろの男女のカップルは小さい声で会話をしているつもりなのだろうが、私には聞こえているのである。今はソーシャルディスタンスなので人と人とが離れているのは常識となっているが、このころはそんなことお構いなしの時代。

 私は結婚して一年以内の新妻で左手の薬指には輝く指輪も彼らには見えていないのだろう。隣には結構ガタイの良い5歳年上の夫と今日の探し物について売り場の中を会話しながら歩いていたのだ。

 いくら新婚でも手を繋いだり、腕を組んだりしないドライな私たち。

 新婚のオーラは彼らには映らないのか、私たちに魅力がなかったのだろうか?

 全く情けない、いわゆるブラックな過去だが私の記憶から消えることはない。最後にあまりにもムカついたので、いきなり立ち止まった私はその後ろの二人に向かって、

「そうやねん、男やねん。わるい?」

 と、言うと何も言わずに走って逃げた。

 しかし、それから年月が流れて今は電話で勧誘の愚か者たちは私の声を聴いて「ご主人ですか?」「坊ちゃんですか」

「おじいちゃまですか?」

 もう無法ものの集まりなのか、私が男なのか意味が分からない。ただしっかりとした大きな娘は23歳になり、散歩する犬にも人気だが最近は歩いていても男に間違えられることはない。

 この先どんどん衰える私はどんなおばあちゃんになるのだろう。やはりおじいちゃんになるのだろうか?

 あの時の二人は今はジェンダーフリーな世の中になったことを理解できているだろうか? 人にやさしくなっていてくれればよいのだが……。

 男も女もみんな自由でみんなそれでいいのだから。

 生まれてきたときと違う性別もその人らしく生きることができる、そんな世の中になってきたように見えるが、まだまだこれからだ。

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