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連載小説《完結》 『エフェメラル』

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人類が宇宙に進出して数百年。惑星間物流トラック運転手のエマの船に乗り合わせた土星区出身の謎多き少女ユーヒ。旅する二人の行く先々で起こる様々な事件。『月の女王』の命により降り立った…
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連載小説『エフェメラル』#13(最終話)

第13話(最終話) 旅の終わり  ジルはミジュの処置のために部屋に残った。ゲンソウ、レニー、リン、そしてラウラはミジュの部屋から出てゲンソウの執務室に向かった。4人は執務室のソファーに座ってジルが戻ってくるのを待った。 「ラウラ様の復活までに、あまりに多くの時間がかかり過ぎたのかもしれません」  ゲンソウが低い声で言う。 「いえ、そんなことはありません。ミジュも私も、今日の再会の喜び、そして別れの悲しみのためにこの数百年を過ごしてきました。結局、私たち人間はこの一瞬に

連載小説『エフェメラル』#12

第12話 さよなら青い星   学校から寺院の駐車場にとめられた軍用車両に戻ったエマとラジャンは、車両の通信機から着信音が鳴っていることに気がつく。エマが車両に乗りこみ、通信機の通話ボタンを押す。 「エマだ」 『あ、やっと繋がった。船にも連絡したのに、あなたたち一体どこに行ってたの!』  通信機越しにもジルの焦りが伝わってくる。 「あたしとラジャンはさっきまで学校に行ってた」 『どうして学校? まあそれはいいや。ユーヒちゃんはどこにいる?』 「ユーヒたちならレニーとリン

連載小説『エフェメラル』#11

第11話  起源 「こうして出会えたのも何かの縁です。今夜は楽しみましょう。乾杯!」  カノアの掛け声で宴が始まる  ユーヒたちがジンバラに着いて二日目の夜。翌日には目的地のE―6地区のラーニに出発することとなっていたユーヒたちのために、村長のカノアが自宅でささやかな宴を開いた。  宴にはカノア一家、近隣の二家族、そしてユーヒ、エマ、リン、ラジャン、レニーの5人が参加した。食卓には季節の野菜、果物、海で獲れた魚介類の料理が並ぶ。自家醸造された麦酒、蒸留酒も振舞われた。  

連載小説『エフェメラル』#10

第10話  再生体と人工身体  地球に到着して目的地であるラーニに向けて出発したユーヒたちは、海賊を名乗る集団に拉致され、彼らの住んでいるジンバラという名の村に連行された。宇宙当局の管理区域であるE―6地区以外に人は住んでいないということになっていたが、実際にはジンバラのような村はかなりの数、存在しているようだった。ユーヒたちを迎えたジンバラの村長であるカノアは、管理区域外に点在する村々の総人口は、管理区域であるE―6地区の人口を上回っていると説明した。  村に到着して二日

連載小説『エフェメラル』#9

第9話  宇宙と地球      額に銃口を突き付けららたエマは、銃を持つ銀髪の女を睨みつけて言う。   「残念ながら、あたしたちは物資の輸送で来てるんじゃない。渡せる物は何もない」    銀髪の女は薄ら笑いを浮かべながら銃口をより強くエマの額に押し付ける。   「じゃあ、何しに来たって言うんだい?」    銀髪の女の言葉にレニーが答える。   「我々は月のマイルス商会から来た。目的は、Eー6の首都ラーニに行くことだ」   「マイルス商会? 宇宙屈指の大企業が、こんな小隊で来

連載小説『エフェメラル』#8

第8話  意味と価値  軌道エレベーターの出発から2時間以上が過ぎた。宇宙と地球との間に明確な境界線はなく、エレベーターは乗車している誰にも気づかれることなく地球の空に入り込んでいた。 ――あと40分で地球駅に到着します。  エマの船の寝室でうたた寝をしていたユーヒは、車内アナウンスの声で目を覚ました。寝室からリビングへと向かう。リビングでは、エマとレニーがコーヒーを飲んでいた。 「おはよう、エマ。もうすぐ着くんだって?」 「ああ。お前が寝てる間に、もう大気圏に入っ

連載小説『エフェメラル』#7

第7話  望郷    エマとユーヒが施設を訪ねている間、マイルス商会本部にあるゲンソウの執務室では、今後のリンへの対応について、ゲンソウ、レニー、ジルが話し合いを続けていた。ゲンソウがジルに質問する。 「リンの今回の行動、ジルはどう思った。素直な意見を聞きたい」 「それは、自分がリンをよく知っている立場であるということを前提に答えてもよろしいでしょうか?」 「それでいい」  自分の答えがリンの処遇を決めるかもしれない。ジルの頭の中をそんな思いがよぎる。しかし、自分

連載小説『エフェメラル』#6

第6話  深層    ラウラ。ユーヒには覚えのない名前だった。しかし、その名を聞いた時の心のざわつきは否定しようもない事実だ。 「ラウラって、誰?」  自問のはずが、ユーヒは心の声をそのまま口にしてしまう。ユーヒがその名を知らないと分かったラジャンは、慌てて答える。 「いや、何でもないです。忘れてください」  ユーヒは自分を落ち着かせるため深呼吸し、目の前にいるラジャンを観察することに集中する。褐色の肌、墨で描いたような黒髪。椅子に座っているため、背丈がどれほどな

連載小説『エフェメラル』#5

第5話 再会     ユーヒは二重扉で仕切られたクリーンルームの中にいた。ユーヒの意識が戻ったとの連絡を受け全力で駆けてきたジルは、ユーヒの姿をガラス越しに確認する。ボンヤリとした目つきだが、ユーヒの目はしっかりと周囲を認識しているようだ。ユーヒの治療にあたった担当医師の説明では、身体機能、脳波とも異常なく、数日後には話せるようになるとのことだ。その言葉を聞いたジルは安堵した。まずは一つ峠を越えた。現状を月の本部に伝えなければならない。気を引き締めなおし、施設の通信機器を使っ

連載小説『エフェメラル』#4

第4話 宴のあと(後編)  船の外はとても静かだった。施設を襲撃した一団は、施設に常駐しているマイルスの軍に鎮圧されたのだろう。負傷したユーヒと少年は今、薄い青緑色の液体に満たされたカプセル型の箱の中にいた。硬化ガラスがはめられた箱の一部から、二人の首から上だけが見えている。二人が入った箱は、エマがマイルス商会から運搬を依頼されていた医療用の機械だった。   「二人とも外傷は少ないけど、内部のダメージが相当大きい。特に男の子のほう。ユーヒちゃんもきちんとした施設での治療が必

連載小説『エフェメラル』#3

第3話 宴のあと(前編)   「っていうか、ちょっと、酒、持ち込みすぎなんじゃねえか?」    エマは自分の船の中で開かれている宴会を、他人事のように眺めながら言った。再びエマの船に乗ることになったユーヒは、お酒が入ってご機嫌なジルと一緒になってお喋りをしてはゲラゲラと大声で笑っている。  月を出発したその日の夜、エマの船の新たな同乗者となったジルは、「せっかくだから、歓迎パーティーやろう!」と自ら言い出したのだ。   「エマ、別にいいじゃないの。これは私がみんなに飲んだり食

連載小説『エフェメラル』#2

第2話 月の女王   火星を出発してから2か月が過ぎた。先日の騒動からすでに3週間経っている。謎の集団に襲われてからしばらくの間、ユーヒは恐怖が抜けずに無口になっていたが、1週間程でその口にはいつものお喋りが戻った。一方、あとから乗ってきた男、その男は自らを『リン』と名乗ったが、リンは自分から人に話しかけることが全くなかった。エマやユーヒが声をかけると、「ああ」とか「いや」とか、二文字の単語で会話を終わらせた。人生で話す文字の数が決められているのかと疑いたくなるくらい口数が

連載小説『エフェメラル』#1

第1話 ただ、心に従う  人が生活の場を地球から宇宙に移して数百年が経った現在も、トラックによる輸送が主な物流手段だった。トラック運転手のエマは、この日も火星の企業から依頼された人工惑星の建設部品を月へと運んでいた。ただ、その荷物の他に、あるモノを運んでいた。   「なんであたしがこんなにモノを運ばなきゃならないんだかね」    エマは運転中、進行方向を見ながら、独り言のように呟いた。   「あれ?だって、乗ってけって言ったでしょ。私が勝手にトラックに乗り込んだわけじゃない