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SandBox新ビジョン2023〜ゲームの世界から得たこと〜

ブレインテック業界に大きな転換点が訪れている。
NeuralinkのFDA承認から始まり、政府による「新しい資本主義」の実行計画改定案に脳科学の国家プロジェクトを創設する旨、Apple社のVision Proへの脳技術活用、AIrPodsへの脳波センシング搭載の特許公開等、立て続けに大きなニュースが発表されている。

今回はSandBoxが6年間ほど歩んできた中で、未来の世界にどのような影響を与えていきたいかをお伝えしたい。


SandBox新ビジョン


「ヒトの脳を読み解き、潜在能力の地図を創る」

僕が最初の半生を捧げたゲームの世界では、あらゆるパラメータが可視化されている。RPGに例えると、体力・知力・精神力といった具合だ。さらに、自身が習得したいスキル、就きたいジョブなどがあったとき、どのようにたどり着くことができるかも明らかになっている。

つまり、ゲームが魅力的であるのは透明性があるからで、逆にリアルは透明性が無さ過ぎると考えている。自分のやりたいことがわからない。あるいは、やりたいことは漠然とあってもどうしていけばいいかわからない。そんな人は多いだろう。

リアルもゲームのように、現在地がハッキリと分かって、目指す理想とのギャップを把握できればそれを埋めるための行動ができるはず[1]。

これが多くの人が魅力を感じ、ゲーム内での自己実現に至る背景ではないかと思う。

僕はこの概念をリアルに実装したい。
現実と理想の差分を定量的に理解できる。現在地からどのような未来に繋がる可能性があるかを手に取るように分かるようになる。努力が報われやすく、車輪の再発明が少ない世界になるだろう。

僕の過去

esportsのこと


中学時代まで時を遡る。
埼玉県に生まれた僕は地元の中学に進学した。他校の生徒がバイクで乗り込んできたり、定期的に県警が訪問してくるようなところであった。

まったく学校生活は楽しくなく、朝になると腹痛になったり体調が悪いことがよくあった。

あるとき、先輩からオンラインゲームを紹介され、一緒にプレイするようになった。お互い離れた場所にいながらも、チャット等でコミュニケーションを取りながらプレイする面白さ。その衝撃は今でも覚えている。

中2ながらクラン(チーム)を立ち上げ、10代〜40代まで幅広いメンバーが所属する30人規模に成長。強いメンバーも多く、ゲーム内ではそれなりに有名になった。

【参考:プレイしたタイトルの変遷(一部)】
メイプルストーリー→WarRock→Counter-Strike Online→Counter-Strike 1.6→World of Tanks

15歳で親以外の大人と接点を持つことは多くはないだろう。経営者、元自衛官、トラック運転手、介護士、大学生。本当に多種多様のバックグラウンドを持つ人たちと出会い、自分が生きれる世界が学校だけではないこと、ゲームの世界ではありのままの自分でいられることを知った。

ゲームを競技としてプレイする、esportsに関心を持ったのもその頃だ。

大学生の頃、ついに状況が変わる。
僕はそれまでの経験から、自身が強くなるには自身の周りに強いプレイヤーを置くことだと理解していた。環境が自分を作り上げるという考え方だ。

さほど戦績を出せていない頃であったが、国内にAsia-Pacificエリアで活躍するチームがあり、直談判メールを送った。

僕はこれまでチームを立ち上げ、大会に挑戦してきた。持ち前の知見を活かし、このタイトルで世界を目指したい。と思いの丈をぶつけた。

トライアウトを経て正式メンバーとして参画。

以降、日本代表としてアジア準優勝、世界大会出場も成し遂げた。僕はその後にプロチームに転籍し、東京ゲームショウで試合解説者を務めるなど活動の幅を広げた。

Science Fictionのこと

esports活動と並行して、「ソードアート・オンライン」(以下SAO)に出会った。僕も例に漏れず大きな影響を受けた一人だ。ゲームが半生だったこともあり、SAOが描く世界観に大きく共鳴した。

ソードアート・オンライン

世間一般的には評価されない特技である、「ゲーム」において、自身が持つすべてを投じ、生死を賭けて勝負する。現実世界では何者でもなかったが、ゲームを通じて、人間関係を築き、スキルを磨き、歴史に名を残す。そして、現実世界でも自信を持つことができ、人生が好転していく。何者かになれる。

それが僕の歩んできた人生と重なるところがあったのだろう。ゲームの世界で生きていきたいと思ったことも一度や二度ではない。

そこから、作中のナーヴギア(※1)を作りたい!と思い始め、当時ニコニコ動画のブロマガ(※2)で発信を開始。

「ナーヴギアをどう作るのか?」をテーマに、真面目に研究分野、相性良さそうなラボ、仮説など踏まえて公開した。あるとき、1時間で数万PV、数百コメントという大きなバズりを経験した。中には、できるわけがない等の批判的なコメントもあったが、共感の声が非常に多かった。

エンジニア、研究者の方も多くみてくれていたこともあり、僕が旗振り役として会社という箱を作れることで、ナーヴギア開発に向けて進めていけるのではないかと考えるようになった。

当社のCTOや、リードリサーチャーなどコアメンバーの何人かは僕の発信した内容を見て参画を決意してくれたこともあり、これが原点といっても過言ではない。

(※1)ソード・アート・オンライン作中で描かれる、脳に直接アクセスし五感すべてを再現できるフルダイブ型VRデバイス。
(※2)今ではブロマガはサービス終了。アーカイブは残してあるのでいつか再公開したい。

どうやるか?

まずはヒトのパラメータ化を進める必要があるが、現状の主観評価、あるいは心拍等の簡便な生体データで可能だろうか。

例えば主観評価では、本人が認知できない情報を取得できないこと、リアルタイムに変化する状況には向かないことなどが問題となる。加えて、簡易な生体データでは一部の健康状態等を把握する程度に留まっている。

よりヒトの内面(精神的なもの、パフォーマンスに関わるもの)にアクセスできる必要があり、そのひとつの手段が脳データの分析だと捉えている。

脳データからは、集中力などのパフォーマンスに関わる指標や、親近感などの感性の状態、(今後は)記憶や精神状態などもある程度可視化できるポテンシャルを秘めている[2][3][4]。

ただ、取得した脳データの信憑性はどうか?脳データと実際の行動や結果はどのような関係性があるのか?

それらの疑問をひとつずつクリアしていかなければ、最終的にユーザーに提供できる価値は小さいものになってしまう。

まずは本当に取得しているデータが正しいのかを検証するため、足元では法人向けに感性分析コンサルティングを提供し、様々な行動・結果データとも統合しながら精度を高めていく。

その過程でお客様は新しいニーズに気づけたり、既存の手法よりも価値提供できるようになり、売上などの事業的インパクトを得られる。ブレインテックが事業価値に繋がると感じる企業が増えれば、参入企業・投資額・データ数、すべてが比例して増えていくだろう。そして大規模に脳×行動データを収集するフェーズとなる。

Big Techの動向

昨年、Snapが脳波コントロールデバイスのNextMindを買収した事は話題を呼んだ。

Snapが脳波コントロールデバイスのNextMindを買収、BCI技術はSpectaclesに組み込まれるか

大規模収集フェーズでは、脳の「常時モニタリング」がキーワードとなる。
個人的にはMixed Reality(以下MR)のデバイスに脳センシング機器が組み込まれる未来を創業時から言い続けてきたが、ついに現実となった。

また、Apple Vision PROにも類似の動きがあり、AirPodsのIn-Ear EEGとも融合されるだろう。

AppleのARヘッドセット「Vision Pro」開発者が語る「ユーザーの脳と体から心を読む技術」とは?

常時モニタリングを実現するためには、スマホと同じレベルで社会に浸透する必要があり、そろそろ次のデバイスシフトが起こるのではないか?と。

ガラケーからスマホに変わったときに世界の時価総額ランキングをはじめ、社会に変革が起きたように、スマホからMRに変わるときにもパラダイムシフトが起こる。

MRという常時付けるデバイスに脳センシング機器が組み込まれれば、日々の行動・視覚・音声などのデータと脳データが紐づくこととなり、ヒトの理解が一気に進み、パラメータ化ができると信じている。

脳の常時モニタリング実装後の未来

脳の常時モニタリング社会が訪れることで、リアルな生活における様々な能力をパラメータ化し、トレーニングすることができる。例えば、集中力や理解力、記憶力などを脳データから数値化を行うことで、自分がどのようなパラメータを鍛えていったほうがいいのか、方針を定めやすくなり、リアルな世界においてもゲームにように楽しく成長することができるだろう。

ただ、鍛えたほうがいいパラメータを理解できても、どう鍛えるかの方法については人によって置かれている環境が違うため一律に正解を提示することはできない。

あり得る解決策のひとつとしては、自身のパラメータ・歩んできた道のりのデータを他者のために提供するといった世界観だ。

僕はプロゲーマーをしていた頃、主要なシチュエーションでどのように考え、行動すべきかのセオリーや、この場所でこのように戦うと強いなどのテクニックを発信しており、最終的には一定数のプレイヤーがこの内容を参考に戦績を向上させていた。

自分がある程度上手くいったことを発信することで、誰かが参考にして同じように上手くいったら「嬉しい」という感情になる(=データ提供する人はそれなりにいる?)と考えているのだが、どうだろうか。トークンがもらえるなどの何らかのインセンティブ設計もあるとより良いかもしれない。皆さんの意見ももらえると嬉しく思う。

当社では来たる常時モニタリング社会に備え、様々な実験を行っている。直近ではタクシーサイネージを展開する、ニューステクノロジー社と提携し、移動中に実験に参加し報酬を得られるような仕組みを作っていく予定だ。

脳波データ×タクシーで新たな価値を。ニューステクノロジーと提携し、脳波データを活用した商品開発広告パッケージを販売へ

おわりに

ここまでのお付き合いに感謝したい。

我々は「ヒトの脳を読み解き、潜在能力の地図を創る」というビジョンに向けて歩んでいくが、自社だけではたどり着けない目標であることも同時に感じている。

少しでも共感してくれた方と一緒に目指していきたいので、ぜひ意見交換させてほしい。

最後に。
当社ではPythonエンジニア、データサイエンティスト、ニューロリサーチャー、脳波計測オペレーターなど様々な職種を募集している。形態としても、正社員から業務委託、インターンまで幅広いので、少しでも興味を持ってもらえたらざっくばらんにお話させてほしい。以下に公式採用ページを掲載しておく。

■SandBox 採用特設ページ

■連絡先
Twitter:https://twitter.com/Aki_VRMMO
Facebook:https://www.facebook.com/akihitovr/
Mail:akihito@sandbox-vr.com

■引用文献
[1] Frömer, R., Lin, H., Dean Wolf, C. K., Inzlicht, M., & Shenhav, A. (2021). Expectations of reward and efficacy guide cognitive control allocation. Nature communications, 12(1), 1030. https://doi.org/10.1038/s41467-021-21315-z

[2] Myriam C. Sander , Yana Fandakova , Thomas H. Grandy , Yee Lee Shing and Markus Werkle-Bergner(2020).Oscillatory Mechanisms of Successful Memory Formation in Younger and Older Adults Are Related to Structural Integrity. Cerebral Cortex, 30(6), 3744–3758. https://academic.oup.com/cercor

[3] Kate C. Ewing , Stephen H. Fairclough and Kiel Gilleade.Evaluation of an Adaptive Game That Uses EEG Measures Validated during the Design Process as Inputs to a Biocybernetic Loop. (2016, May 18). Frontiers in Human Neuroscience. https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnhum.2016.00223/full

[4] Pilleriin Sikka , Antti Revonsuo , Valdas Noreika and Katja Valli.EEG Frontal Alpha Asymmetry and Dream Affect: Alpha Oscillations over the Right Frontal Cortex during REM Sleep and Presleep Wakefulness Predict Anger in REM Sleep Dreams. (2019). The Journal of Neuroscience, 39(24), 4775–4784. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30988168/


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