週末に出会った深センのカオス


自分が住んでいるエリアは深センの西側に位置する南山区。世界最大の電気街とも言われている華強北エリアまでは地下鉄で30分前後で行くことができる。世の中のガジェットマニア達から見るととても羨ましい環境に住んでいると思う。

自分もガジェットが大好きで、深センに住み始めた頃は頻繁に華強北を訪れていたが、最近は興味を惹かれるようなガジェットに出会えることが少なく、タオバオ(中国の代表的なECサイト)をみていた方が興味深い物に出会えるので電気街に来る機会は減ってしまっていた。が先日“快手(中国の動画/写真共有App)"で面白そうな市場が紹介されていたので週末を使い行ってみることにした。

どういう市場か簡単に説明するとスマートフォンやタブレットの中古市場だ。AppleからHUAWEI,Xiaomi,Oppo,Vivo等々のブランドの型落ち製品が通常の市場の販売相場よりも安く販売されている。というか市場というよりもそのエリア全体が中古のスマホ、タブレットを扱っているようだ。

先に結果だけ述べると、中古スマホ市場で売られていた物はどれもしっかりしている物で、通常の市場相場よりも5%-10%安く売られているだけで電気製品の集積地深センという地域特性から考えるとそこまで驚きはしなかった。


そんな中、明らかに玄人向けかつ怪しさを光らせている市場を発見した。


それがこちらだ↓

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一見普通のスマホ市場のようだがここは少し特殊だ、実際に動作する製品も売っているが正常に動作しないジャンク品が大多数を占めている。


初めてくる市場にはいつも心を踊らされる。ShenzhenMafia隊員1号のSZKは奥へ足を踏み入れるのであった。


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いきなり足元にiPadの山を発見、どれも損傷が激しく並大抵の人物では修理不可能な代物だと思われる。


十代の頃にバイト代を叩いてジャンクの音楽機材を買い集めては修理して転売を行ったり、自分で使ったり。近所のハードオフの常連だった自分にとってこの市場はとてもワクワクした。友達と自転車を走らせ、時には友人の父の車で中古品を扱う店を巡ったジャンクラバーだった学生時代を思い出させる。

と思い出に浸るのはこの辺にして市場のレビューをしようと思う。


市場の規模自体はそこまで大きくはないが、所狭しとApple製品、Androidスマホ、タブレットが並んでいる。どれも正常な代物ではなく、どこかが壊れている。


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商品の度合いは振り幅が大きい、泥だらけの物や液晶にヒビが入っただけの物、使えるパーツを取られて外枠だけになった物等々だ。


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こちらはAndroidのタブレット達。いったいどこからこの大量のジャンク品を集めてきたのだろうか。


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価格帯を調べるためにこちらの程度が良さそうなXiaomi cc9eの価格を聞いてみることにした。去年の7月に発表されたモデルでまだまだ現役で戦えるモデルだ、タオバオでの新品相場は1300元と行ったところだ。

“老板,这个多少钱”

“你说多少钱”

希望購入価格を求められた。

"100快怎么样"

"100快不行,200快钱我给你卖"

200元で購入可能だ。もし仮にバッテリー交換などの簡単な修理だけで動くのならかなりの破格だ。しかもこのエリアには多くのスマホの修理を専門としている業者がいるので直らないわけがない。

WechatPayを開き二次元バーコードを読み取り、買ってしまいそうになったが消費欲求を全力で飲み込み他の店も見てみることにした。


市場を舐めるように散策していたら、コイツに出会った。

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コイツとはそうiPad Pro 1代目 12.9インチモデルだ。最近新型のiPad Proの購入を考えていたが去年の末にMacbookProを買い換えたばかりの自分にとって本当に最新のタブレットは必要か考えていた時だった。旧製品とはいえProの名前をもつ代物だ、安かったら買おうと見た瞬間に決めた。

先に横にいたおっちゃんが価格交渉をしていたがどうやら交渉は決裂したようで自分の目の前に回ってきた。交渉開始。

“老板,这个多少钱呢”

“你说多少钱”

"100快怎么样"

" 100块赚不了钱!300快钱我给你卖"

何、iPad Proが300元だと。人でも殺してるのかこのiPadは。と思いながらさらに価格交渉。

"200快怎么样,那我就买"

"好的,不接受退货啊"

なんとiPad Pro1代目 12.9インチ(ジャンク)が200元(3000円)足らずで買えてしまった。これはやばい、ジャンク品とはいえ流石のスティーブ・ジョブズもびっくりしてしまうだろう価格だ。

この電子部品が無限と言っていいほどに集積している深センにおいてコイツを直すのは難しいことではないだろう。

今日中に直してやろうと意気込み、まずはどこに問題があるかを確かめるべく、Lightningケーブルを接続。と思いきや充電口が破損していて奥までケーブルを指すことができない。まずは充電口のパーツを買うところからスタート。

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タブレットばかり修理している店の主人に交換パーツはどこで売っているかを教えていただき余裕でパーツを入手、しかも10元(150円)だ。


これはキタ、もしかするとiPad Proが3000円足らずで手に入ってしまうかもしれない。頭の中で革命が起きていた。


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自分で直そうとも思ったが平日はあまり時間も取れそうもないので専門の修理業者に持ち込むことにした。


まずは液晶を取り外す作業だ、画面の端を温めながら本体と液晶の接着剤を溶かしてゆく。


“你看,没有相机啊”


インカメラがないと言われた。どうでもいい200元で買った物だ、後から買ってやると強気の姿勢を見せ作業を続けてもらう。


でも少し心配になった、インカメラがないということは一度開けられているということだ、開封歴があるということは基板やバッテリーなども弄られている可能性が大いにある。そして開封歴のあるジャンク品の大多数は専門業者でもどうしようもできなくなったゴミが多いというのを知っていた。勘ぐり始めた。


主板(マザーボード)くらいはあるよね、と恐る恐る聞いてみた。


…………!!!


そこには既に開封されたiPad Proと呼ぶべきではない代物があった。

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そう、完全なる偽物だ。


いや偽物でもない、なんと表現していいかわからない。


外側は一見本物のように作られてるが中には有るべきA9X チップを積んだ基板がなく、怪しい基板とバッテリーだけが積んである。


当然、先ほど買った充電口のパーツも使う事ができない。


よくよく考えてみると、使える可能性のあるiPadが200元で買えるわけがない。売ってくれたおっさんはたぶん知っていたのだ、これは正常に動く可能性のない代物だと。何回かおっさんが口にしていた"开不了"と言う言葉は壊れていて電源が付かないという意味ではなくて、これはモックで電源が付かないということだったのかと考えた。そうであれば詐欺でもなんでもない、自分が勘違いしていた。


修理屋の人達と少しお喋りをした所、こういう事例は良くあるらしい。MacBookや、iPadなど高値で取引されるパソコン、スマホ、タブレットの基板を少し弄り、立ち上がりはするもののまともに使えない製品を販売したり、タチの悪いものは中に石を入れたりして重さを出して売る(これは何年か前に日本でも話題になっていた)。そして多くの取引はネット上では行われずオフラインで行われる。


まさか自分が引っ掛かってしまうとは思ってもいなかった。正直言うと200元をドブに投げ捨ててしまったのは悲しいが、このカオスすぎる経験はとても面白いと思い文章で残すことにした。


Appleというガジェットの最高峰と、このミステリアスな代物を与えてくれたおっさんにスペシャルサンクス。


おまけ

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Androidスマホの部品

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初代iPhone、配線の上に発売年の2007年の文字が確認できる。


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上手くオチを作れていないので今週中に書き直そうと思います。

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