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お酒になりました

あっという間に年末を迎え、酒造りもひと段落しました。noteを2ヶ月更新していなかった間に今年収穫した米をちょっと使って、これまでにない味のお酒を造ることを目指して試験醸造を行いました。

こんなお酒になったらいいな

まず弊社のお酒の特徴ですが、なんといっても全国的にも珍しい超軟水を使ってお酒を造っていることが根底にあります。つまりお酒の仕込みに使う水からのミネラルの供給がとても少ないのです。そのため酵母の活動も緩慢になります。そのためか何なのか、どのお酒も口当たりが優しく、輪郭もすらっとしており、後口は口に浸透するように落ち着いていいきます。逆に言えばボディの強い、後口がスパッとしたキレの良いようなお酒は造るのが難しい環境と言えます。
ミネラル過少の現状のままでは実現困難と思われる酒ですが、ミネラルの供給は水だけではありません。米です。米の表面付近はたくさんミネラルを含んでいます(まあ雑味の原因となる窒素も多いので精米したものを使うのが常識なのですが)。もし窒素の含量が少ない米を作ることができるのなら、あんまり精米せずにミネラル供給剤としての役割を担うことができるかもしれません。そうすれば超軟水であっても添加物無くボディのしっかりしたお酒を作ることができ、理想としてはボディがありながら軟水の柔らかさを感じることができる、硬水を使った酒造りでは感じることができない矛盾が共存する酒になれば、唯一無二の面白い酒になるのかなぁ、と思っています。
こんなお酒を造りたい。

こんなお酒にするために

酛づくり

まずはしっかりとした幅やふくらみをかんじられる、ボディを強くする方法を思いつくままやっていきます。

生酛の酛摺り工程

まず酛づくりについては、硝酸還元菌や乳酸菌などが絡んだ生酛を採用しました。この方法は江戸時代に確立した手法で、色々な菌が生活することでさまざまな生産物ができ、そこで育った酵母も強靭になります。これらの菌が絡まない速醸酛と比べ、できた酒にも味の幅がでてくるように思います。

できた酛

できた酛は雑菌臭もなくキリッと良い酸味も感じられて、全体的に良い質だと思います。

続いて麹についてですが、普段は48〜52時間くらいの時間をかけて育てるのですが、仲・留仕込み用のものを3日弱かけて育ててみました。

製麹の様子
66時間目

理由は、私が島根県の板倉酒造の酒が味わい深くて好きで、そこで採用している手法が3日かけて育てるというものらしいので、試しにやってみました。今回は麹の状態から72時間もたなさそうと思いやや早めに切り上げましたが、出来た麹は確かに普段のものに比べていろいろな(温度帯を経験したような)味がしました。初めてなのでお酒にどんな影響があるかは未知数ですが。

仕込み

今回は一つの酛を4等分して4種類の仕込みを行いました。うち3つが夢山水、1つがミネアサヒという地元の飯米を使ったものです。
お酒の仕込みは酛で増やした酵母の密度や酸度を急激に低下させないため(雑菌繁殖のスキをつくらないため)に3回に分け(それぞれ順に添仕込み、仲仕込み、留仕込みと呼ばれています)、その仕込みに使う米や麹の量も倍々に増えていきます。

自社米の夢山水七分づき

ここでようやく登場、弊社で育てたほぼ有機の夢山水。夢山水で造る3種類の仕込みのうち、一つは添仕込みの掛米に、もう一つは添と仲仕込みに、最後は添と仲と留仕込みにこの米を使いました。

(補足:日本酒は麹菌が米に繁殖した『米麹』とお米を水を吸わせて蒸した『掛米』と水を混ぜて、麹菌から生産されたデンプン分解酵素等により掛米中のデンプンがブドウ糖まで細かくなり、それを酵母が食べることでアルコールが生産されてできる)

この米はミネラル供給の目的も兼ねているので、精米歩合はギリギリ胚芽という組織が残りそうな七分づき(数値で言うと90.5%)で使用しました。ミネアサヒの仕込みの方も掛米全量七分づきです。言い忘れていましたが、麹米やその他の掛米は愛知県産の夢山水48%を使用しております。

醪末期(29日目)

仕込み終わった醪は最高品温11℃弱の低温でゆっくり発酵してもらいました。予想よりも発酵スピードが速く、掛米オール七分づきの醪は後半糖分の生産が追いついていなさそうでした(掛米の吸水を少々加減してしまったのが間違いでした)。

できたお酒の今後

瓶火入れ

それぞれの醪から搾ったお酒は瓶詰めして、今後いくつかのパターンに分けて貯蔵試験を行います。理想とする味に近い何かを持ってる酒になってくれればいいのですが。

…え?なんです?結局美味しいのかって?

…そりゃあまぁ、なんだかまとまりのないお酒だったりえらくドスの効いたお酒だったりと、少なくとも新酒向きではない味でした。七分づき米の割合が増えるほど、ボディがつくというよりも後半の印象が重くなるのが目立っていました(原因は米に含まれる窒素量でしょう。今年の自社米は多めでした)。
はてさて貯蔵することで味がまとまるのか、幅広い輪郭を持つのか、なんだったら強い押し味となって燗酒にうってつけになるのか、乞うご期待!


おわり。

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