岸本佐知子編訳 『変愛小説集Ⅱ』

★★★☆☆

 2010年刊行のオムニバス第二弾。ミランダ・ジュライやジョージ・ソーンダーズなど、岸本佐知子訳でお馴染みの作家からあまり知らない作家まで11篇収録。ちなみに、ミランダ・ジュライの『妹』は『いちばんここに似合う人』にも収録されています。

『変愛小説集Ⅰ』で定まったコンセプトを踏襲しているので、テイストというか方向性は同じです。Ⅰが気に入ればⅡも好きでしょう。そうでなければご縁がなかった、と。

 個人的なヒットはアリソン・ベイカーとダン・ローズでした。
 絶滅寸前のチアリーダーを探しにきた西部劇パロディの『私が西部にやって来て、そこの住人になったわけ』は終始笑いっぱなしでした。もうね、くだらないというかなんというか、ツボにはまってしまいました。短篇のかたちをしたコントではないのか?と思ってしまったほどです。無類に可笑しい。

 ダン・ローズの『人類学・その他100の物語』からの掌編も、有り体に言って、ジョークみたいなものです。おもしろ可笑しく読めること請け合いです。無闇に可笑しい。

 一転、スコット・スナイダーの『ヴードゥー・ハート』はまじめな小説です。これは変愛小説ともいえるけれど、かなりシリアスな話で、終わり方も含めて秀逸な短篇です。
 恋人とうまくいっていると、得も言われぬ破壊衝動に襲われてしまい関係を壊してしまう性をもった男の話です。単なる恋愛/変愛に留まらない奥行きと持ち重りのする話です。明るい場面と暗い場面との落差が余計に男の抱える闇のようなものを際立たせています。
 Ⅰで『ブルー・ヨーデル』という自分を捨てた恋人が乗っている飛行船を追いかける話が同じ作者です。
 調べてみたところ、アメコミ作家のようですね。

 コンピレーション・アルバムを聴くのと同じように、すべてが好みなわけではありませんが、なかなかの選定でした。何篇かはホームラン級の当たりといえるでしょう(空振り三振かホームランしかないようなピックアップ)。

 しかし、撰書というのは編者の趣味が出ますねえ。

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