Camille Bordas 『The State of Nature』

★★★★☆

 著者のカミーユ・ボルダスは生まれ育ったフランスで2009年と2011年に1冊ずつ出版したあと、2012年に作家であるAdam Levinと結婚し、パリからシカゴに移住したようです。それ以後は英語で執筆している模様。
 英語での最初の本『How to behave in a Crowd(人混みでの振るまい方)』が出版されたのが2017年。本短篇はそれ以来の作品のようです。ニューヨーカー2018年4月9日号掲載。

 眠っている間に泥棒に入られた眼科医である主人公が警察に報告するところから話は始まります。パソコンやら家具やら一切合切を盗まれてしまいます。飼い猫カタパルトのお気に入りのラグまで(そのことでカタパルトがヘソを曲げてしまうのがかわいいです)。盗まれたものの中には、ちょっとした骨董品である祖父から譲り受けた検眼セットも含まれています。

 話を聞いた母親に猛プッシュされて、「泥棒市」と噂されているフリーマーケットに行くことになります。母の友人のリタがマーケットを案内してくれます。彼女も以前強盗に入られたあと、自分のものを探しにきたことがあり、それ以来、同じ経験をした人が持ち物を探すのを無償で助けるようになったのです。

 リタは毎週マーケットに探しに出かけます。主人公はそこまでしなくてもいいと思うのですが、リタは好きでやっているからと聞きません。仕方なく毎週付き合うことになります。
 いくつかのものは見つかりますが、すべては見つかりません。そんな折、患者であるシモンズ氏に偶然マーケットで会います。しかし目が合ったはずなのに、シモンズ氏は挨拶すらせずにどこかにいってしまいます。後日、シモンズ氏はそのことを詫びに「私」のところへやってきます。

 なんだか不思議な小説でしたね。短篇にしては、いくぶん偶然という要素を使いすぎているきらいはありますけど、イメージが豊かというか、寓意に満ちていて、しっかりとした作品世界が確立されています。あまり関係のなさそうなエピソードや会話の断片が、直接的には関わらないのだけれど、間接的に絡まり合い、作品の空気感を生みだしているところが気持ちよいです。

 他の作品も読んでみたいのですが、調べたところ、翻訳版は出ていないようです。残念。原文で読むしかないですね。

 ちなみに、タイトルの「the state of nature」はレーシック手術を望んでいる患者シモンズさんの科白です。メガネをかけているシモンズさんは、レーシック手術をして、「自然な状態」になりたいと主張します。その際、この科白を連呼します。
 作中の科白としてはどうということもないのですが、タイトルとしてはなかなか含意があります。

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