小田嶋隆 『上を向いてアルコール』

★★★☆☆

 2018年3月に出たばかりのコラムニスト小田嶋隆のエッセイ(といってよいのでしょうか?)。タイトルからもわかるとおり、著者のアル中時代を振り返った内容です。

 アル中が酒杯を重ねるようにすらすら読めてしまうので、僕は二時間くらいで読んでしまいました。小田嶋隆のコラムを読めばわかりますけど、論旨が明快で、喩えが的確なので、非常にわかりやすいんです。あまり頭を使わなくてもすんなり理解できます。そこが筆者の力量ですね。

 名コラムニストとして名高い小田嶋隆ですが、三十代のときにアルコール依存症となり、そこから回復したそうです。本書はその頃のことを振り返り、語り下ろしたものです。

 小田嶋隆の特長というのは、快刀乱麻に物事を切っていくというよりも単純化を自制し、二歩、三歩踏みこんでいく思考の深みや知性の働かせ方にあると思います。そういうスタンスが本書でも活かされています。紋切り方のアル中話に落ち着くのではなく、体験に根ざしたアル中の実相を重くなりすぎることなく、軽やかな筆致で書き切っています。二十年前とはいえ、自身の苦しい体験をこのように客観的かつ冷静に分析できるのは見事です。

 アル中がどういうものか、漠然と抱いていたイメージがいかにステロタイプなものであったかが本書を読むとよくわかります。酔っ払って無頼にふるまうミュージシャンやクリエイターに抱く憧れ、それに付随するお酒というものに対するイメージが、どれほど事実無根の幻想でしかないかがはっきりするでしょう。アル中は理由があって飲むのではなく、飲んだあとに理由をくっつける、といったフレーズが印象的です。まず飲酒ありき、それがアル中だと。

 僕はお酒に縁がないタイプなので、共感するところはあまりなかったのですが、自分とは遠いタイプの人の生態を知るようで、実に興味深かったです。
 もし身近なところにアル中がいたらと考えると、迷惑きわまりないな、と恐ろしくなりました。小田嶋隆氏の奥さんはよく離婚しなかったな、と感心してしまいます。ゴシップ的な意味あいではなく、そのあたりの事情も知りたいものです。

 お酒好きからそうでもない人まで、アル中からアル中予備軍までが楽しめる一冊だと思います。もっとも、アル中はこういった本を読まなそうですけど。

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