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最初で最後のlove letter

君がもうこの世にいなくなったと知ったとき、もしかしたら君ならあり得る話だと思ってしまった。
正義感と情熱に溢れた君にはこの世界はいつも残酷すぎたんだ。


切れ長の瞳が印象的で、笑顔が素敵な女性だった。
それは可愛いと言うよりも「魅惑的」という言葉がピッタリだった。

女優になりたいと上京したての頃に出会い、挑発的で小さな背丈には見合わない大きなオーラに僕は絶対に負けないと闘争心を掻き立てられた。

そこから数年、僕たちは互いに刺激しあって励ましあって語り合ったよね。

ネット番組のレギュラーが決まったとき、憧れの監督に出会ったとき、自分よりすごい俳優に出会ったとき、これ以上ない高揚感と興奮がいつも画面から溢れていた君。


数年後、僕や仲間たちが夢を諦めた後も、君のその勢いは止まらなかった。

映画の主演を勝ち取ったり、アーティストとして日本や海外のフェスに出演して、活躍を聞くたびに、僕と立っている世界が違っても密かにずっと励まされていたんだよ。

夢を持つだけ幸せなことだと世間は言うけれど、夢を持つとたくさんの「普通」を犠牲にしなければならないこと、大切な何かや誰かをを捨てなければならないことは夢を叶えるために本気で突き進んでいる人間にしかわからない。

君は一体、どれだけのことを犠牲にしたんだろう?

譲れないことを譲らないためにどれだけ心をすり減らしてきたんだろう?


そんな君に子供ができたと知ったときは本当に嬉しかった。

なぜなら頑張りすぎる君だから「家族」という存在ができることで肩の力が抜けるようになるだろうと思ったから。

だけどその期待は叶わなかった。

君はますます頑張った。「完璧な母」でいようと、シングルマザーになってからは特に将来、自分のせいで子供に不自由させたくないと命より大事に思っていた女優まで引退した。


あのとき、僕に言った言葉を覚えていますか?

「職業が表現者であることを特別視はしてないの。私は生まれながらに表現者だから。」

その言葉があったから僕も表現することを捨てられないと気付いて、こうして文章を書くことを選択したことを伝えられないままになってしまったね。

だけど僕は君と違って、息を吐くように嘘も吐けるようになって、自分や家族を守るためなら見ないふりも誰かを心からは愛さないように、信じないように、コントロールすることもたやすい人間になってしまった。

世界は僕ひとりが声をあげても変わらないことに絶望し、君のように自分の過去をさらけ出し誹謗中傷を受けてまで立ち上がる勇気のない卑怯な人間になってしまった。

君も、もう立ち上がれなくなってしまったんだね。


だけど勇気のない卑怯な人間にもなりたくなくて、この世界を見ないように眠ることを選択してしまったの?


デザイナーとして第二の人生を歩みだした君の作った洋服を着てみたかった。

情熱と想いの詰まったその服を着たら、僕はまた嘘をつかないようになろうと思えたかもしれない。信念を思い出して誰かを心から愛してみたいと思えたかもしれない。

性的搾取、やりがい搾取、金銭的搾取、精神的搾取…この世界から何らかの搾取を受けていない人はいないだろう。

なるべく搾取されないためには「見ないフリ」「知らないフリ」「理解できないフリ」をしてやり過ごすことで「普通」の生活や人生が保証される。

僕たちは「何のために」そうしているんだろうか?

家族のため?恋人や友人のため?仕事仲間のため?

いや、一番は「自分のため」なんだ。



僕がかつて目指していた世界や、彼女が最後まで目指していた世界は彼女の残した言葉に全て詰まっている気がした。

「どんなにか弱く繊細な花でも、咲き誇れる世界になりますように。」



君を愛していました。心から。



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