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最近読んだ本「税金の世界史」 ドミニク・フリスビー著

第1章のエピソードにもなっている原文タイトルは"Daylight Robbery"、つまり「日光泥棒」。「窓税」ともいう税で、17世紀のイングランドで徴収されたその名の通り窓の数によって税額が決まる税のことが初めに語られています。窓税の制定によって市民は窓のない家に住む→日当たりや通気が悪くなる→不衛生になり疫病が蔓延、という何とも悲しい税でした。窓税の前には「煙突税」があったのだけれど、煙突税は家の中に入って調査をしなくてはならず「プライバシーを大切にする」イングランド市民に不評だったこともあり窓税が導入され、なんと19世紀までおよそ2百年間も続きました。

他にも、古代の狩猟・採集時代にも税のようなものがあっただとか、税と宗教、14世紀の黒死病(ペスト)による税制改正等々の歴史が語られています。邦題が「世界史」となっているので、すべて過去の話かと思っていたら、半分を過ぎたあたりからは近現代の話、そして後半は完全に未来の話でした。

個人的には歴史よりも未来の話の方が興味があったので、備忘も兼ねて以下メモを。

第14章では、「非公式の税負担ー債務とインフレ」と題して、ときに政府によって作為的に起こされるインフレによって国民が負担を強いられるといった話がありました。インフレは増税と同じだと。政府がお札を刷る機能を持っている以上、政府は自身の債務を、紙幣をじゃんじゃん刷ることで帳消しにすることができます。それでだれが痛い目に合っているかというとそれは「国民」ですね。
少し話がそれますが、MMT理論(Modern Monetary Theory)では、「日本の国債の多くは自国の国民が保有しているので日本国は破綻しない」という主張をしていましたが、それは結局国債を保有している国民にしわ寄せが行っているだけで、日本が破綻しない=バンザーイ、というわけにはいかないだろうとわたしは思っています。これは本章での指摘と通じるところがあると感じました。
ついでに、MMT理論で「日本は米国の国債を多く持っているので、やばくなったらそれを全部売れば大丈夫!」というのもありましたが、そんなことをしたら米国からの報復が恐ろしいのでは。。。とも思っています。

本書に戻りますが、しかしここで著者は、今後は政府によるこの「インフレしわ寄せメソッド」が「暗号資産」の登場で使えなくなると指摘しています。ひどいインフレに嫌気がさして、自国の通貨ではなく外貨、または暗号資産に乗り換える人が増えていくと、インフレのしわ寄せは、そういった手段を持たない貧困層に集中することになり、結果的に破綻するのではないかと。

あとは、所得税収入の割合が大きい国においては、定住地を持たない「ノマド」が増えることで、今後はどこにも納税義務のない人が増え、結果的にどの国も財政難になるのでは?という指摘もありました。法人税ではAppleやGoogleの”Double Irish with a Dutch Sandwitch”など、すでにそういった事象も多く出てきていますが、今後それが個人所得税にも広がっていくことが懸念されます。それから所得税の文脈では、「ロボットには納税義務がない」という点もわたしには新鮮でした。「AIに奪われる仕事」的な話がよくありますが、仕事がなくなるという個人にとっての視点ではなく、国側からみれば、生身の人間が働いていれば所得税が課せられるのに、それがロボットに置き換わると当たり前ですが所得税はゼロです。AIによる効率アップが事業収入につながって、間接的に法人税(個人事業主の場合は所得税)が増えるという恩恵もあるかもしれませんが、一義的には税収減となることは否めないでしょう。

これらの他には、すでに各国でも始まっているテクノロジーを駆使した税務調査や、逆に納税者側の租税回避の方法、最後には「第20章ユートピアの設計」として、著者なりの最善の税制の提案がありました。ざっくりいうと「所得税やVATは低め、法人税はなし」そしてメインは「立地使用税」LUT(=Land Usage Taxかな?)の導入でした。あとは、税制ではないですが、公的サービスのサブスクリプション化、といった提案もありました。

以上、雑なメモですが、また思い出したら追記していきます!

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