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意外と知らないヨーロッパのリーグ考察~トルコ編~

「意外と知らないヨーロッパのリーグ考察」第3弾です。5大リーグ以外のヨーロッパのリーグについて、公開されているレポートを発見できたものについて、まとめていきます。
 今回はトルコ-Süper Lig-編です。

SHC4期生の長谷川諒さんと、同じく4期の松行英人さん(Twitter:@eitomatsuyuki )、齋藤翔さんとともに考察いたしました。

レポートの概要

今回拝見するレポートはAktif Bankというトルコの銀行が2014/2015、2015/2016シーズンを対象に行った調査レポートとなります。

2014~2016年のヨーロッパサッカーの財務的なトレンドを解説してくれているレポートで、ヨーロッパにおけるトルコリーグの財務規模の立ち位置がとても分かりやすく記載されています。

Süper Ligの概要

Big 3のクラブ(ガラタサライ、フェネルバフチェ、ベジクタシュ)+1(トラブゾンスポル)が有名なトルコリーグですが、最近では香川真司選手や、長友佑都選手もプレーしていることで日本でも知られているのではないでしょうか。このBig4が過去全てのリーグタイトルを独占してきた寡占化が根強いリーグの1つです。

ガラタサライ 22回リーグ優勝
フェネルバフチェ 19回リーグ優勝
ベジクタシュ 15回リーグ優勝
トラブゾンスポル 6回リーグ優勝

(リーグ規則)
リーグ1位:チャンピオンズリーグ グループステージ
リーグ2位:チャンピオンズリーグ 予選
リーグ3位:ヨーロッパリーグ 予選
リーグ4位:ヨーロッパリーグ 予選

最新のUEFAリーグランキングでは11位※に位置し、FIFAランキングでは29位※(日本は28位)であるトルコはリーグの競争力、国の競争力の観点からは日本との比較をしやすい国かもしれません。(※2020年3月27日現在)
トルコは地理的にはヨーロッパと中東の中間に位置していますが、サッカーにおいてはUEFAの管轄下に入り、ヨーロッパのリーグに分類されています。

Wikipedia情報

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外国人枠
トルコリーグの外国人枠(ヨーロッパ人以外)は14名をベンチ登録できる、という制限になっています。
(UEFAレポートP16-17を参照)

そのため、各チームの構成を見てみるとトルコ国籍の選手は半分以下となっているチームが多いリーグのようです。

例:2020年3月28日時点 Transfermarkt参照

Jリーグとの比較から見えてくるもの

今回のレポートの内容も、日本(Jリーグ)との比較を主に行いながら、その特徴を見ていきたいと思います。

トルコ   GDP:8,511億USD 人口:8,081万人
日本    GDP:4.872兆USD 人口:1.268億人
(2017年 Google検索より)

国としての規模の違いとして、GDPで約5.7倍、人口で約1.6倍の違いがあります。今まで考察したベルギーやポルトガルと比べると、経済規模や人口はより日本に近い存在です。

Süper Lig
1部チーム数18チーム
2018-2019 総観客数3,549,563人 Ave.16,282人 ※Transfermarkt 内59%がBig4
2015-2016 リーグ総収入: (不明)
Match day revenue: 270.3M TRY ≒ 46億円 (17円/TRY) 内87%がBig3
Broadcasting revenue: 871.0M TRY ≒ 148億円 (17円/TRY) 内36%がBig4
Commercial revenue: 581.5 TRY ≒ 99億円 (17円/TRY) ※Big4のみの数字
合計 293億円 ※選手移籍金収入除く
Jリーグ
1部チーム数18チーム
2019年 総観客数6,349,681人 Ave.20,751人 ※1
2018年 1部リーグ総収入856億円 ☆移籍金含む※2
(※1参照:J League PUB report 2019)
(※2参照:2018年度J1クラブ決算一覧)

リーグ全体の観客動員、総収入を比較してみます。観客動員に関してはJリーグの動員が上回っています。人口に対する延べ観戦者数割合においは、日本が5.0%、トルコが4.4%となり、わずかに日本が上回っています。

また、Big3が首都イスタンブールに固まっており、チーム戦績・観客動員・財務規模ともに首都のチームの独占となっています。

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(Wikipediaを参照)
イスタンブールの人口が1511万人、Big3の2018-2019の観客動員数が166.6万人であったことから、延べ11%が試合を観戦しています。
一方、東京都の人口が1395万人、東京都所属のサッカーチームがFC東京(J1)、東京ヴェルディ(J2)、町田ゼルビア(J2)で、この3チームの2019年観客動員数合計は748,053人(FC東京536,187人、東京V112,789人、町田99,077人)だったので、延べ5.3%が試合観戦している計算になります。
首都チームのサッカー熱気はトルコリーグの方が上だと言えるわけですが、一方で、トルコは首都以外のチームではかなり観客数が低い、ということがいえます。各クラブ毎の平均観客動員は下図の通りです。


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(レポートより抜粋)

Bigクラブですら平均観客動員数はフェネルバフチェ以外は2万人を超えません。スタジアムの規模はBig3でそれぞれ、

トルコ・テレコム・アリーナ 52,652人 収容率36% (ガラタサライ)
シュクリュ・サラジオウル・スタジアム 47,834人 収容率52%(フェネルバフチェ)
ボーダフォン・アリーナ 41,903人 収容率39%(ベジクタシュ)

となっております。つまり、スタジアム規模に比べて観客動員数、収容率ともに物足りないものになっています。
よくニュースや記事で見るようなトルコの熱狂的なスタジアムというのは実はイスタンブールダービーに限った話ではないかと推測されます。
Big4以外の地方クラブにおいては、日本のJ2・J3レベルの平均観客動員数と同等くらいです。

また、リーグの総収入については、トルコリーグの正確な財務数値が入手できていないので単純比較は難しいところですが、放映権料に関しては日本が210億円/年と言われているので、トルコの148億円/年に対して、こちらも上回っており、全体としても財務規模的にはJリーグの方が勝っていると推測してもよいかと思います。

上述した数値データの通りBig4の観客動員、財務成績に占める割合が非常に大きくなっており、Big4以外の12チームについては財務規模的にも非常に苦しいものと推察されます。Big4の経済規模は下記の通りです。

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(レポートより抜粋)
ガラタサライ 84億円
フェネルバフチェ 81億円
ベジクタシュ 55億円
トラブゾンスポル 14億円
(17円/TRY)
※放映権、ヨーロッパコンペティション収益、コマーシャル収益、試合収益の合計額

この数字だけみると、Jリーグのトップクラブと財務規模としては同等くらいであると推察できます。

トルコリーグ考察まとめ

国の規模は今まで調べたベルギーやポルトガルに比べるとより日本に近しい国であるという条件の下、トルコリーグの財務規模や動員規模より、Jリーグの方が上回っている、ということが言えることになります。

傾向としては、ポルトガルリーグと同様にBig3(+1)と呼ばれるクラブがリーグタイトルを独占し、財務・観客動員ともにリーグを寡占状態で支配している状態です。
放映権料は他のヨーロッパのティア2のリーグと同等で、日本とも大きな差は感じませんが、ここでもBig4への傾斜分配が大きくなっているため、他の16クラブが財務的にBig4に肉薄することが難しい構造となってしまっています。

仮に外資がトルコリーグのクラブを買収することを考えた場合に、外国人枠が多いという利点はあるものの、ELやCLへ挑むチームを作れるような経済環境にはないように感じます。

そして、レポート内でも言及されていますが、Big4以外のクラブでは観客動員が難しい状況が生まれており、リーグとしての魅力が作れなくなってしまいます。そこから、実は国内のサッカー人気は首都の一部のチームだけであり、国全体として見てみるとそこまで高くないのではないか?という推測も、観客動員数や人口に占める延べ観戦割合の観点からは生まれてきます。

今まで見てきた3国(ベルギー、ポルトガル、トルコ)から考察できることとして、ヨーロッパのリーグでは、まず国ごとにリーグのはっきりとした序列が作られており、さらにその中でも一部の巨大クラブが国内リーグを支配する状況が生まれ、さらにその巨大クラブがリーグ内での発言権を有することで、リーグ内のヒエラルヒーですらも固まってしまう状態が生まれています。

ヨーロッパにいて感じるのは、持たざるクラブはより貧しくなり、ファン・サポーターたちもスタジアムに足を運ぶのではなく、テレビで5大リーグやトップクラブの試合を観戦する、という傾向が年を経るごとに強まっているということです。

日本のJリーグも世界に互すビッグクラブや、クラブ間ヒエラルヒーを構築する構造を近年作り始めていますが、行き過ぎたヒエラルヒーは中小クラブ、リーグ自体の魅力を低下させかねないのではないか?ということを改めて考えさせられます。

国際的な競技力を高めつつ、国内リーグの魅力も高める。後発リーグとしてこのバランスをいかに作るか?というのは難易度の非常に高い課題だと感じます。

余談(追記)

トルコでは2012年から全国の35か所(最終的には81か所)のスタジアム・スポーツ施設のリニューアルを国家プロジェクトとして行っています。国としてスポーツ産業のインフラ刷新に取り組んでおり、今後サッカー人気も改めて高まっていくのかもしれません。


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