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意外と知らないヨーロッパのリーグ考察~クロアチア編~

「意外と知らないヨーロッパのリーグ考察」第6弾です。5大リーグ以外のヨーロッパのリーグについて、発見できた公開されている英語レポートやWebの情報を基にまとめていきます。

今回はクロアチア編です。

                                        ↑レポートへのリンク

「プルヴァ・フルヴァツカ・ノゴメトナ・リーガ(Prva hrvatska nogometna liga)」「1.HNL」「Prva HNL」などと呼ばれています。本レポートではクロアチアリーグの事を「プルヴァHNL」と呼称します。

Webに落ちている英語レポートがこれしか見つけ出せなかったので、2015年の資料で若干古いですが、大体の状況を把握する分には問題ないと思います。内容としては、クロアチアリーグのファイナンス状況について解説しているレポートになるので、リーグの経済状況を詳しく知ることができます。

プルヴァHNLの概要

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クロアチアは旧ユーゴスラビア国の1つです。クロアチア共和国が正式名称で、東ヨーロッパ、バルカン半島に位置する共和制国家です。本土では西にスロベニア、北にハンガリー、東にボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビアと国境を接しており、南はアドリア海に面し対岸はイタリア、飛び地のドゥブロヴニクでは東にモンテネグロと接しています。首都はザグレブ。1991年に、それまで連邦を構成していたユーゴスラビア社会主義連邦共和国から独立しました。(Wiki情報

プルヴァHNLは、クロアチア共和国の最上位サッカーリーグで、クロアチアがユーゴスラビアから独立した1991年に創設され、1992年に開幕しました。

1999年に三浦知良選手がディナモ・ザグレブに所属したことから知っている方も多いかもしれません。意外と日本人選手も多く所属してきたリーグでもあり、4部以下も合わせると累計で30人プレーしてきてます。(Wiki情報

全10チームでリーグ戦が行われ、4回総当たりの後、最多勝ち点のチームが優勝となります。1位がUEFAチャンピオンズリーグ予選2回戦、2位がUEFAヨーロッパリーグ予選3回戦、3位がUEFAヨーロッパリーグ予選2回戦、4位がUEFAヨーロッパリーグ予選1回戦の出場権を得ます。
(Wiki情報)(リーグHP情報)

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ディナモ・ザグレブ(Dinamo Zagreb)が2019-20シーズンまでの29回のリーグ戦の内21回優勝し、4回準優勝しており、圧倒的な力を誇ってます。

外国人枠はフィールドに6人まで出場することが可能です。
2018年時点のUEFAレポートP17

スタジアムインフラはハイドゥク・スプリトとディナモ・ザグレブの国内2強以外は簡素なスタジアムが多いです。

UEFAリーグランキングは10月31日時点で2020/21シーズンは19位に位置しています。

FIFAのランキングで10月31日時点で9位で、2018年のワールドカップで準優勝したのは記憶に新しいと思います。世界のトップリーグ、トップクラブで活躍する選手も多く、国内リーグとは対照的にナショナルチームは確固とした地位を築いています。

Jリーグとの比較から見えてくるもの

東ヨーロッパの小国であるものの、UEFAのリーグランキングで20位以上をキープし、FIFAランキングで10位以内に入るクロアチアのリーグを数値比較でみていきましょう。

まず、国全体の経済・人口規模を比較します。

クロアチア GDP:610億USD 人口:406万人
日本    GDP:4.971兆USD 人口:1.265億人
(Google検索より)

経済規模は日本の1.2%程度、人口も3.2%ということで、ほぼ100分の1規模と考えて差し支えないかと思います。

プルヴァHNL
1部チーム数10チーム
2015-2016 総観客数441,267人 Ave.2,451人  ※1
2014          クラブ合計総収入: 387M HRK ≒ 62億円 (16円/HRK) ※2
(※1参照:Transfermarkt)
(※2参照:Operations of football clubs in Croatia P5)
Jリーグ
1部チーム数18チーム
2015年 総観客数5,447,602人 Ave.17,803人 ※1
2015年 1部リーグ総収入602億円 ※2
(※1参照:J League PUB report 2015)
(※2参照:2015年度J1クラブ決算一覧)

比較年を合わせるために2015年の数値で比較します。

まず、観客動員ですが、絶対値で見た平均観客動員数ではだいぶ差がありますが、延べ総観客動員数を人口比で見た場合にはJリーグが4.3%、クロアチアが10.9%と国民当たりの観客動員比率は高いことから、それでもクロアチア国内でのサッカー人気の高さが伺えます。

一方で収益については、クロアチアは6.2億円/クラブで運営しており、33.4億円/クラブのJリーグとはおよそ5倍以上の開きがあります。下記がレポートにあるクラブ収支一覧です。

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トップのディナモ・ザグレブで売上19.3億円で運営費は33.8億円です。レポートを読むとこの収益の内、3億円がザグレブ市からの寄付、9億円が選手移籍収益なので、スポンサー・チケット・物販だけでは運営費を賄えていません。この年のJリーグで行くと、柏、清水、神戸、広島くらいの運営費規模です。
また、リーグ全体の収支をみるとほぼ全てのクラブで赤字となっており、クラブ経営の難しさを物語っています。一方、Jリーグはクラブライセンス制度が2015年から導入されたこともあり、赤字経営クラブは激減し、全体収支もプラスです。

外国籍選手・選手評価額・選手移籍金

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ピッチ上に6人まで外国籍選手が入れることから、1チーム平均7.8人が外国籍選手であり、選手平均年齢も23.5歳と若いです。リーグ全体での選手評価額は201億円になり、20.1億円/クラブと試算しています。

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一方Jリーグですが、Transfermarktに2015年・2016年の数値がなかったので、直前の2014年の数値で比較します。平均で4.7人の外国籍選手が在籍し、選手平均年齢は24.6歳です。2015年時点でJリーグは外国籍選手登録が3名+1名(アジア枠)+2名(Jリーグ提携国枠)だったので、平均と大体かさなります。
選手評価額は276億円(≒120円/€)となり、15.3億円/クラブで、クロアチアの方が選手価値が高いという結果です。

また、クロアチアのような小国リーグはやはり選手移籍金で稼ぐことが念頭にあるので、

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上記表の通り、移籍金収益は大きな収入源となっています。1995~2016年までの累計で移籍金収益は428億円、利益は338億円となり、平均して収益19.5億円/年、利益15.4億円/年を稼いでいます。しかし、それでも運営費を賄えていないことになっています。


プルヴァHNLの考察まとめ

国の人口・経済規模、クラブの経営状況を見るに2015年時点でとても厳しい環境の中、リーグを運営している状況を見ることができます。
ディナモ・ザグレブが圧倒的な力を持っていますが、それはやはり運営規模が他のクラブに比べて10倍以上の差になっており、その状況がリーグタイトルの独占を招いていると言えます。また、放映権について触れられている記述がレポート内になかったことから、放映権収益はほぼ稼げていない状況であることも推察できます。
選手人件費が安く、リーグレベルとしてもそこまで高くなく、欧州の他のリーグへのステップアップの場所として、有名・無名関わらず日本人選手たちが移籍先に選ぶ理由もわかります。ただ、言語的な問題から順応するのは難易度の高いリーグでもあるでしょう。

ナショナルチームを支える選手たちは、トップレベルで戦う力と上昇していく給与を賄うためには国内リーグに居続けることは難しく、クラブとしても運営上選手売却は避けられないこともあり、代表クラス選手のそのほとんどはヨーロッパ各国のトップリーグでプレーをしています(Transfermarkt)。それにより、近年のクロアチア代表の競争力が保たれている状況です。

各国リーグの観点から考察を続けてきていますが、サッカーに限らず”人口”と"経済規模"はビジネス運営をしていくうえで本当に重要なファクターだと改めて感じます。特に、ヨーロッパ各国リーグにおいて、その力の差はどんどん開いていますし、今後も開き続けていくでしょう。

そういう意味で、日本という国は、人口減少が始まっているとはいえ、1億3000万人近い人口を抱え、世界第3位のGDPを誇るのであれば、まだまだスポーツ産業の発展する余地は大きいと考えられます。人口規模から行くと、東アジア、東南アジアの各国の成長余地も大きいはずで、ここをいかに取り込むことができるか、が次のサッカー産業における生き残りのカギになると思わずにはいられません。

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