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【店舗調査記録】THE RESTAURANT / EAT PLAY WORKS

 恵比寿横丁、渋谷横丁、虎ノ門横丁…世はまさに”横丁戦国時代”!!3密防止もなんのその、今宵も若い男女が集まる横丁ですが、今回往訪するのはそん横丁業態に新風を巻き起こす、広尾の「THE RESTAURANT」。今年7月にオープンした横丁業態のネクストステージを示す注目施設です。10年ほど前からにわかに注目を集めはじめ、もはや定番化しはじめた”横丁”という業態。今回は横丁ブームの背景を振り返りつつ、「THE RESTAURANT」の魅力についてむにゃむにゃ考えていることを垂れ流します。

■横丁ってなんだ?

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 新宿のションベン横丁(現:思い出横丁)は戦後の闇市をルーツにもつ、とどこかの店の女将さんから長々と聞いたことがあります。狭い路地に飲食店が密集し、狭い店内で肩を寄せ合って酒を酌み交わすうちに、店主も客も入り混ぜで愚痴やら噂話やらで盛り上がる。会社も肩書きも下手をすれば本名すらも知らないけれど、いつもの店出会えば「よぅ!」と声を掛け合う仲間たち。「コミュニティ」なんて言葉が出回るよりもずっと前から、自然発生的してきた人間関係こそ、”そもそもの横丁”です。

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 最近市中で多く見かけるようになった”横丁”は、こうした”そもそもの横丁”を模すことで昭和のノスタルジーとコミュニティを醸成することを狙った飲食業態です。ハード面や契約面では、フロアやビルなどを一社一括で賃借する点に特徴があります。広いスペースを一括借りすることで、坪賃料を下げ、より自由度の高い店舗設計が可能になります。賃借人となるプロデュース会社は全体のコンセプトを組み立て、あたかも多数の店舗が入り乱れているかのように店を配置する、もしくは自らリーシング(出店交渉)を行い小割りにした区画を飲食店に貸し、販促まで行います。飲食店側からすると、利便性が高く店舗集約のある場所に、より小さな区画でローリスク出店できるメリットがあります。また、デベロッパー視点で行くと、リーシング(出店交渉)を丸投げし、一定賃料収入を確保した上に、施設の話題作りにもなるという、一石二鳥三鳥の仕組みです。横丁業態の代表格は、2008年に開業した浜倉的商店製作所の恵比寿横丁。今年開業したRAYARD MIYASHITA PARK(三井不動産)の渋谷横丁や、虎ノ門ヒルズビジネスタワー(森ビル)の虎ノ門横丁のように、大手デベロッパーの大型施設内にも出店するようになりました。

 ちなみに、似たような括りでよく紹介される業態で”のれん街”もあります。こちらはビルやフロアではなく、商店街や地域の複数の空き区画を一社が纏めて購入もしくは賃借することで地域一体をトータルプロデュースするもので横丁とは若干違うと私は認識しています。スパイスワークスホールディングスのほぼ新宿のれん街が事例にあげられ、今では地方のシャッター商店街などの復興にも活用されるスキームになっていますので、こちらも注目です。

■THE RESTAURANT / EAT PLAY WORKS

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 おそらく”我が人生から一番遠い街「広尾」”。もしも、人生何度かトライできるなら、NATIONAL AZABUが日常にあるハイエンドな暮らしをしてみたい…。久しぶりに広尾にきたら、神戸屋跡にTruffleBAKERYできてるわ、ルークスロブスター跡地にTHE PIZZA TOKYOなるベタベタな店できてるし、あれ?あの店なくない?この空き物件なんだったっけ?…と、とにかく良くも悪くも新陳代謝が激しい街です。一方で、SAWAMURAのようにすっかり街に馴染んで長く愛されるお店もあり、より本質的な価値にしっかりと評価を与える街であるように感じます。

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 そんな広尾に新たにオープンしたのが、EAT PLAY WORKSです。地下鉄の入口とヴィノスヤマザキの間の路地からその姿がお目見えします。

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 商店街側から見ると隣接するビルにも馴染んでいてとても好印象。1階はブルーボトルコーヒーで、三重県のブリュワリーと共同開発したペールエールが話題になっているほか、カクテルやオリジナルハイボールなどもあり、店内ではアルコール片手にオンラインMTする外国人がいたりして…なんだよ…素敵かよ。

 デベロッパーは野村不動産。商業よりも住宅のイメージの強い野村さんですが、最近は飲食系の複合ビルGEMSシリーズを急速展開しています。GEMSシリーズと今回の物件の大きな違いは、一棟丸ごとソルト・グループにプロデュースを任せたことでした。実際に施設内に入るとわかるのですが、こちらの物件…とにかく「地形(ジガタ)が悪い」。間口が狭く奥に細長い形状は、広尾駅近の超好立地条件をもってしても、出店交渉にかなりの苦戦が予想されます。おそらく、従来のGEMSのようにワンフロア毎のテナント貸は現実的ではなかったはずです。下記のインタビューにもある通り、当初は一店舗としてソルトに出店交渉したところ、逆に一棟貸しの提案をいただいた経緯がある様子。

 1〜2階がTHE RESTAURANTという「オトナのフーディーが集まる、‟ハイエンドな横丁”」。3〜6階がメンバー制のラウンジとオフィスです。3〜6階でコンセプトを表現しつつ、1〜2階で実利とって行くイメージですかね。

 ぜひ、HPご覧いただければと思うのですが、↓見て!この統一感!わざわざ、各店の商品揃えて撮影しているの、素敵!手が入っているのも動きあっていいですね。

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 中に入ってみると、平日夜にも関わらず、とっても賑わっていました!細長のフロアにカウンタースタイルの店舗が張り付き、それぞれに10〜20席。共通意匠は基本的に床面のみで、壁やサインなどの造作は各店舗で作られているうように見えます。ちなみに…某◯ノ門横丁では共通意匠が全体をすごくチープにしており、とても悲しかったので、なおのこと今回の意匠が好印象に感じました。

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 各店の自由度は造作だけでなく、運営面にも現れており、店休日も各店が自由に設定できる様です。上の写真、右側のビストロネモを見ていたら、お向かいの佐田十郎のお兄さんが「今日はネモさんおやすみですよ〜」とにこやかに教えてくれました。もちろん、焼き鳥いただきました。商業施設では「店休は悪」というイメージが未だに強いですが、実際お客様からすれば「じゃぁ、また今度きてみよう!」というむしろプラスの動機にもなるのではと思います。また、「THE RESTAURANT」には、横丁業態でしばしば見られる”共有席”がありません。共有席とは「どこのお店の食べ物・飲み物も持ち込みOK」の席ですが、はっきり言ってこれがうまく行っている事例はほぼ皆無。大型モールのフードコートなら良いですが、お酒を出す店舗に共有席は合わないです。お酒を伴う飲食店の場合、単に食べ物が美味しいだけでなく、内装や接客の仕方など、店に関わる全てに関わるストーリーで店の個性が生まれます。それが”心地よい!”と思えたときに初めて、お客様は「あーいい店だなぁ」と感じるもの。なのに、店のストーリーや店員の目の行き届かない”共有席”を入れられてしまうと、その全てが崩れてしまい「なんとなく居心地が悪い…」を引き起こしてしまうのです。「いろいろなお店のご飯が食べれて良いでしょう?」は完全に施設側の押しつけでしかないのです、残念ながら。「THE RESTAURANT」では、各店の席が明確に分かれており、それぞれできちんとサーブ・接客ができるようになっています。”横丁”といえど、各お店の個性きちんと守られており、とても居心地の良さを感じます。それでいて、周りのお店との緩い一体感も感じられ、これもまた居心地が良い。

(ちなみに…”お酒を出す共有席”は西日本以南では成功事例がいくつかあり、これを模して東京でも展開した事例があるのですが、なぜか東京ではうまくいかないんです。理由はよく分からなくて…これは目下私の研究課題です。)

■THE RESTAURANTに見るこれからの東京のグルメシーン

 星付きレストランのシェフによる、予約不要で入れるカジュアルレストランを集めました。世界的に見ても、トレンドはカジュアルに向きつつある。ロンドンもそうですし、マンハッタンのソーホー地区もそう。予約を取らないカジュアルレストランに感度の高い人が集まっているんです。

 上に紹介したソルトグループの井上氏のインタビューの一説です。美味しいものは食べたい!だけど、肩肘はらず等身大で楽しみたい。そんな大人が集いゆったりとした時間を過ごす。そのための、施設の解として”横丁”という姿が選ばれたようです。お店側にもメリットは大きいです。都心では賃料が高く、星付きシェフがカジュアルな2号店を開業するにもリスクが大きすぎます。横丁の業態であれば、小面積で設備への投資コストも抑えて出店することができます。

 ご存知の通り、飲食店は大きな苦境に立たされています。連日取り上げられている通り、家賃を含む固定費がその経営を圧迫しており、広尾の街でもテナント募集中の飲食店跡地を多く見かけました。一方で、片田舎のリストランテにお客様が集まっていたりもします。都心の一等地に店を構え、家賃分を料理に加算しても、お客様には見透かされてしまう。そうした中で、限られた土地を複数店舗でシェアする”横丁業態”は、より本質的な価値を評価する大人たちにも好印象を与えるはずです。THE RESTAURANTのようにそれぞれの個性を尊重した上質な”横丁”が、東京の新たなグルメシーンを作っていくことを楽しみにしたいです!


 


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