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【全4回】フードマーケット未来予想図ー第2回:SDG'sでメシが喰えるか?食消費トレンドの現在地

 全4回の連載でお送りしている、『フードマーケット未来予想図』。第1回は、『”化石化”したデパ地下型商売』と題し、20年続いたデパ地下型商売を紐解くとともに、昨今のライフスタイルの変化や総合スーパーの進化をご紹介してまいりました。第2回目の今回は、最近のフードマーケット で注目されるトレンドをご紹介していきます。具体的なトレンド商材などについては次回『発表!2021年弁当・スイーツ最旬トレンド!(仮)』でご紹介しますので、今回は消費者の嗜好変化や社会的な変化を、相変わらずの独断と偏見でお伝えしてまいります。

▼第1回『”化石化”したデパ地下型商売』

※なお、本記事では生鮮・惣菜・弁当・スイーツなどの食物販市場を中心として”フードマーケット”と呼称しています。

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フードマーケット 未来予想図ーその2 SDG’sでメシが食えるか!?食消費トレンドの現在地

 ファッションに流行があるように、フードマーケットにも常にトレンドがある。一過性のいわゆる”ブーム”もあれば、技術革新や研究によって今までの常識が覆るようなことも。食の領域は日々の暮らしに密接に関わり、全人類が避けて通れないカテゴリーであるからこそ、分野にかかわらず様々な社会背景やマインド変化がそのトレンドに大きな影響を与えることとなる。フードマーケットに関わる人間は、そうした幅の広い視野を持って世の中の変化を捉え、未来のトレンドを見ていくことが求められている。『フードマーケット 未来予想図』第2回は、”食べる”ことへの価値変化から私たち食消費者のマインドが2021年現在どのような様相を示しているか探っていきたい。

 ・”食べる”とは?

 約9万回。
一日3食、80歳まで生きるとしたときの人の一生の食事の回数である。多い?案外少ない?どう思われるだろうか?極端ないいっぷりをすれば、安全で確実に食事にありつければ最低限の生理的欲求は満たされる。ただし、日本のように飽食の社会ではそれだけでは人々は満足しない。より安全な食事、より美味しい食事、といった快適性を求めるものから、地産地消や友人知人との食事、宗教的であったり主義・主張・思想を反映する食事などなど…欲求階層でいうところの承認欲求や自己実現欲求までもを満たすことが、現代の私たちのとっての”食べる”である。

 食の価値については、昨年シグマクシスが発表した書籍『フードテック革命』に新たな常識や視座が含まれており、未読の方にはぜひチェックしてもらいたいワクワクする内容が多い。

 本書の中で、2017年のSKS(Smart Kitchen Summit)のプレゼンテーションで、現代における食の価値に対し従来の「効率性」「美味しさ」「利便性」に加え、新たに12の項目が提案されたことが紹介されている。※Institute for the Future(アメリカ未来研究シンクタンク)、Rebecca Chesney)そこには、「community(コミュニティの育み)」「cooperation(協力)」「inclusivity(参加)」「discovery(発見する喜び)」などのより個々人の主体性や関係性を重視した価値観が並ぶ。これまでの「近くて便利!」「安い!早い!美味い!」といった価値観は個々人に寄り添う多様なニーズにはもはや合致しなくなってきている。むしろ「わざわざ」「時間をかけて」「少しお金をかけて」、「community」に「cooperation(協力)」したり「inclusivity(参加)」して「discovery(発見する喜び)」する、そんな体験に”食の価値”を求める人が年々増えているように感じられる。これは、高所得層や海外に限った話ではない、前回の投稿で指摘したように、「効率性」「美味しさ」「利便性」を求めたデパ地下がライフスタイルの変容とともに”化石化”してしまったことも象徴的な一例である。食に求める価値は私たち一人ひとりの中で確実に変化している。
 さて、あなたは次の食事、9万分の1回の食事をどのように”食べる”だろうか?

 ・トレンドとしてのSDG's

 今年の7月のHanakoの巻頭特集は「EXITと考える「私たちにできること」ヒュイゴー‼︎」だった。今、書店の店頭で平積みになっているファッション紙やライフスタイル誌を手にとると多くの誌面で何かしらSDG'sへのコーナーや特集が組まれていることに気がつく。SDG's自体が国連で採択されたのは2015年のことだったが、つい最近までそれは”中年おじさんの高そうなスーツの胸にひかるカラフルなバッジ”という程度にしか認識されていなかったように思う。日本国内で大きな変化が現れたのは2019年12月発刊の女性誌FRaUの特集であった。中年おじさんに限らず勤め先でSDG'sの取り組みを意識する機会の多かった男性に対し、消費トレンドを担うにもかかわらずSDG'sへの認知の低かった女性をターゲットにしたことは今でも大きな反響を生んでいる。それからたったの1年半でSDG'sはヒュイゴー‼︎するまでカジュアルに咀嚼された。

 一方で、「SDG'sも所詮トレンド」と甘く見ると痛い目にあう。「食品ロスも問題だけど 洋服ロスもヤバイ。」をキャッチコピーに開業した激安の殿堂ドン・キホーテの新業態「オフプラ」は開業からわずか10ヶ月で閉店した。海外ブランドの在庫処分品を買い叩いて仕入れて激安で販売することが、どうも本質的でないことくらい流石に消費者にも気がつかれたのかもしれない…。大切なのは”トレンドとしてのSDG's”ではなく、価値観の変容である。先に述べたように食に関しての価値変容が認められるようになったことと合わせてみれば、昨今の消費に対するより本質を求める価値変化の波にちょうどうまい具合にSDG'sが合致した、と考えていた方が消費トレンドの掴み方としては正確といえる。SDG'sありきの業態・商品づくりがうまくいかないのは、SDG'sが求められる価値の本質ではないからに他ならない。

 ・欲しいのは”映え”ではなく”情報” 

”本質を求める価値変化”と書いたが、では今フードマーケットに求められる”本質”とは何か?考えてみたい。

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 2017年、”インスタ映え”が流行語対象にもなり、フードマーケットでも様々なトレンドが生まれた。”ジャーサラダ””断面萌え””ぎゅうぎゅう焼き”、特にスイーツでは”タピオカ””パンケーキ””かき氷””ロールアイス”映えるスイーツ店に連日行列ができていた。しかし、それも3年以上前のこと…。外出自粛の影響もあり行列を伴うブームは嫌厭され、自宅で過ごす時間が長くなった分、SNSを通じて得たいのは単なる”ビジュアル”ではなく、”情報”に置き換わった。

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 今、インスタグラムやYOUTUBEで注目されるのは、主に”お役立ち情報”だ。新商品の購入レビューやお部屋の収納術、お金の貯め方からビジネススキル、ありとあらゆる”役立つ情報”が溢れている。中でも人気なのは”食”に関する情報だ。短い料理動画や有名シェフによる”時短””簡単”と銘打たれたレシピ動画は、おうち時間の充実にも貢献した。ビジュアル重視の”映え”は情報としての価値は弱く、より個々の思想やストーリー、製造の工程や文化の色濃い食の情報に注目が集まる。次週また取り上げたいと思うが、“ヴィーガン”“発酵”“スパイス”といった、よりコアで専門性の高い情報は価値を持つようになったほか、見慣れない聞き慣れない郷土料理などが注目されるのもこの傾向を表している。
 フードマーケットトレンドの現在を考える上で、この”情報”の重要性は無視することができない。

 ・”ヘルシー”の新常識

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 ”情報”の中でも特に高い関心を持たれるのが”健康”だろう。言うまでもなく、食と健康は元来結びつきが強いため、健康意識や情報の変化は食トレンドに大きく影響する。上記資料の通り、今健康な食の常識は”バランス型”である。食事全体のバランスや”旬の作物を食べる”、”腸活”や”免疫力アップ”などこちらもまた見た目の美しさだけでなく内側から健康になることを目指している。にもかかわらずいまだにデパ地下で『野菜美人弁当』などと冠した弁当が並ぶのを見ると興醒めしてしまうのだが、一方で栄養バランスや旬を取り入れたロケ弁や飲食店のテイクアウト弁当が今、注目を集めている。

 ・食のオンライン化ーD2C

 アマゾン・楽天などオンラインショッピングは今や私たちの生活に欠くことができない。ただ、なま物である食カテゴリーではなかなか浸透しずらい傾向にあったのも事実である。2017年にはAmazon.comが生鮮食品配送サービス『amazon fresh』を開始したが、2021年現在でも東京都(18区・2市)・神奈川県・千葉県の一部エリアのみの対象となっており、広がっているとは言い難い。一方で、農産品におけるD2C(Direct to Consumer)は急拡大している。産直ネット通販の食べチョクは2020年3月から8月のたった半年で月間流通額を35倍に跳ね上げた。ポケットマルシェ でも2020年2月から10月にユーザー数が18万人も増加し、登録する生産者の数も2021年4月に5,000人を超えた。これは一年前の倍以上の数である。産直ネット通販がこれほどまで急激に伸びたのは、外出自粛によるECの伸びも要因だが、食に対する価値観の変容も大きい。食に「community」「cooperation(協力)」「inclusivity(参加)」「discovery(発見する喜び)」といった価値を求めるようになったことで、生産者の顔が見える事は食の安全以上の意味を持つようになった。ポケットマルシェのように直接農家さんに「おいしかった!」と伝えることのできるコミュニティの提供は他には替えがたい食の価値として消費者の心を掴んでいる。

 ・食のオンライン化ー日本を救う驚異の冷凍技術

 食のECに関して加えて注目したいのが、冷凍技術である。デイブレイク株式会社は日本初の業務用急速冷凍機の専門商社として2013年に創立したスタートアップ企業である。「冷凍庫で専門商社??スタートアップ??」と思うかもしれないが、社会課題の解決まで見据えた非常に注目を集める企業である。食材に合わせた適切な冷凍技術は、商材としての農水産物の価値を高めたり保持したりすることができる可能性を持っている。例えば、天候の影響を受けやすい農家では豊作も多くのロスを生んでいる。短い収穫時期に十分な販路を確保できていなければ、熟れすぎた農産品は廃棄せざるをえない。しかし、高性能な冷凍(解凍)技術があれば豊作年に収穫した作物を冷凍して保存し、採れたてと遜色ない品質を保ったままの翌年に出荷することができる。廃棄作物の課題を解決するだけでなく、農家の安定収入を確保し、新規就農者のハードルをさげ、ひいては日本の過疎地域の課題まで解決するような可能性を冷凍技術が持っているというのである。
 とはいえ、業務用でしょ?と思われたかもしれないが、ECの広がりとともに冷凍技術に対する消費者意識もかなり変化してきている。以前、2020年のクリスマス商戦について記事を書いた↓際にも指摘したが、昨年は”冷凍ケーキ”の需要がかなり高まった。実は製菓業界では元々冷凍素材を使用するのは一般的な製法の一部で、世に出回っている生ケーキや洋生菓子の多くは冷凍で作られたものをわざわざ解凍して店頭に陳列している。それを冷凍状態のまま販売することで、美味しさをキープできるだけでなく、クリスマスに見習いパティシエが徹夜をしなくても済むようになる。

 また、今までお店に行かなければ購入できなかったケーキを、遠方からでも購入ができるようになり地方の小さなケーキ屋さんなども日本全国にその味を届けることができるようになっているのである。冷凍技術の進化と消費者の冷凍への意識変化は、フードマーケットの可能性を大きく広げている

 ・2021年、食消費トレンドの現在地

 さて、ここまで現在の食消費トレンドの土台をご紹介してきた。おさらいすると…
・SDG's意識の一般への広まり
・専門性の高い”情報”に価値がある
・健康意識はバランス型に
・D2Cの広まり
・冷凍技術への消費者意識の変化
 こうしたトレンドの変化は、具体的なヒット商品や売り方などに直結する。次週紹介する『発表!2021年弁当・スイーツ最旬トレンド!(仮)』では、より具体的な事例や店舗などをご紹介したい。ただ、意識を持っておきたいのは”SDG's””情報性””D2C”といった一つ一つの事象ではなく、その前提として消費者が求める食への価値そのものが変わっているということである。繰り返しになるが「効率性」「美味しさ」「利便性」は食への価値としてダウントレンドであり、一人一人の主体性や関係性に紐づく体験やコミュニティにこそ食の価値が求められている。トレンドの背景にある価値変化に意識を向けておくことで、この先のフードマーケットの変化にも柔軟に対応していけるはずだ。

フードマーケット 未来予想図ー第2回:SDG'sでメシが食えるか!?食消費トレンドの現在地

おしまい

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 いかがでしたでしょうか?第1回の投稿では”読者を選ぶ記事””マニアックすぎる”などと指摘いただいて、少し反省した結果…今回もやっぱりマニアックになってしまった気がする…。来週はちょっと気分を変えて、今年注目のフードトレンドをいろいろなお店や商品をご紹介しながらお伝えしていきたいと思います!


『フードマーケット未来予想図』今後の投稿予定 ※金曜17:00頃更新予定

 7/30 第1回:”化石化”したデパ地下型商売 

 8/6  第2回:SDG'sでメシが食えるか!?食消費トレンドの現在地

 8/13 第3回:発表!2021年弁当・スイーツ最旬トレンド!

 8/20 第4回:フードマーケット未来予想図

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