漫画の描き方のコツ備忘録vol.3【ネーム・プロット編】②【登場人物の人数とページ数について】その2
漫画の描き方のコツ備忘録vol.3
【ネーム・プロット編】②
【登場人物の人数とページ数について】その2
今回も私が先人の手記や言葉から学んだり、応用したりして漫画に生かしてきた制作の役に立つ情報を、小筆として書き留めていきたいと思います。
今回は登場人物の人数とページ数についてのその2、前回の続きから、ちょっと長めの記事です。
前回を未チェックの方は、よろしければこちらよりご確認下さい。
長いので目次をば。
制作中に参考にする際などにもよろしければ。
5W1Hの中の1W「Who(誰が)」
まず、前回の続きに入る前に、話作りの基本と言われる【5W1H※】の概念についても触れていきたいと思います。
現在、取り上げているテーマ【登場人物について】は、この中の
1W=「Who(誰が)」にあたる部分です。
通常の会話でも、他人と楽しく話を共有するためには
〈主語〉「Who(誰が)」を明確にする必要があるかと思います。
例えば突然、友人から
「昨日、原宿でラーメン食べてるのを見てたらすっごい面白くてさ!
それが緑色だったからさぁ、もうよじれるかと思ったよ~!」
なんて話しかけられたら
「え?な、何?誰が?…あなたの話?誰がラーメン食べてて誰がそれを見てたの?何が緑色??腹?腹がよじれたの??」
みたいになるかと思います。
せっかく面白いと思った話をシェアしたい思っても、主語がなかったり曖昧だったりすると、聞き手は話の主旨が掴めず興味が持ちにくくなります。
肝心の面白さを感じた部分や、伝えたかった事が分かりにくくなり非常にもったいない事になります。
漫画でも、自分が伝えたい物語を読み手さんに伝えるためには、主語となる「Who(誰が)」を絵として、またセリフやシーンとして、明確に分かりやすく見せていく必要があります。
そしてこれが前回の最後で触れた、
どんな「役者」が、どのような「役どころ」で漫画の中に存在するのか、それぞれのキャラクターの【役割】を明確に表現する事によって、描き手が話している内容(物語)が読み手さんの方に伝わりやすくなる。
という事と同じでもあります。
誰がストーリーの一番の主語〈主役〉であって、
誰がその主役の物語の中で一番重要〈準主役〉な役回りなのか、
それをさらに面白くするエッセンス〈脇役〉が誰なのか、
ここをしっかり描ければ格段に作品が面白くなります。
一体この物語の主役は誰なのか。誰が何のために何をするお話なのか。
なかなか難しい事ですが、これを描くのが漫画制作の楽しい所でもあります。
それでは、前回の続きに入ります。
前回、16ページの読み切りで物語を動かす主要キャラクターは
【主役1】【準主役1】【脇役1】の計3人くらいまでが良いというお話と、それぞれの役割を差別化するための要素についてのお話をいたしました。
それは、
「出番の多さ」
「セリフの多さ」
「モノローグの有無」
「感情を表すエピソードやシーン」
「名前を呼ばれる回数」
「読み手に名前を覚えてもらえる役なのか」
「性格上の特徴」
「外見上の特徴」
「コマ占有率」
などなどなど他にもありますが、基本はこれら複数要素の組み合わせであり、これらが有る、かつ強いほど物語の中でのその人物の印象が強くなったり、主役に近く感じるのでそれらを意図的に差別化して描いていく。
そうすると役柄のメリハリが出て、役割=主語がはっきりとする。
という法則があります。
ここで、それぞれの役柄の特徴を字引のようにざっくりとですが文章に落とし込んでみると以下のようになります。
辞書のようなものですので、流し読みでも大丈夫です。
分かり易くするために、多くの方が見た事があると思われる〈ドラえもんに例えると〉を下に付属いたします。
●【主役/主演】とは
【(姓)名、あだ名、名前】を、読み手にしっかり覚えてもらえる人物。
また、その【性格】、ひいては読み手に【What(何を)】【Why(何故する)】を漫画の中の役者の内で、一番分かって理解してもらえる人物でもある。
主役の言動が全く理解してもらえないものだと、読み止まれてしまう事が多い。
通常は彼らの感情を追うように、物語が進行していく。(わざと崩したストーリーなども存在する。)
大抵の場合、一番出番やセリフが多い。
しっかりと性格と性質に合い、読み手の客層に好まれるデザインがされているのが理想。
この人物を好きにならないと読む気になれないタイプのストーリー(恋愛物や王道ラインの物語など)であれば、
物語の始めの方で共感してもらう。また、共感出来なくても構わない話の場合でも、なぜ彼(彼女)がそのように行動するのか、主役の望みがなんなのかを作中できちんと伝え、理解してもらう必要がある。
※実際に話を作るときには、他人にセリフとしてごく自然に何回も名前を呼ばせ印象づけたり、本人が喋らなくてもそのキャラクターの考えや心情をモノローグで話させてあげたり、その裏付けがある行動をさせたり、
作中でエピソードとして、クライマックスやオチの行動やシーンまでに至る納得のいく人生の経緯を見せたりする。
読み手視点なら、冒頭にナレーションベースで主役の人生の顛末の説明が長く続いたりすると読む気力が無くなってしまう方も多いはず。
まず登場人物なるべく主役に興味を持たせるような展開をシーンとして見せないと、読み進めてもらうのが難しい。
●【準主役/助演】とは
主役/主演より少し立ち位置を下げた、物語を動かすために必要な人物。
多くの場合、主役が動く動機になったり、主役に行動を起こさせたりする重要な役回り。
大抵は、主人公が何らかの望みを実現するための大事なキーパーソンになる。
※【名(あだ名)】を主役に呼ばせたり意識させたりして、主役に彼らの存在を認識させ、読み手は主役の視点で彼らを覗き見る事が多い。
時折主役の特権の【モノローグ】を彼らが使う事もある。
外から見た視点での意外な主役の印象を教えてくれたりもする。
主人公の次にセリフや出番が多い重要な役回り。
読み切りであれば大抵、作中の彼らの言動や存在が、物語オチに直接の影響を与える=主人公にとっての行動原理になる事も多い。
主人公に感情移入しにくいタイプの年代や性別、性格、世代の読者が、彼らの視点で物語を読む(主人公を見る)場合も多いため、
超人的な能力や性格の主人公の場合には、少し現実の人間に近かったり、読者層の平均値に近い考え方や年代、性別、性格などのキャラクターを求められる事もある。
(現実っぽい人を出してしまうと野暮ったくなる世界観の作品もあるので、無理に全ての作品に等身大を。とかにしなくても個人的には良いのでは?と思います。そういう場合の登場人物は、平均よりダメ人間な部分や、人格に欠けた部分があるキャラだったりもします。
ただ、等身大っぽい人物を準か脇に入れる、または主役にすると格段に魅力的になる作家さんもいらっしゃるので一概には。)
◇ライバル、憧れの人物、恋愛対象、相棒など。
●【脇役】とは
この人物が居る事で主役や準主役に困難や問題が起きたり、または困難にある主人公を助けたりする、気付きを与えたり主役格の人物の心情や状況に波風を起こしたりその波を鎮めたり。
物語の歯車の役割がある。
また、主人公と準主役をさらに外側の視点から見せる役割などもある。
出番は少ない事もあるし、通り名や通称、役割名などが出てくるが、読み切りだと本名は出なかったりもする。
※物語上の重要なエピソードでなければ、彼らの情報はあまりシーンにはせずセリフに少し入れたり、1、2コマで済ませるなど、なるべくそこに読者が感情を動かさないような表現にとどめると主役格よりも印象が薄れる。
◇兄弟姉妹、父母おばおじ、親類、友達、恋のライバル、先輩後輩、監督、犯人、敵キャラ、依頼人、神様、先生、ペットなどなど。
●【モブ】とは
周りから主役がどう思われて居るかや、主役が他人をどう思っているか、そこがどんな世界なのかなどの表現に使われる事が多い。
無機物の背景ではなく、人物関係の背景のような感じ。
物語によっては全く出ない事もある。
※主要キャラクターほど印象に残らないように意図的に印象を薄く、情報を絞って描く。名前がつき、セリフが出来て、性格の紹介が入り、ストーリーに干渉し始めると、もうモブでは居られなくなる。
キャラクターの重要度を差別化するための、基本的な要素は以上となります。
あとは、自分がどのような人物を組み合わせて、どんなテーマの漫画に仕上げたいのかにより、差の付け方や要素も様々に変わってきます。
また、ストーリーによっては主要キャラクター情報を出し惜しみしなければならない時もあるかと思います。
その違いが描き手さんそれぞれの個性でもありますので正直、数値的にこう!という結論がこのテーマでは出しにくい所です。
しかし、とかく漫画の主語を明確に描くには、
などの基本的な項目に気を付けながら〈主語〉「Who(誰が)」を、丁寧に分かりやすく描いて行けたら、
また、ちょっとキャラクターいまいちだなーという時には上記の基本チェックから著しく外れてはいないかな?
など見直しのために使っていただくと良いのではないかなと思います。
主語「Who(誰が)」の作り方
では最後に、ここまでの説明させていただいた内容から、実際にはどうやって絵がベースの漫画に主語「Who(誰が)」を作るのかという部分を、一つの具体例を上げて見てみたいと思います。
漫画においての「Who(誰が)」とは
「どんな特徴を持った、
どんな外見で、
何という名前の、
どんな目的や願いのある人物が…」
〈主役〉なのかあるいは
〈準主役〉なのか
〈脇役〉なのかを
ストーリーの中で強弱を付けて自然に描いていく作業でした。
多くの登場人物の中での重要度の差を読み手に見せるためには、まず主要キャラクターの【人数を絞る】必要があり、
さらに【役割】ごとにキャラクターを差別化し、存在感に強弱を付けて【焦点を絞る】必要がありました。
要約すれば読み切り漫画の中で「Who(誰が)」の1Wを作るとは
という作業でした。
すでに情報量ヤバめになっておりますが、この小筆を文字で書くだけで終わると非常に消化しにくくなりますので、
実践編として「Who(誰が)」が曖昧な読み切り漫画の冒頭プロットっぽい例文の変化から、直感的な理解を深めていただけたらと思います。
では早速【主語が曖昧】な物語冒頭プロットから失礼します。
【プロット実例】1W「Who(誰が)」を作る。
恐らくこの例文だと
〈When〉 暑い日
〈Where〉学校の教室
〈Who〉 鬼瓦という強面そうな先生
〈What〉ヅラを
〈How〉むしり取られ熱中症から救われた
そして、それは
〈Why〉誰かの善意からの行動だった
〈Who〉それを見て感動した…?
ようだなぁ程度は、ボヤーンとしたイメージとして伝わったかと思います。
しかし肝心の〈ヅラをむしり取った人物〉やその行動の意味、〈僕〉や〈鬼瓦先生〉にも大した印象がなく、漫画の原作プロットとしてあまり興味の湧かない文章だったかと思います。
これは主語「Who(誰が)」の特徴が明確でなく【焦点を絞っていない】ため、誰が見るべき主要キャラなのか、誰のためのどんなストーリーなのかが示されず起きている現象です。
このように全体的に焦点をボカして〈誰が〉を描かないと、キャラクター達に魅力を感じない仕様となり、キャラクターに魅力がないためにストーリーへの興味も薄れる事が分かっていただけるかと思います。
これを漫画として読まされると、なかなかの苦痛が生じます。
別にドSではありませんが、苦痛のついでにここに【人数を絞れていない】を足してみます。
名前のあるモブを大量に投入し、誰が主要キャラクターなのかがより不鮮明になり、いつも元気な原チャ女子の山田さんと、ヅラと鬼瓦先生の輝きが若干、印象に残ってしまったかと思います。
これは、山田さんと鬼瓦先生だけが人物としての特徴やどんな感情を持っているかが少し描かれていて、そこにスポットライトが当たってしまっているためです。
また、他の同列のキャラ名が見分けにくい〈〇藤〉さんに統一したのにその〈山田さん〉だけルールから外れたため目立ち、覚えやすくなります。
主要キャラの名付けなら効果ありですが、この場合は悪手です。
しかし残念ながら、このプロットの描き手が本当に書きたかった話としては
山田さんはただの〈モブ〉
佐藤さんこそが〈準主役〉
鬼瓦先生は〈脇役〉のつもりだった。
そして実は〈主役〉も目的も、テーマもすでにちゃんと存在していたなんて事も、ネームを〈あらすじ〉にするとこんな大惨事になっていた!
なんて事も実際にあります。
大げさな表現にも思えますが、特に新人の内は直している内にこういった枠組のネームに迷いこんでしまう、そして座標がよく分からなくなって深~い直しの沼にはまってしまう事があります。
極端には書いていますが、この状態がまさにこの小筆の冒頭の
「登場人数が多い」
「誰に感情移入したらいいかわからない」
「視点が定まらず分かりにくい」
と言われやすいネームに近い状況です。
ここまでが〈主語〉を作る作業において、避けたい注意点です。
では最後、この例文に【焦点を絞る】【人数を絞る】を行い、主語「Who(誰が)」この物語の主幹だったのかを明確にしてみます。
何だかキュンキュンする匂いがしてきたかと思います。異議は受付不可です。
最後はモブを削り、主役が登場し、ヒロインが登場し、鬼瓦先生が20年間ヅラを大事にしてきたという誰から聞いたのよそれというエピソードを削って、暑くても頑なに被っている程度におさめ脇役にも【焦点が絞られ過ぎない】ように変えました。文字数も減っています。
反対に主役とヒロインには、印象を強めるための「Who(誰が)」を装飾する要素を加えています。また、照れずに、主役の気持ちをしっかり表現するシーンを入れて、恋愛ものがテーマである事を明確にします。
そして他の〈5w1h〉要素からストーリーにあまり関わりのない、重複説明部分「蒸し暑い(日本の最高気温を更新=暑い)」を削除し、
ストーリーの転結に必要な感情を強調するような外的要因「高校生活最後の」は加え、より〈誰が〉により目が向くようにしています。
ヅラをむしり取って笑顔な〈ほのか〉さんという人物像と、〈主役〉のそんなほのかさんへの感情を描く事で、彼らがこれからどうなるのか?
どんな人物なのか?という興味が少し湧いたかと思います。
肝心な部分を強調するには、足し算だけでなく、余計な部分を徹底的に削除する引き算も必要となります。
最後の文章からは、
主役は
【一人称「僕」。
あと半年に卒業が迫っている。
ほのかさんというクラスメイト?に二年近く片想いをしている。
彼女の鬼瓦先生のヅラを笑顔でむしり取ってしまうような優しさ?に告白を決意するほどの魅力を感じている。】人物
準主役は
【ほのかさんという名前。
人助けのためになら多少過激な行動を笑顔で行うような性格。クラスメイト?
主役からずっと片想いをされている。】人物
脇役は
【鬼瓦先生。
担任。暑さで倒れる手前まで頑なにヅラを取らなかった。】人物
という情報が見えます。
重要な役割のキャラクターになるほど基本的には、情報量が多くなり、もしくは情報量は少ないとしてもその情報の読者に伝わる部分の【感情】【共感】の数値が高くなっているのがお分かりいただけるかと思います。
つまり、ただ情報を増やすだけでなく、
キャラクターへの興味を掻き立てる事が、スポットライトが強く当たっている事と同じ作用になります。
これは「キャラクターに魅力を」とか、「キャラクターの弱さを見せる」「キャラクターの特徴を描く」「ギャップ萌えを」「キャラが弱いからどうにかして」などと言われる事にも繋がる部分です。
そしてキャラクターの魅力は、感情の動きに密接に関係しています。
〈主語〉「Who(誰が)」を作るについては以上です。
さらに上級には〈主語〉「Who(誰が)」を魅力的に描くという作業があります。
ですが、無理矢理にそれを頑張らなくても〈主語〉「Who(誰が)」を〈きちんと丁寧に〉描くだけで、ある程度の魅力は出るんではないかなーと個人的には思います。
そもそもそのキャラクターを漫画に描きたいと思う時点で、作者としては魅力を感じているはずですし、その魅力を「そのキャラのためにも読み手さんに分かるように伝えてあげたい!」
という真摯な気持ちや熱量が大事なんかな~と思います。
藤子F先生も何かの折に「のび太の事を解ってあげてほしい」的な
(ニュアンスが違うかもしれません。原典を失念してしまいました。)
お話をされていたと聞いた事があります。
自分自身の一番の理解者になれるのが自分であるように、
自分の漫画の登場人物の一番の理解者は作者のはずですので、
表面的なキャラクター設定だけに目を向けるのではなく、一人の人物として理解を深めて何とか上手に推してあげたいものです。
私ももっと研鑽したいと思います。
今日の余談
現実世界でも、全く興味がなかった人や、言動がなんとなく嫌で苦手だな~と思っていた人と会話をしてみたら、
実は同じ趣味を持っていて好感を持つようになったとか、その人がどうしてそんな行動を取っていたかが分かって、そんなに嫌じゃなくなったという事があるかと思います。
人間心理では、相手をよく知る事でさらに魅力を感じたり、安易に嫌えなくなったりする作用があるそうです。
心理学なんかも、キャラクターを立てるのに役に立ったり、参考になったりします。
そう言えば前回、藤子F先生のSF短編集をおすすめしましたが何編もありますのでピックアップして、個人的に読み切り学習におすすめなのは『箱船はいっぱい』や『ミノタウロスの皿』です。
原作のドラえもんの魅力である、ちょっとダークで皮肉が強くてドライだけど情に厚いみたいな部分を切り取って、クオリティの高い作品に仕上げたような素敵な読み切りです。
どちらも、世にも奇妙な物語的な方向性の短編になっております。
未読でしたら前回上げたような先生方の作品もぜひご一読いただきたいなと思います。
きっともっと漫画が好きになるのではと思います。
【ネーム・プロット編】②【登場人物の人数とページ数について】は、以上となります。
次回も恐らく【ネーム・プロット編】になるかと思います。
時期や細かいテーマは未定ですが、よろしければまたお付き合いいただけますと幸いです。
この小筆はしばらく2週に一度くらいの頻度であげたいなーと希望しておりますが、創作優先にしたいので未定でございます。ネタがある限りは続けたいと思います。
それでは、最後までお読みいただき有難うございました!
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ご興味ある方はお読みいただければ幸いです。
作品概要は下のような感じです。
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