パキスタン(ギルギット・バルティスタン)旅行記0 〜準備編〜
2024年のゴールデンウィーク、私はパキスタン北部のギルギット・バルティスタン地方に旅行に行った。
2024年のGWは、元々は別の場所に行く予定だったのだが、諸般の事情によりお流れになってしまった。GWはそのままどこにも行かない、というのも選択肢のひとつだったが、せっかくのGWなので、前々から興味がありつつも具体的な旅行計画は立てていなかった場所であるギルギット・バルティスタンに行ってみることにした。
旅の目的
今回のパキスタン(ギルギット・バルティスタン)旅行は、私が去年・一昨年と行ったタジキスタン・パミール高原旅行の延長線上にある。
ギルギット・バルティスタンとパミールは、どちらも険しい山々に囲まれた厳しくも美しい自然が特徴であり、文化的にも近い。
今でこそ国境がアフガニスタンを挟んで2つあるものの、タジキスタン側パミールとは地理的にも近く、特にギルギット・バルティスタン北西部のヤスィン谷などは、ギルギット市よりもタジキスタン側ワハーン谷のほうが近いくらいである。
ワヒー語とブルシャスキー語
パキスタンの国語はウルドゥー語だが、ギルギット・バルティスタンでは地域言語としてシナー語、ブルシャスキー語、ワヒー語、コワール語、バルティ語など多くの言語が話されている。
このうちワヒー語はタジキスタンにも話者がいる、というより、タジキスタンとアフガニスタンにまたがるワハーン谷がワヒー語の原郷である。私は前回のタジキスタン旅行でワハーン谷にも行き、ほんの少しだけであるが現地の人とワヒー語でコミュニケーションを取ることができた。
また、前回のタジキスタン旅行中には、パキスタン出身のブルシャスキー語(ヤスィン方言)話者とブルシャスキー語で簡単な挨拶をする機会にも恵まれた。
それ以来、いつかパキスタン側のワヒー語圏でもワヒー語を使ってみたい、ヤスィン谷に行ってブルシャスキー語ヤスィン方言を使ってみたい、その他の言語も一言二言くらい使ってみたい、という思いがあった。
イスマーイール派
また、パキスタンは国全体としてはイスラム教スンナ派が主流だが、ギルギット・バルティスタンでは
スンナ派
シーア派十二イマーム派(現地では単に「シーア派」と呼ばれている)
シーア派イスマーイール派(のニザール派。現地では単に「イスマーイール派」と呼ばれている)
の3つが主要宗派として併存しており、特に北部ではイスマーイール派が多数派を占めている。
イスマーイール派(ニザール派)はタジキスタン側パミールでも多数派を形成しており、ギルギット・バルティスタン北部とパミールの文化的共通性の基盤になっている。
私はイスマーイール派(ニザール派)に関心を持っており、それが以前のタジキスタン・パミール旅行の主な動機のひとつであったし、今回のパキスタン旅行でも主な動機のひとつである。
今回の旅では現地の知人におおいにお世話になったが、そもそもそれらの知人と知り合いになったのも、大雑把に言えばタジキスタン側のイスマーイール派コミュニティーつながりである。貴重なご縁に感謝の限りである。
旅の準備
今回の旅は、自分的には「急遽決めた」旅である。とはいえ、時期的には1月頃で、出発までには3ヶ月以上あり、旅の準備はそれなりにすることができた。
航空券
航空券は、どうにか安く早く行けないかということを検討し、最終的には以下の3つをそれぞれ別々に購入した。最後のイスラマバード→ギルギットのみ片道で、他は往復である。
福岡↔タイ(バンコク・ドンムアン空港)
タイ(バンコク・スワナンプーム空港)↔パキスタン(イスラマバード)
イスラマバード→ギルギット
実際のフライトは、イスラマバード→ギルギットが悪天候のためキャンセルになり、この区間は陸路で行くことになった。この他に帰りのイスラマバード→バンコクの到着が5時間くらい遅れた。帰りはバンコクでの乗り継ぎ時間が非常に長かったので問題なかったが、仮に行きの福岡→バンコクが同程度遅れていたら乗り継ぎはアウトだっただろう。
ビザ
日本のパスポート保有者がパキスタンに行くにはビザが必要であるが、ビザは電子申請で簡単に取ることができた。申請からビザのpdfの受け取りまでにかかった時間は1週間弱だった。ただし、場合によっては1ヶ月程度かかる場合もあるらしいので、パキスタンに行かれる方は時間に余裕を持って申請したほうが良いだろう。
イスラマバード・ギルギット間には検問が多数あり(※ギルギット・バルティスタン内の移動でも場所によっては検問がある)、ビザのコピーが必要になるとの情報があったので、念のため以下のものを日本国内で準備しておいた。
ビザのカラープリント 1枚(入国審査時用)
ビザの白黒プリント 10枚
パスポートのカラーコピー 10枚
入国スタンプは入国審査時に使ったビザ(私の場合は、上記のカラープリント1枚)にのみ押されるが、パキスタン国内の検問では、日本でプリントした入国スタンプの無い白黒ビザで特に問題がなかった。白黒ビザは途中でなくなりかけたので、現地で10枚ほどコピーしてもらった。
検問でのビザの消費枚数は最終的には17枚だったが、状況によっては同じルートでもより多くのコピーが必要になるかもしれない。また、利用する交通機関の運転手さんがビザのコピーの必要性を把握していない場合や、現地の停電でコピー機が使えない事態もあり得る(※ギルギット市を含むギルギット・バルティスタン地方では長時間の停電は日常的である)。ビザは、多めのコピーを早めに準備しておくのが良いだろう。
パスポートのコピーは、検問ではそもそも提出を求められない場合や提出しても戻ってくる場合も多く、消費枚数は5枚だった。
言語
今回の旅は、「ワヒー語とブルシャスキー語を使いたい!」というのが旅の主な目的だったが、いろいろと忙しくこれらの言語を勉強する時間は十分に取れなかった。
一方、パキスタンの国語のウルドゥー語に関しては、パキスタン行きを決めてからの3ヶ月ほどの間、Duolingoのヒンディー語コースで毎日15〜20分程度勉強をした(※ウルドゥー語コースは当時も本校執筆時点でも存在していないので、代わりにヒンディー語コースで勉強した)。
Duolingoで身につけた付け焼き刃のウルドゥー語(ヒンディー語)は、結果的に旅行中おおいに役立ち、ワヒー語やブルシャスキー語、その他の地域言語に関する質問をする上でも有益だった。
ウルドゥー語(ヒンディー語)は、元々以前にも少しだけ手を出したことがあったり、これらの言語に大きな影響を与えたペルシア語を長らく勉強していたりと、いろいろ前提となる知識がありはしたものの、Duolingoを始める前はほとんどしゃべれなかったので、Duolingoをしていて本当に良かったと思った。
なお、パキスタンの国語のウルドゥー語とインドの公用語のヒンディー語は、人によって同じ言語扱いされたり別の言語扱いされたりする。両者の主な共通点、相違点は以下のとおりである。
いくつかの基本的な挨拶表現が異なる(こんにちは=アッサラーム・アレイクム/ナマステー、ありがとう=シュクリヤー/ダンニャバード、等)。ただし、これらは言語の違いというよりイスラム教とヒンドゥー教の違いである。
上記以外の基本的な挨拶表現は概ね同じ。
日常会話の範囲内では語彙、語法も概ね同じ(高級語彙ではウルドゥー語はペルシア語系語彙率が高く、ヒンディー語はサンスクリット系語彙率が高いとされているが、日常会話レベルではヒンディー語もペルシア語系語彙率が非常に高い)。
文字はウルドゥー語はアラビア文字(のナスタアリーク体)を用い、ヒンディー語はデーヴァナーガリー文字を用いる。
なお、パキスタンで見かけるウルドゥー語(アラビア文字)の看板は、英語の単語の発音(※但しパキスタン訛り)をそのままアラビア文字で書いたものが非常に多い。アラビア文字(ナスタアリーク体)が読めれば、ウルドゥー語がわからなくても看板の解読をかなり楽しめるかもしれない。
英語の通用率はイスマーイール派地域ではかなり高く、英語を話せる人は年代を問わず多い(話せない人も年代を問わず一定数はいるようである)。その他の地域では、英語はあまり通じないという話も耳にするが、実際のところどの程度通じる(通じない)のかは未確認である。
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