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DisGOONie Presents Vol.12 舞台「玉蜻 ~新説・八犬伝」 感想

八犬伝については碧也ぴんく先生の八犬伝、あと現代語訳も読んだことのあるオタクです。推しはもちろん(?)毛野。
まさか、推し(北村諒さん)が推し舞台(DisGOONie)で推し(毛野)をやる日が来るとは。
DisGOONieにゲストじゃなくガチで出るって聞いただけで、最高すぎて本当に楽しみってなってたのに、毛野と聞いて頭が混乱したところから数ヶ月。
ようやく乗船できました。
本当にありがとうございました。
以下はネタバレありです。一応、原作のネタバレもしているため、これから原作読んで楽しみたいっていう方はご注意ください。どの原作から読めば……?という方は、↑に書いた碧也ぴんく先生の「八犬伝」をオススメします。絵がとっても美しい漫画です。



全体

これは八犬伝なのか。
もちろん八犬伝そのものではないですし、話も八犬伝とは違うんですけど、それと同時に八犬伝だとしか、言いようがない物語でした。
命より大切なものはあるか。
これは事前に言われていたテーマでしたが、同時に、問われ続ける「生まれた意味」の重さも、考えてしまいました。
見れば見るほど好きってなる作品でした。
初日は2幕終盤で自然と涙がこぼれて、最早、自分がなんで泣いてるかもわからなくて、でも涙が止まらないという、初めての経験をしました。
初日は休憩込みの3時間55分コースだったわけですけど、正直、足りなかった。もっとほしかった。もっとこの世界を見ていたくて、もっと浴びたかったです。
いや、語り足りてないだろ〜!とかじゃなくて、もっとこの船に乗っていたかった、っていうのが正しいんですが。
でも、演者も見る側も限界ですよね……事前配信で萩さんが言ってたけど、今日は1幕やるんで、明日は2幕やりますとかにしないと!笑
あとはもう本当に、4時間だとしてもこの長さにあの長さの物語のエピソードを詰め込みまくり、オリジナル設定も入れつつ、話として破綻せずにラストは八犬伝のラストに近いような、違うような、でも納得のラストに持っていく。
その西田さんのパワーがすごすぎるなと思いました。
いつものことですがオープニングかっこいい……あまりによすぎてずっと鳥肌でした。
2幕のラストがオープニングにあることに気づいて、2日目見たときはオープニングで泣きました。演出がうますぎる(100万回目)
同じくオープニング内で、八犬士たちとダンサーさんたちが笑い合うシーンあるんですけど、あそこちゃんと関係のあるダンサーさんになってるんで(毛野はお母さん、小文吾はぬい、大角はひなきぬetc.)本当に芸が細かい……何度も何度も見返す度に泣けます……。

因縁と刀の話

3回見て解像度が上がったので、考察も兼ねて。
まずは少し私の感じた用語の考察。

■暁闇
常世に生きる者たちが現世に現れる時間
この化け物たちを倒せるのははろかの爪と、村雨丸だけ
■珠
1度だけ八犬士の命を救うもの
親兵衛→父親に殺されたとき(原作通り)
荘助→未使用?
大角→自死したとき
毛野→母の腹の中で馬加に殺されそうになったとき(原作通り)
道節→浜路に使用(浜路のことが命より大切なので)※自分が毒で倒れたときも使ってる気がせんでもない……
現八→信乃と川に落ちる直前
信乃→未使用
小文吾→未使用?
■村雨丸
八犬士たちの因縁を断ち切ることができる妖刀
■玉梓
八犬士たちの珠の文字を
仁義礼智忠信孝悌
から
汝是畜生発菩提心
に変える=心を失わせるために動き、村雨丸で殺すことで八房を復活させようとする
それは罪がないのに大輔に殺されて、里見家や大輔を恨んでいる八房への贖罪でもある(多分)
親兵衛や月唄を使って、八犬士たちの「因縁」を生み出す
原作と異なるのは、里見が受けるべき全ての怨念を受け止めようと決めた伏姫その人でもあること
■金碗大輔
はろかに八犬士と村雨丸を集めさせることで、伏姫に会うことを願う


最初の「因縁」は大輔が八房を撃ったこと。
八房は里見の殿の約束に従って伏姫を妻にしただけなので、大輔を恨んでいます。そしてその向こうにいる里見家(出てこないけど)と、里見の力を持つ八犬士のことも。
そして同時に、伏姫が八房の中に残していた珠であるはろかも、八犬士に全てを奪われたと感じています。
八房を示す白い犬が上手側に出てくるシーンがあります。布の中にいるのは八犬士の演者たちです(ダンサーさんとかもいるけど)これは恐らくはろかの兄弟である珠をイメージしているのだと、思いました。
大輔が八房を撃ち殺したことで、はろかの兄弟であったほかの珠は、持ち主となる八犬士の元へ行ってしまいます。はろかは、八犬士に自分のあたたかなものを全てを奪われたと思い、彼らに「復讐」しようとします。
伏姫は自分の子である八犬士とはろかを、この最初の「因縁」から断ち切るために玉梓となりました。
親兵衛と月唄を使ってさらなる「因縁」を作っているのも、八犬士たちの「因縁」の先に自分がいるようにするため、です。つまり、八犬士たちに復讐されようとしてる。
信乃→父が村雨丸を信乃に渡すために切腹
荘助→大塚家によって信乃を裏切らされている
道節→浜路を網乾左母二郎に害される(未遂)
毛野→父を現八に殺され、気の触れた母親から「死んで」と言われ、一族の復讐だけを生きる意味にさせられている
月唄→妻(ひなきぬ)を信じられずに失った
現八→真っ当に生きようと決めた矢先、大角を救えなかった
小文吾→親兵衛の父を怒りに任せて殺してしまった
親兵衛→父を小文吾に殺された
「因縁」を最初に断ち切ったのはもちろん、信乃です。
信乃は父が切腹した直後に村雨丸を使い、「生きるのは悲しい」という心を消しました。だから信乃はこの物語の中でただひとり「因縁」がないんです。なににも囚われていない。
彼は、荘助の「因縁」も間接的に村雨丸を使うことで断ち切ります。裏切られていることは知ってた、でもそれよりも、お前が苦しんでいることを知ってたから、いいんだと言って。
信乃の元を離れた村雨丸は、作られた八犬士たちの「因縁」を断ち切っていきます。
道節は村雨丸を手に入れ、浜路を拉致した網乾を討ちます。また道節は自分の人生に「本当に復讐すべき相手」=「因縁を生み出している玉梓」がいることを知っています。毛野に「本当に復讐すべき相手は現八ではない」みたいなことを言っているのは多分コレです(扇谷定正のことではない……)
現八は月唄に村雨丸を使い、彼と自分の因縁、そして大角とひなきぬの因縁を断ち切っています。
大角がひなきぬに「生きていいか」と聞けたのは、彼が因縁から開放された証拠かなと思います。
毛野と馬加との因縁は、小文吾が無理矢理終わらせているんですが(小文吾の心が強い証)毛野には最後に玉梓が生んだ「因縁」が絡んできます。
親兵衛が毛野がこっちに来そうだったのにと言っていたり、半分は闇、と言われているように、毛野はいわゆる「闇堕ち」の予備軍です。玉梓はその心を操って(語って、あるいは騙って)村雨丸を抜かせ、浜路を殺させました。
これは本当は、信乃のもう1つの「因縁」になるはずでした。浜路を斬った毛野を憎み、そしてその向こうにいた玉梓を憎むための。
でも、信乃は「因縁」には引きずられません。
彼は毛野のことを許し、自分たちにふりかかる「因縁」について、大輔に尋ねるだけ。
このあたり、信乃の思考回路が最早聖母みたいな感じなんですよね。どうしていいかわからず、信乃と大輔の話をそっと聞いている毛野は、むしろいじらしいです(この後、小文吾と現八相手にめちゃくちゃツンデレムーブする毛野、めちゃくちゃかわいい)
毛野は浜路を斬ってしまったこと、そして信乃がそれを許してくれたことで、ただ武勲のために自分の父を殺した現八を、許せるようになります。
それはつまり、毛野の「因縁」の終わりです。
とても遠回りですが、村雨丸で浜路を斬ったことで、彼の因縁は終わりました。
親兵衛と小文吾の「因縁」も、村雨丸をどうか信乃に渡してほしいのだと小文吾が望むことで断ち切られます。
そして最後に残ったのが、
はろかの八犬士に対する因縁
八犬士から玉梓に対する因縁(「因縁」を作っていたこと)
です。
このとき玉梓が考えていたのは恐らく、
はろかに信乃を斬らせることで八房を蘇らせ、はろかと八房と里見の因縁を終わらせる
もしくは
信乃が八犬士たち全員が負った悲しみの源である玉梓を斬ることで、自身が消えて因縁が終わる
の2択だったのだと思います。
しかし結果は違いました。
信乃のことをずっと見ていたはろかは、復讐を遂げることを選ばず、彼の珠になることを望みます。
信乃もまた、八犬士たちの悲しみを伏姫にぶつけて復讐を成し遂げるのではなく、自身を犠牲にしようとした伏姫に感謝をし、大輔と会わせてあげることを選びます。
村雨丸が「人」であり「心」なのは、この刀が絡み合った因縁を断ち切るものだからです。
村雨丸とは、信乃の(あるいはほかの犬士の)「誰かを許す心」そのものなんだ……と3回目で気づいて、号泣しました。
そして、その心があったから、伏姫と大輔は最期に出会うことができました。
悲しいですけど、伏姫=玉梓だからこそ、伏姫も大輔も罪を負っていて、それでも信乃たちはそれを許した、生んでくれてありがとうと言えた、ということなのだと思っています。

ラストの話。
ラストをどうとらえるかは、観客に委ねられています。
この物語は信乃の夢オチだったとか、あれはみんな死んでしまった後の天国だとか。
この話の中で信乃は特別な存在で、ずっと珠がなかったのに最後の最後で珠を手に入れ、唯一、作中で「因縁」に囚われていなかった存在です。
そして彼の珠は、八房の中に落ちた珠である特別な存在である、はろか自身。
八犬士を集めて殺す、奪われたものを取り返すために旅をしていたはろかは、最後に優しい「願い」を口にします。信乃の珠でありたいと。そしてその「願い」は叶い、彼女は信乃の珠になります。彼女は自分の夢を、こうありたいと願う姿を叶えました。
この物語の序盤で大輔が八犬士たちに見せていた「夢」は「想い」だと言い、現八はその「夢」を「願い」と形容しています。
はろかが「夢を叶えられる」存在なのだとしたら。
ラストシーン、信乃は眠っていました。
彼が見る「夢」は叶う。
はろかという「夢を叶えた珠」の力で。
だから、あの最後の八犬士たちの姿は信乃の願いが叶った、現世の時間なのだと、私は思っています。
あと大団円というのが、やっぱり「八犬伝」かなと思うので、そこも込みで。
楽しそうな信乃の笑顔を見れたのが、めちゃくちゃご褒美でした。

この物語の中で、八犬士たちは罪の意識を抱いて生きています。
荘助→信乃を裏切っている
大角→妻を信じきれなかった(原作通り)
毛野→浜路を斬った
道節→浜路の母が罪に手を染めた原因になった
現八→功績のために人を殺した
小文吾→ぬいの夫を怒りに任せて殺した(原作通り)
唯一、それがないのが親兵衛と信乃。
この2人以外のメンバーは1度あの戦いの中で死んで、生き直しているのかもしれないなと、思いました。

素敵な物語を、ありがとうございました。


犬塚信乃

原作では、最初に登場することもあって、人気も高いし、いわゆる主人公枠。この舞台でも真ん中。
でも、信乃という女名もあって、どちらかというと柔らかい感じがパブリックイメージなのかなと思います。
今回の信乃は男前で、かっこよくて、誰よりも強くて、荘助風にいうなら光で……体格や衣装の豪華さもあって「俺が絶対的真ん中」感がすごかった。
そしてそれこそ、この作品のポイントです。
信乃が失くした自らの心(はろか)に出会う物語であり、信乃の心であるはろかが、心を知る物語だったと私は受け止めました。
というわけで、はろかとの関係性がめちゃくちゃよかったです……。はろかという存在が原作にいない以上、当然、2人のシーンも設定も全てオリジナルで、1番原作を知っている人が「どうなるの?」と思っていたところだと思うんですが、恋愛じゃない、家族愛でもない、友愛とも違うけど、仲間って実はそうかもしれない、みたいなつながり。
物語の中でも言われてましたけど。
あと、なんというか信乃には王者の風格がある。頭を下げられているのが多いし、衣装も豪華。そして自分にふりかかる全てを受け止めて、許せる度量の広さがあります。
荘助の裏切りも、毛野の錯乱も、彼は受け止めます。
本当にかっこよかった。
↑の因縁の話でも書いた通り、本当に特別な存在で、この作品においては、信乃が間違いなく八犬士のリーダーでした。
殺陣も迫力あって素晴らしかった……崎山さん初めましてだったのですが、力強くて最高でした。
東京5日目、見に行ったら序盤の荘助との
「もっと明るく!」
「はい!」
のシーンで
「燃え尽きた後に残るのは!?」
「は、はい?」(めっちゃ戸惑う)
「灰だ!」
というアドリブ(たぶん)をしれっと入れ込んでてめっちゃ笑いました……笑
東京千秋楽は
「ここ(胸)にあるのは!?」
「肺!」
「燃えたあとに残るのは!?」
「灰!」
「高いの反対を外来語で!?」
「……ロー!」
「できるじゃないか!」
という高度なおふざけでした。かわよい主従。

はろか

本当に超かっこいい犬にしか見えなかったです。すごいかっこいい。
かっこよすぎて、パブリックイメージの信乃だったら主役ははろかでしたね、って言ってしまいそうなぐらい、かっこよかったです。
これって言ってしまえば、もし信乃の珠だけ信乃の側になくて、伏姫から生まれた犬という形をとっていたならばどうか、的な話……と言えなくもないんですが。
そこにそもそもの八犬伝でも大きなテーマとなる「復讐」というのが乗っかってきて、いつか八犬士を殺すんだ、っていう精神なので、見ているこっちは、この子どうなっちゃうんだろう?という感じでした。
でも、だからこそ彼女を見守る気持ちで見ていると、この作品は見やすいのかな?なんて思いました。
信乃の荘助に対する言動を見て、段々と人の心を知っていったはろかが、ラストで
「私は、信乃の珠でありたい」
と言ったときは、思わず息を飲みました。
信乃との関係性が、とても尊くて大好きです。
あと、カレンさんめっちゃくちゃ犬のお芝居が上手い……。動きとか、表情とかから溢れる犬感。とっても美人さんで、綺麗で、それであのパワフルで圧倒される感じの中の、犬感。すごいとしか言いようがないです。
あと眼。
眼の芝居がすごい。眼でめちゃくちゃ語っていて、
「信乃の珠でありたい」
のときの柔らかな眼は必見。
その前の操られているような眼とかも、本当になにもかもすごかったです。
信乃が偽の村雨丸を献上しようとするときの「おぉいー」(囁き声)がめちゃくちゃかわいい。
月から一筆減らすと夕(はろか)になる。
つまり、信乃の心がひとつ減って、その心こそはろかだから、きっと会えるよと大輔が最後に言った言葉の通り、また信乃に会えて、よかったねと言いたいです。

金碗大輔&玉梓

いやもう、私、萩さんのお芝居も良子さんのお芝居も大好きなので、最高に好きでした(好きしか言わない)
伏姫をずっと想い続けて「会いたい」と願っている大輔と、大輔に対する因縁をも受け止めようとしていた、その中で悪事を働いているので、会えるはずがなかった伏姫、という感じでしょうか。
この2人に切なくて苦しい恋をさせたらあかんのです……いや、ラストを考えると、これはこれでありだったのかもしれないんですが……とマザランのお2人の役柄を思い出して苦しくなりました。苦しい。
信乃×浜路がそこまで強く前面に出てくる作品はないというところもあって、余計になんというか、純愛感が堪らなかったです。
玉梓=伏姫っていう設定なので、良子さんのお芝居に色んな表情があるのも最高でした。
子どもたち(親兵衛、月唄、はろか)に声をかけるときのトーンが、どれもすごく好きです。優しい伏姫の顔が出てきたかと思うと、玉梓に豹変する感じとか、やっぱり良子さんはすごい……。オープニングではろかに向かってオフマイクでめっちゃくちゃ優しく「はろか」って呼びかけてるのを見て、泣きました。
伏姫にとって、はろかや八犬士は本当はとても愛おしい存在なんですよね……ちゃんとその愛情、最後は届いてたんだなぁと思うと、また涙。
また、大輔は信乃に生まれたときから知ってる、と言っていた通り、みんなの語りのときにそれを見ています。現八(と月唄)のときとか、ライト当たらないのに、上手側の客席のところから見ていたり。このあたり、前方席すぎると全くわからないし、たぶん、配信にも乗らないだろうなぁ……なんて。

犬川荘助

浜路に恋をしている、信乃を裏切っているという設定が乗るだけで、こんなにも物語が変わってしまうのかと思いました。
でも、そうかと思うと処刑シーンとか、道節との出会いとかは普通に原作ネタなので、ここはもう、本当に脚本の妙としか。
裏切っているという因縁があるからこそ、処刑されそうになったときに信乃が来てくれたことへの感動もあるし、信乃が知ってたって言ってくれたときの感動もあり……心のぐっっっっとこもった演技を砂川さんが演じているのもあって、ただの信乃の親友ポジションのいい子で終わらない(原作では終わってる気が……)のが素晴らしかったです。

浜路

信乃と浜路の恋が、大輔と伏姫の恋とリンクしているシーンが、とても好きでした。信乃と結ばれず、ほかの人と結婚させられることを悟っているシーンは、確かに伏姫と重なります。
今回、荘助が浜路に恋をしている設定なので、色んな人から思われまくりですが、そんな中でもやっぱり彼女には信乃しかいなくて、まっすぐに信乃を想っていて、ぶれないのがさすがヒロインでした。
本当に死んでしまう→里見の姫の「浜路姫」がいて信乃と出会って結ばれる原作と違うのも◎です。
原作でも八犬士の持つ珠は割りとなんでもアリで、毒消しにもなるし、化け猫も暴くし……って感じなので、不思議なことは全部「珠パワー」(=伏姫の加護)でオッケーなんで、浜路が道節の珠を持ってたから死ななかったのもオッケーですし。
後はラスト。信乃との再会。
大輔×伏姫=信乃×浜路、と考えると、大輔と伏姫が再会できた=信乃と浜路も再会できる、なんですよね。
この2組のカップルは、やっぱりつながっているのだと思います。
あと、個人的には網乾とのシーン。網乾がめちゃくちゃよかったですね……ものすごく褒め言葉なのでそう受け取っていただきたいんですが、執着の仕方が気持ち悪くて、すごくよかったです。

犬村大角

なぜか唯一、八犬士なのにキャストに名前のなかった大角。
オープニング前で、月唄が遠吠えをするとか、珠を持っているとかネタバレされているんですが、名前がものすごい後にならないと出てこない笑
それにしてもまさか、序盤からの月唄が「できそこない」と玉梓に叱責されていたシーンが、つまり「虐待していた」親のシーンをモチーフとしているとは……西田さんがすごすぎます。
山猫の件はそれはそれでしっかり入れ込んでましたけど、玉梓と月唄と親兵衛の関係性、玉梓が実際の親じゃない、近くに弟(親兵衛)がいてそっちはかわいがられてる、みたいなところまで、しっかりオマージュされていて、溜息モノでした。
月唄自身は、人を演じるというか、乗っ取りができる能力があって、八犬士たちを苦しめる立場ですが、このあたりもよくよく考えると、山猫が大角の父親に化けてた、みたいなところをオマージュしている気が……すごすぎ。
そしてもうなにより、大角としての自分を取り戻した後の鯛ちゃんが……かっっっっこよすぎて、くらくらしました。特に階段から飛び降りつつ斬るのは反則。あの運動神経を全部使った殺陣がかっこよすぎました。初日の後、近くを歩いていたお姉さまたちが「あの、椎名鯛造さん?アクションすごすぎない?」「そうなの、鯛造さんはすごいよね、私も1回しか見たことはなかったんだけど」みたいなお話してて、うんうん心の中で頷いてました。
あと、現八との早送りシーンが何回見てもウケる。

犬飼現八

恐らく、ぴんく先生の八犬伝読まれた方はみんな、現八はイケメンかっこいい男前のイメージがあると思います。私はある。
でも、どちらかというとこの物語の中ではクズでした笑
人殺しの無頼漢の傭兵って感じで、個人的には1番抱いていた八犬士像から乖離していました……が、これはこれでというか、賢志さんがかっこいいのでオールオッケー。無問題。
毛野の仇、小文吾の乳兄弟という設定のおかげで、毛野との絡みもあって◎でした!
後は頭がいい……劇中でも頭がいいと言われてましたが、彼が色んなメンバーを結びつけている感じがするし、全部わかって語ってる感があって……。
最初の月唄のシーンとかでももう大角だって気づいてて「君の因縁でもある」って言ってるんですよね……。
クレバーなところがかっこよくて、好きしかありませんでした。

犬山道節

現八がクズだとしたら、道節はできた人です。
優しさに溢れてるし、人間として完成していた気がします。
原作の八犬士たちってみんな優しいし、男前で、少なくともクズはいない気がするんですが、この八犬士たちは癖が強いし、そもそも2人は玉梓についてるし……唯一、優しい男前キャラっぽい荘助もちょっと闇を抱えているという中、道節はどこまでもまっすぐで優しい、いわゆるステレオタイプな八犬士。
原作と違って浜路が生き残るのがいいですよね……信乃は同じ魂を持っている里見の浜路姫でもいいかもしれない(?)ですけども、道節の異母妹はやっぱり浜路(=正月/むつき)しかいないので。
1番の常識人だと思うので、報われたのが嬉しかったです……!
ラストのわちゃわちゃシーンで現八とふざけながら出てきた後、浜路と笑い合っているのを見るのがすごく好きです。

犬田小文吾

事前配信でのラブロマンスがあるという言葉や、影ナレの
「注意書きにハートが書いてある!なんだこれ!たんかいや?むかつくなこの看板俳優!」
という壮大なフラグにニヤっとしなかった八犬伝オタクはいないと思います……笑
が、予想を遥かに超えて掌返しがすごくて笑
既に2回目の影ナレで大八(親兵衛)に毛野のブロマイドを買い占めてるやばい奴と暴露されており、目にして一瞬にしてあさけの担オタクの爆誕→プロポーズ、という流れ……笑
(まあ、怖いのは原作にも結婚の約束のシーンは出てくるところでもあるんですが)
今回の話、ほとんどふざけるのは小文吾と毛野のシーンなので、たくさん笑わせていただきました(きたむとよーじろーさんのおもしろシーンはどの作品でも最高すぎる)
ただ、もちろんそれだけなはずもなく。
殺陣はもちろんのこと、最も「生まれた意味」ではなく「生きる意味」を考えている人として、どうお前はこれから生きるのか、ということを毛野に突きつけ続ける姿は、本当にかっこよかった……。
親兵衛との関係性とかはどうするのかなと思っていましたが、こちらもラスト付近でしっかり回収。親兵衛にも「前世で付き合ってた」みたいなこと言ってましたが、前世どころか今生で普通に関わりがあるという……忘れてたっぽいというか、親兵衛は人と違うスピードで確か育っているので(原作では)わからなかった、って感じかなと、解釈しています。

犬江親兵衛

最も尊い「仁」の字を持ち、八犬士のリーダーであり、殺生をしない(しなくても敵を圧倒できる)犬江親兵衛。これがパブリックイメージであり原作の親兵衛です。そして私としては耀士郎くんもこのイメージにぴったりだなと思っていました……ので、まさか玉梓と組んでいるとは思わなかったです!笑
でも、それもこれも伏姫でもあるからで、そこは原作通りっていう。
「俺が1番強い」「母さん(伏姫)に育てられたから」っていう台詞は、完全に原作通りですからね……。
最強感や溌剌とした感じはまさに「犬江親兵衛」のイメージそのものなのですが、超人感ありすぎて、ただのスーパーヒーローでしかない原作と違って、母のために、母の望みを叶えるんだという純真さと、全てを見透かしている姿がめちゃくちゃ魅力的で、控えめにいって最高でした。こんなの恋しちゃう、みんな。
あまりにも美味しすぎるキャラで……やっぱり最後は「希望」でした。
ラストの伏姫が大輔と一緒に天に昇るシーンで顔を伏せて泣いていたのも印象的です。信乃に頭ぐしゃぐしゃされてましたが、伏姫が幸せになってくれることを、誰よりも1番親兵衛が望んでいた、なんなら最初から彼はそれだけを目指していたから、あれは彼の夢が叶った瞬間なんですよね……。

犬坂毛野

小文吾とのやりとりは本当に、キタコレ!!でした。
初日、影ナレがオネェだったので(あんスタの嵐ちゃんとは全く違っていて、まさにオネェ……この演じ分けすごすぎてびびった)え、毛野その方向性なの??と思ったら、全然違っていて、ほっ笑
気高くかっこよく、美しく、でも悲しいほど残酷。
私の毛野像そのものでありながら、原作よりも深い闇を抱え、ただ復讐のためだけに存在していた毛野。
原作よりも彼の抱えるものがハードになったのは、現八が仇である設定がのり(原作ではまた違うおじさんが出てきます)その現八と同じ牡丹の痣を持っていたことで、お前が父を殺した仲間なのかと母親に思われて「死んで」と言われたことが大きいです。
「生きていたことなどない!」
と叫ぶ壮絶さ。
現八を殺そうとするところの、これまでの人生で負ってきた心の傷と、生まれた意味と、そして戸惑いに震える姿。
粟飯原家の復讐のためだけに産み落とされた毛野は、それだけが「生まれた意味」でした。
でも本当は、生まれた意味なんてないんですよね。好きなように生きていい。大輔がはろかに投げた言葉は、小文吾や現八が毛野に投げた言葉と重なっています。
浜路を斬り、罪を背負ったことで逆に毛野は「因縁」から解き放たれて自由になって、だからこそ
「今、1番生きたいって思ってる」
という台詞が出てくるんです。号泣。
そして大八(親兵衛)との因縁があると言った小文吾を先に行かせるシーンの
「旦開野と結婚するんだろ?」
の台詞。
いや、もうあの、これだけを書くとなんとも言えないんですけど、私はこの台詞が大好きです。
ここまでの物語の中で小文吾と積み上げてきたもの、そして彼が自分の復讐のためだけに生きていたはずだったことを考えると、泣けてしまって。この子が誰かのために動いたの、このときが初めてだったと思うんです。
それがあまりによくて、号泣してまいました。最高でした。
その後の「行け」の台詞の優しいこと。
小文吾が行った後、毛野は「もう現れねえよ」と言います。実は馬加の屋敷でも「旦開野はもう終わりだ」と言っていて、言葉はほぼ同じ。
でも意味が全然違う。
馬加に近づくために旦開野をやっていたけど、それは終わって、遂に今夜、馬加を殺すんだという意味だった1幕。
そして、旦開野は復讐のための道具であって、「生きて」いる毛野には不要な存在なんだという意味を込めた2幕。
毛野の心が前を向いているのがわかるラストシーン、堪りません。
それからこのシーン、小文吾に指示出しする毛野が、原作の毛野の「智」の部分を思い起こさせて、そこも最高でしたね……(原作では八犬士の中でも軍師の立場です)
ラストの殺陣。
ステージ上手の上段にいるダンサーさん(お母さん……)と同じ動きなの、めちゃくちゃ美しい演出で、西田さんに感謝しかありません。
あとあと、原作では鉄扇といえば親兵衛の武器として有名ですが(原作の親兵衛は人を決して殺さないので、武器は鉄扇なのです)原作にはほとんどない大八との関係性、そして田楽師としての関連というところで毛野が武器として使ってるの、いいですよね。
大八(親兵衛)と毛野は原作ではそれほど関係が深くないですが、今回は小文吾の絡みがあるためにいっぱい関係性があって、個人的には大好きでした。八犬士+はろか+浜路のラストのほのぼのシーンで隣り合って笑ってたの、よすぎます。

私は、西田さんが描いてくれるきたむのことが本当に好きです。西田さんが背負わせてくれるものを大切に演じて、舞台の上で生き抜いている姿を見れることが、とても幸せだなと思うのです。
今回も、こんなにぐちゃぐちゃにされて、葛藤して、ドロドロの愛憎を身に抱えている姿を見られて、本当に幸せでした。
最高でした。


最後に

伏姫に信乃が告げる台詞
「俺たちは旅をします。そうじゃなきゃ、出会えない」
はぐっときました。
私たち観客も、観に行かなければこの美しい物語には出会えません。
行けるときに、行かなければ。
DisGOONieの旅がこれからも続きますように。


おまけ(日替わり備忘録)

影ナレ

「舞台スパイファミリーを見るか、EXシアターの公演を見るか」
→スパイファミリーで拍手するファンたち
→みんな狂ってる!

「舞台キングダムを見るか、EXシアターの公演を見るか」
→キングダムでの拍手3人ぐらい
→シカトです!いや、むしろ、ここで拍手する奴は狂ってるからな!(やっぱり初日の客は狂ってたんだ……笑)

「スパイファミリーを見るか」
→半分ぐらい
→「みんなよく座席見て!ここ、EXシアターだよ!」
→EXシアターで見るか
→「スパイファミリーと同じぐらいな気がする!?」

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