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【小説】将棋の滅亡

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【小説】将棋の滅亡(4/4)

 それは突然訪れた。ある瞬間、私には一筋の光が見えたのだ。
 勝てる。
 私は、その可能性を発見したのだ。もし、あれがルールブックに載っていれば――。私はルールブックを確認した。そして、私の探していたものは、確かにそこにあった。それは「入玉宣言」というものである。とても平たく説明すると、自分の王将が敵陣に入り、さらに他の自分の駒が大量に入り込むと、勝ちになるという特別ルールだ。このルールは生き残っ

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【小説】将棋の滅亡(3/4)

 会長はしばらく考え込んだ。どうせまた、持ち時間を使い切る作戦だろう。豚キムチ弁当でも牛カルビ弁当でも、なんでも買ってくるがいいさ。私の勝ちだ。この対局が終わったら訴えてやる。そして、二度と将棋のできない人生にしてやる。私は頭の中で、これからの復讐のことを考えていた。しかし、意外にも会長はすぐに次の手を指した。私は一瞬不審に思ったが、そのまま次の一手を指し、「詰み」の形になった。
「まで。172手

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【小説】将棋の滅亡(2/4)

 翌日、第2局が開催された。私が先手番、会長が後手番だった。試合は順調に進み、またもや会長が悪手を指した。そして、すぐさま、前回と同じ状況になった。次に会長がどんな手を指そうと、次の私の手で「詰み」である。会長の持ち時間は、まだ1時間40分あった。また同じことをされるのか……。私が心の中でそうつぶやいたとき、意外なことに、会長はすぐさま次の一手を指した。さすがに、同じことを二度もするのは恥ずかしい

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【小説】将棋の滅亡(1/4)

 若い読者は知らないかもしれない。今から10年ほど前まで、「将棋」というボードゲームが人気を博していた。このゲームは、平たく説明すると、お互いに一手ずつ盤上の駒を動かし、相手の「王将」という駒を取ったら勝ち、というルールだ。日本版のチェスと考えてくれればいいだろう。
 私は当時、アマチュア代表として、プロ・アマ混合の将棋大会に出場していた。第1回戦であたったのは、将棋団体の会長だった。それまでの将

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