イニシャライゼーションピアス

水曜は私の誕生日だった。
おめでとう！ありがとう！

この歳(32歳)になると、連絡をくれる友達もだいぶ固定化してくる。

私と誕生日が同じの高校の同級生
唯一名古屋に引っ越しても連絡をくれる大阪の子
バンドのスタッフ時代に知り合った子
母と妹

だいたいこんな感じだ。
決して友達が多いわけじゃないが、付き合いが長いという点においては、非常に恵まれた交友関係だと思っている。

クリスマスもそうだが、前日までソワソワしているくせに、当日になると何をしていいかわからず、その日一日をどうにかして特別たらしめなければならないという焦燥感に襲われる。
"今日でなければならない"
という強迫観念が、どうにも拭えない。

多く見積もっても、あと60回くらいしか誕生日がこない。
そのうち祝ってもらえる回数は40回くらいだろうか。
もっと少ない？
絶対に幸福を実感できるはずの日を、絶対に逃したくないという飽くなき欲望が、そこにはある。

SNSでうるさく誕生日の告知をする。
事前に人にプレゼントを渡すなどして媚びる。
欲しいものをピックアップする。
休日か平日かを気にする。
朝、1番好きな服を選ぶ。
祝いの連絡が来ても、はしゃがない。
金のこともダイエットのことも考えない。
ちょっとゆっくり歩く。

こんなかんじで、一日を過ごしていた。

2月に寄稿したあの日から数ヶ月、私はバンドを絶ってひたすら仕事に邁進した。
未だにピアスの穴は安定しないが、ようやく気持ちの整理ができた4月17日、バンドスタッフ業を辞する構えであることを、思い切って伝えることにした。

人と別れるというのは大変辛いことだ。別に誕生日の日にわざわざこんな辛い選択をしなくても良いのに、私の中で特別な一日でなければならないという先入観が首をもたげた。
“今日でなければならない”
牡羊座のB型は、融通が利かない。
つらつらと、長々と、辞める理由を書き連ね、書いては消して、バンドのご多幸をお祈りする形で締める。

思い切って送信ボタンをおし、画面を閉じた。
バンドを知って10年。
小学4年生が成人するほどの長さ。
87600時間。
これでよかったんや。涙が溢れた。全てが終わりを迎えた。

…………。

5分と経たず、返事が来た。

大変優しく華麗に引き止められた。
お悩み相談までしてしまったし、仕事を一つもらった。
覚悟を決めて耳に穴まで開けてるのに、たった一言二言で絆された。

アホである。

そんなんだから、マルチにも新聞屋にも謎の新設ネットワーク回線契約にも男にも騙される。
これではただ耳に穴開けたかった人になってしまっているではないか。

一つ断っておくが、本気で辞めるつもりでいたのだ。引き止めて欲しくて連絡したのではない。私なりに、ケジメをつけたかった。

憧れのバンドだからなあ。夢見させてくれ続けたバンドだからなあ。と、長々つらつら今度は自分に向けて言い訳を書き連ねる。だって諦めたくなくなったんだもの仕方ないじゃん。
牡羊座のB型は、融通が利かない。
ここからまたやり直すしかない。

私にとって1番のプレゼントが労働だなんて、ヘンタイすぎる。
失礼だな、純愛だよ。いや、大義か？