ビッグモーターの謝罪会見から見えた「何が問題の根幹かわかっていない」

危機管理広報アドバイザーとして、不祥事会見ウォッチャーの私が久しぶりにかぶりつきで見たビッグモーターの保険金の不正請求事件による社長の謝罪会見について私の雑感を。

会見自体はまあまあの出来だったと思います。しかし事件発覚から会見までにかなり時間がかかった割に、対応が整理されていないなと感じました。社長や副社長の辞任によって責任を取りました、というのが先に発表されましたが、これは儀式みたいなもので大切なのは「なぜこんなことが起こったのか」ということであり、「再発防止はどうしていくのか」ということなんですね。

会見では事件の経緯説明があり、その後社長の辞任・新社長(元専務)の発表と社長と新社長の謝罪でした。元専務だった新社長は年齢も若くなり、社長と違ってペーパーを読むのではなく、自分の言葉でしっかりと話していたのは好印象でした。「まだ支えてくださる方々がいてくださる」と涙していましたが、ここは少し昭和の浪花節みたいで泥臭いけど、まあ良いでしょう。前社長の傀儡ではないかと指摘する人もいますが、すでに第三者委員会もできており、会見でも「前社長の影響力の大きさ」を指摘していますから、大丈夫でしょう。この新社長なら会社を再生していくのではないかと感じました。よって、ここまでの会見はまあまあのできでした。

さて問題はやはり記者とのやりとりです。いつもながらの記者の質問には
聞いていて耳が窒息(笑)しそうでした。特に某テレビ局の女性記者が「こんな状況下で再生できるとお考えなのでしょうか?」という、会社を倒産させないと許されないよ、という歪んだ正義感が丸見えでした。

さて、最も大事なのは社長の応答です。社長はすでにネットなどでかなり非難・攻撃されていて、社員やその家族にもネット攻撃は凄まじいようです(ネット社会は本当に困ったものです)。しかし会見での社長は、一代で事業を築き上げただけあって、事業への思いや顧客への想いは強くて、不正してまで儲けてやろうと言うタイプではないと思いました。

ノルマがきついとか、目標が達成できないと降格人事だとか社員が言っていますが、売上目標を立てて、それを目指して仕事するのは当たり前であり、それができない人を評価しないのも人事的に当たり前であり、できないなら、その仕事から外すのも当たり前です。それを重圧だと思うのは無能な社員の戯言だとも思いますが、それがどこまでキツかったのか。社員に不正を働かせるほどキツかったのか。支店長の指導が行きすぎたのかを査定しなくてはなりません。システム的にどうなっていたかですね。

そしていちばん問題なのは、それらの事実を社長以下幹部は何も知らなかったと言った事なんです。それこそ会社のガバナンスがガタガタであるという証で、社長が6月まで「知らなかった。寝耳に水だった(だから私は関係ない)」というのが、ビッグモーターの一連事件の要因につながるのですね。

この会社は非上場のオーナー企業であり、何と広報部門が無いというのも驚きました、あれだけCMをしているから広報はあるだろうと思っていました。広報が外部との連携を持ち、傘下の各店舗とのインナーコミュニケーションをとりながら、経営陣との考えを埋めていれば、この事件は起こらなかったかもしれません。

オーナー社長はそれでなくとも孤立無縁の裸の王様になりがちです。「知らなかった」というのは事実かもしれませんが、私なら会見前の打ち合わせで、記者からの想定質問に入れて、社長にはこう回答してもらいます。「恥ずかしながら、企業ガバナンスが機能していないとご指摘されるまでもなく、私の耳にはそういう事は全く入らなかった事は事実であり、心より悔やんでおります」。そして「今後の改革では、全社員の意見を聞いていける組織にして行かねばと強く戒めた次第です」と付け加えます。

多分、社長もこれを納得して言うでしょう。誰が会見の指導をしたかは知りませんが、事実の整理と共に、問題の根幹の整理と、それに対するトップの認知→それから責任の取り方という形を明確に示す事です。言い方ひとつ、説明の仕方ひとつで、もともと悪意で受けている世間や記者の印象も少しでも変わって来ます。
今回は社長の質疑応答をもう少し細部まで整理すべきでしたね。

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