詩「消失」
からっぽの都市は
なぜか懐かしい匂いがして
季節を忘れた
蟻塚みたいなビルに陽が射して
死んでしまう理由はわかるのに
どうして死んでしまうのか
わからない僕らの手にも陽は降り注ぐ
郊外の空き地で
遠く棚引く煙を見ていたことがあったろう
いつだって代用可能な
かけがえのないひとりとして
僕らは育てられていく
セロファン
レーヨン
セルロイド
竹
ボール紙
レコード盤
郊外の空き地に落ちていた画鋲が
スニーカーの底に突き刺さっては
戦時中たくさんのひとが死んだ
戦後はたくさんのひとが押し込められて
よくわからないまま死んでいった
あの廃病院ももう
跡形もない
そうして棚引く煙の方から
風が吹く
風に吹かれれば
無色透明になる
いとも簡単に
季節を忘れ
からっぽの都市に光が注ぐ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?