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詩「老犬」

郊外の団地行きのバスが出ると
待合室は閑散として
最終バスを待つのみだった
ガラスの向こうに
オレンジ色のベンチが反射して
その向こうの夜の道を
車が一台過ぎていく
その先は
ひたすら等間隔に続く外灯と
そこに滑り落ちた記憶ばかり

ヘッドフォンに音を流すと
あまりにも昔の流行歌で
自分がどこにいるのか分からなくなって
笑う
笑う犬の姿を
テレビで見たのは昨日のことのようなのに
栄華は過ぎて
明日から仕事がない

やがて朝が来るなら
舞う鳥の群れや
真新しい空気や
目覚める街の気配を
この指で触れたい
そう思うけれど
冷めていく缶コーヒーの温度に
今はただ
夜の街の
僅かな息に触れるだけ

ガラス越しに見える
老いぼれた犬が
静かに呼吸を繰り返して

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