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詩「帰途」

見覚えのある名前だと思ったら
昨日見た求人情報に載っていた会社だった
川沿いの
耳を澄ませば電車の音が聞こえるその場所は
今まで何度も通り過ぎていたはずだった
駐車場の脇の灰皿を囲むように
女性社員が数名 談笑している
午後四時を回ったところだから丁度
パート社員が上がったところかもしれない

近頃は歩き方がわからなくて困る
比喩ではない
白線を静かに脱線する体の
睫毛の辺りにクモの巣が絡まっている
それは日に日に糸の数が増えて
瞼が重くなっていく
千鳥足で道路を渡る男が曲がってきたダンプカーの巻き添えになったというニュース
一時意識不明となり回復したというが
他人事には思えなくて
自転車横断帯を通過していく赤い自転車を追ったのが最後
あとはもう何も覚えていない

誰か来てください
助けを求めても
気付かれないところで目が覚める
普段からそんなことばかりだった
布団に横たわることが
死と遠いことではないように
毎日の行いの先に途切れていく
食べかけの八枚切りパン
コーヒーが半分入ったままのマグカップ
帰ったら洗おうと思っていた

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