詩「波音は聞こえずに」
砂利を踏む音が響いた
駅裏の駐車場
街灯が消えかけて
点滅を繰り返す
空にはまだ星のひとつも見えない
マンションのベランダに
取り込まれないままの洗濯物が
風になびく
窓に順々と灯りがついて
砂利を踏む音だけが響く
駐車場で
思い出すのは
買いそびれたパンのこと
敷地の隅に
残されるようにある松の木が
音も立てずに揺れている
昔
この木を眺めたひとは
何を思い出したのか
灯りの消えた路上
ひび割れたアスファルト
ブルーシートに覆われたものたち
あれは
砂利を踏む音が響いた
駐車場で
車に乗り込み
坂を上る
ぽつぽつと
ともる灯りの向こうに
月が上る
やわらかな光の先に
黒い綿のような
海が広がっている
カーステレオからは
聴きたくもない
ミュージック
波音は聞こえずに
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