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アイデミーでタクシーCMを開始した裏話

2021年7月19日にタクシー広告を開始しました。アイデミーにとって初めての大規模マーケティング投資です。前例のない取り組みでもあり、業界慣習も大きく異なり非常に勉強になりました。なかなかCM制作のプロセスが言語化されている資料も少なかったので、備忘録も兼ねて、どのような思考プロセスのもとでCMの制作・配信に至ったかnoteに残しますので、また今後同様のマーケティング投資を検討されている方は是非ご覧ください。

マーケティング投資とキーメッセージの決定

大規模マーケティングの実施にいたった背景として、コロナ禍でお客様のDX熱がかなり高まったな、という営業上でのお客様のモメンタム増大があります。2017年よりアイデミーを開始しましたが、特にこの数年で日本を代表するエンタープライズからの引き合いが多くなりました。今までアプローチできていないお客様への認知を広げ、より多くのクライアントにサービスを広げたいという気持ちが強くなり、このタイミングで大きくアクセルを踏み込むことに決定しました。

しかし、我々のビジネスはご紹介でご契約に至るケースも多く、そもそもこうした大規模マーケティングが向かない商材なのでは?という指摘もありました「そもそも大規模CM等をやるのか?」「いつまでやるのが良いか?」「予算はどれくらいにするのか?」などを社内外でギリギリまで喧々諤々議論した上で、実施できるタイミングがこの2021年夏しかないことが分かりました。このタイミングを逃すと諸条件の制約から1年以上ペンディングになる可能性もあり、「今しかない!」と考えてプロジェクトがスタートします。通常、こうしたCMは企画から放映まで4-5ヶ月かけて制作すると伺いましたが、スケジュールを大幅に短縮して2ヶ月以内の完成を目指し、クオリティを最大限高めるCMを制作することになりました。

CMの制作が決まった後は、まず「キーメッセージ」を決めます。キーメッセージとはアイデミーのサービスを一言で表すコンセプトのようなもので、以下のようなプロセスで試行錯誤しながら決定しました。

①社内/社外への定性インタビューをもとに5つのコンセプトを作成
②ユーザーアンケートによる定量調査でそのコンセプトを評価
③社内でのコンセプト評価も同時に実施

我々の主力事業はe-learningによる人材育成ですが、最近は人材育成だけではなく、DX/AIが絡む新規事業の開発コンサルティングや、現場で使われるシステムの共同開発などにも幅を広げています。e-learningや人材育成はあくまで手段です。日本を代表する企業は「現場力を高めること」に大きな強みがあり、我々はそれを支援する会社になりたいと考えています。定量調査の調査結果でも、そうした我々の想いと対応するような課題とコンセプトが人気であり、「現場に届くDX」がキーメッセージになりました。

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以上のようにコンセプトが練り込まれていきますが、複数パターンを作った上でユーザーインタビューする定量調査や、コンセプトを社内で定性的に評価するなど極めてロジカルなプロセスで進捗したなと記憶しています。CM企画といったら「斬新な思考を持つコピーライターが、特殊な切り口で発想する」という印象がありましたが、こうした発想の天才性だけではなく、切り口数の多さとフィードバックを分析して提案を改善する力が求められてると再認識しました。こうした考え方は、「アジャイル思考」として、アイデミーの教材の中でもDX文脈で大切にしていることの一つとして取り上げていますが、通じるものは多くある、と発見がありました。

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キーシチュエーション・シナリオの決定と撮影の様子

キーメッセージが決定した後は、エンタープライズの役員が共感するようなキーシチュエーションを決めます。キーメッセージが決まった中で、タクシーアド内でいかに目を引くCMを作れるか、が課題でした。多くのCMがビジネスシーン中心の描き方をするなかで、共感を得られながら、目立つ表現を目指しました。勿論、バナー素材の最適化のように、CMもA/Bテストを繰り返して最も人気のシナリオを選択する手法もあることは承知していましたが、我々は最速で大規模なマーケティング投資を実施するという制約条件がありましたので、こうしたA/Bテストをせずに、クオリティを高める制作に振り切ることになります。

サウナ、ジム...etc複数のアイディアがありましたが、最終的にはサウナシーンやロウリュをキーシチュエーションに決定しました。「アツい」展開をものにしたい。古いけれども、新しい「風が吹く」シーンを演出したい。DX環境を心身ともに「ととのう」状態にしたい。CMのプロに聞いてもサウナのCMはほとんど見たことない、というので、どうせならそれくらい斬新なCMにしてやろうとも想いました。

最終的なシチュエーションがサウナになった理由は、ロジカルな要素だけではありません。偶然にもプロジェクトメンバーの共通の趣味がサウナであり、僕も入社式でサウナを題材にしたスピーチをしたり、会議で場の雰囲気が一番盛り上がりました。語弊を恐れず言うと「勢いで決めた」部分もありましたが、「ロジックだけではCMが面白くならないので、一定の思考の飛躍は必要だ」という指摘もあることから、一定の主観性を許容し、完全な言語化が難しい「面白さ」という判断軸でシチュエーションを決めました。このあたりのエモーショナルな決定は、CM制作の温故知新を地で行くようなフローだったなと思いましたし、キーメッセージはロジカルに、キーシチュエーションはエモーショナル、という左脳と右脳を行ったり来たりする思考プロセスは、非常に勉強になりました。

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このタイミングで一定のタレントの検討もしましたが、今回はタレントを起用せずにキャスティングすることになりました。予算の問題もありましたが、それ以上に今回の文脈にピッタリあうような著名人が思い当たらず、どの候補者も喉に骨が刺さったようなちょっとした違和感がありました。むしろタレントに引っ張られないメッセージを打ち出したいという思いが強く、我々のように今後大きな飛躍が期待されるキャストさんにお願いすることにしました。

サウナは都内のサウナーなら誰でも知っているような名門の会場をお借りでき、半日かけて撮影しました。我々の会社もe-learningの教材として動画授業を制作していますが、全く雰囲気が違っていました。映像授業の制作の現場では、あえて講師が集中するために無人で撮影に臨み、カメラマンは別室にいることもあります。講座の規模にもよりますが、カメラマン・ディレクターは最大数名で対応することが多いでしょう。CMの撮影ではプロデューサーさん、ディレクターさん、カメラマンさん、メイクさん、演者...etc、数十名が一堂に会し、さらに1秒未満のカットにも特別な小道具を発注して撮影するなど、コンマレベルでクオリティを高める様子は圧巻でした。

ここだけの話として、サウナシーンを撮影しようとすると裸が前提となるため、媒体側の考査で肌の露出が多すぎるとクリエイティブがNGになるリスクが高い、というものがありました。(おそらく、サウナシーンをシチュエーションとしたCMの前例が少ない落とし穴は、ここにありました。)しかし、服を着用しての撮影になると、サウナのリアル感がなくなります。イレギュラーな対応かと思いますが、ご無理をお願いして、媒体側のご担当の方にもニアリアルタイムで1カット1カットをご確認いただきながら撮影を続ける、という形で進めました。(その節は本当にありがとうございました...)

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撮影が終わり、編集いただく期間は2週間弱ほど。アニメーションの動きや複数パターン撮ったオチの選択、テロップの入れ方などを決めて完成となりました。最終的には60秒/30秒/15秒の3パターン作成しましたが、どれも気合が入った作品です。改めて、制作に関わられた多くのスタッフやキャストの皆様に御礼を申し上げます。

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タクシーアドを中心とした媒体の選定

動画制作と同時にプロセスを進めたのは発注媒体の選定です。こうした大規模な広告投資では、広告代理店さんに媒体の配分比率をシミュレーションいただきご提案を受ける手法が一般的だと認識していましたが、今回は時間が限られていたこともあり、エンタープライズ向けサービスを展開されている会社をベンチマークにして社内で研究を繰り返し、媒体選定を行いました。

本CMを届けたいお客様はエンタープライズの経営陣です。多くの先輩起業家から、エンタープライズ向けサービスでタクシーは避けては通れないという話は良く聞いていましたので、まずは迷うことなくメインの媒体としてタクシーを選定しました。また、「基本は4週間以上タクシーアドに投下して、初めて結果が出る」という声もあり、4週間以上の放映と決めました。社内シミュレーションでは一部の投資金額までは、Youtube広告等のほうがCPM単価では優れていましたが、屋外広告の場合は「タクシー広告で見た」等の一定の話題性が見込めることから、あえて単純なCPM単価で最適化しないようにしました。そうしたこともあり、今回のマーケティング戦略の成功の可否を判断する一つのメトリックスを「営業したときにお客様が"タクシーで見たよ"といってくれる件数」としました。テレビ放映も検討しましたが、商材とのバランスも踏まえ、今回はタクシーに特化しました。

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他にも、最近話題になっているエレベーター広告にも出稿させていただきました。エレベーター広告を運営する東京エレビGO/エレシネマの羅社長は、5年ほど前からコミュニケーションしながら苦楽をともにしている仲でもあり、お互いにパートナー候補の紹介などをご一緒していました。当社以上の成長率で(!?)、毎週のように掲載できるビルの数が増えているのは伺っていましたので、エレベーター広告も外すことはできないな、と。エレベーター広告の場合、出稿できるビルやテナントリストをいただけるのも非常に嬉しかったです。今後の屋外広告のスタンダードを作る媒体の一つだと確信しました。

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タクシー・エレベーター広告のリスクとして、緊急事態宣言下で人流が落ちた場合、広告の効果が大きく下がることがありました。結果、この夏は東京で緊急事態宣言と重複することになり、悪い予感が的中した形になりましたが、「人混みを避けてタクシー移動が増える」という説もあり、そこまで気にする必要はないか、と考え直しました。

タクシー広告やエレベーター広告を基軸としつつ、デジタル広告や記事広告、セミナー協賛などを組み合わせてマーケティング投資の全体像がfixしました。デジタルで配信する際は、タクシーと同じ16:9サイズと、下部にバナーを付加して動画を書き出す1:1サイズでA/Bテストをしつつ、最適なクリエイティブを確認しながら運用しています。

LPの更新とその他オペレーション準備

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今回のCM配信に合わせ、弊社で管理しているサービスの紹介ページもタクシー広告とクリエイティブを合わせました。また、社内オペレーションとしても、大規模CMの配信中はマーケティングチームとIS/FSチームで打ち合わせの頻度も高め、リード数などの定量情報は勿論、リードの質などの定性情報も確認を強化する体制にしました。

最後に……

ここまでの大規模CMは我々にとって初めての取り組みだったこともあり、業界慣習や相場観など全く分からない中でスタートしました。もし同様の投資をお考えの方がいれば、拙い経験ではありますがお話をさせて頂きますので、お声がけください。

また今回、戦略、調査、クリエイティブまでやってくれたプランナーの方は、クリエイティブ経験は勿論、ロジカル性とエモーショナル性を兼ね備えて親身になって提案いただき、カツカツのスケジュールでも安心してお任せできました。もし今後タクシーCM等を検討される場合、ご紹介しますのでお気軽にメッセージいただければと思います。

タクシーCMが開始され、これから本格的に広告投資が始まります。みなさんも、是非もう一度CMをご覧ください。ブログを読んでからもう一回見て頂くと、こだわったポイントが分かり、さらに深みを感じていただけると思います。アイデミーもこのCM公開で満足せず、「夏はアイデミーの天王山」と捉え、どんどんお客様への提案を加速しますので、タクシーCM見ていただいた場合、是非見たよ!とツイートのほど、お待ちしています!

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