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コロナで伸びるあなたの語学力〜ウイルス禍に際して語学に励むべき3つの理由〜

はじめに:改めましてごあいさつとお礼

みなっさーん!引きこもってますかー!?

こんにちは。翻訳家で通訳のはずの平野暁人です。

……いま、「はず」ってなんだ?と思いましたか?

さては経歴詐称だったのか?とか思いましたね!?(さっそく被害妄想

違うんです。今の私には堂々と翻訳家とか通訳とか名乗れない事情があるのです。

だって……

だって……

コロナで向こう数カ月の仕事がぜんぶ吹っ飛んだから!!!!!!!!!

というわけで、改めましてこんにちは。無職の平野暁人です。

いやあ、こうして書いてみると無職ってすごいパワーワードですね。なにかのステージを一段上がった気すらします。いえ、フリーなんてそもそも無職と紙一重なんですけど、ぎゅうぎゅうだったスケジュールが真っ白になる爽快感スゴイヨ☆

で、自分を落ち着かせるために上のようなTweetをしたらなぜだか若干バズってしまい、結果的に約百万人相手に実名で無職アピールをする羽目に。

正直いって、「いいね」の通知がくるたびに思いましたよね。

         よ   く   ね   え   よ

と。

つまり8000回以上思ったわけです。うそだけど。

むしろ見ず知らずの方でも励ましてくださると嬉しいものだなあ、と素直に感じ入りました。みなさん本当にどうもありがとうございました。

部屋とウイルスと私

さて、そんなわけで晴れて無職となり、当面清々しいほどの自由時間を手に入れたわたくし。家にいてもくさくさするし気分転換にパーっと遊びに出かけるか!

ってそれ今いちばんダメなやつだから。

有事の際の感受性も人によって様々だとは思いますが、いつまでも呑気にかまえていたイタリアやフランスがあれよあれよという間に地獄絵図と化していった様子をニュースで追っていたこともあり、私は事態をとても深刻に捉えています。

したがって外出を極力控えて自己隔離の日々。おのれウイルスめ!!(憎)だがしかし、どこへも行けないならせめて部屋で過ごす時間を楽しく有意義に使いたい。

そうだ、(京都、行けないし)語学やろう!

なにしろ語学学習こそ、あらゆるインドア活動の中でも際立ってウイルス禍時に適した趣味なのだから!

ではさっそく以下にその理由を3つ、わかりやすいものから順にご説明します。

いま語学をやるべき理由その1:他者との接触を完全に断てる

まずコレ。いまさら言うまでもないことですがやはり避けて通れません。最低限の教材やPC類を携えて引きこもってしまえば感染するリスクもさせるリスクも文字通りゼロにすることができるのが語学学習の強みです。

「え、それなら別に読書や編み物でもいいじゃん」と思ったそこのあなた!フフフ……飛んで火に入る夏の虫たぁおめえさんのことだぜ!(謎の江戸っ子登場

確かに、ひとりで手軽に楽しめる趣味なら語学に限らず、短歌を詠む、筋トレする、絵を描くなどなどいろいろあるでしょう。

ところがです!

感染症の被害拡大が世界的な問題となっている今だからこそ、他のどんな趣味よりも語学に励んだほうが得策であるれっきとした理由があるのです!

理由その2:情報収集に役立つ

わずか数ヶ月で瞬く間に文字通り全世界規模の疫禍と化した新型コロナウイルス。

日本はまだかろうじて感染爆発に至っていない模様ですが、このままの状態が今後も続く保証はありません。少なくとも「日本人は元から潔癖症気味だから〜」などと楽観的に構えていたら、イタリアやフランスの二の舞も十二分にあり得ます。

こんなときに大切なのは、随時、幅広く情報を収集すべく努めること。

日本に留まらず諸外国政府の対応についても、感染予防や検査の実施状況、外出禁止措置の実態、営業停止や開催中止に伴う補償の有無とその規模などについて広く知ることができれば、日本の対応の妥当性を考える上でも参考になりますよね。

でも、国内メディアが翻訳してくれる記事だけに頼っていては選択肢が限られます。他方、海外在住日本人が主にSNSで発信している情報は個人の主観や環境に基づいておりデマも拡散されやすいため、有用か否かの判断が容易ではありません。

それになにより、せっかく外国語を学んでいるのですから、いまこそあらん限りの語学力を振り絞り、自分の力で直接情報に触れてみようではござらんか!

NHKの国際ニュースと何日も遅れて届く英字新聞しかなかった昔(※オレの時代じゃないぞ)と違い、いまはネットさえつながれば世界中のあらゆるニュースサイトにアクセスできます。自宅で各国の放送が見られる時代に生きているのです!

理由その3:あなたの理解力はいま、最高潮にある!

さてさて、いつもながら普通のことをつらつら書いてまいりました。私にはいま、ここまで読み進めてくださったみなさんの気持ちが手に取るようにわかります。

どうでもいいけど今回笑いどころが少なくない?

しょーがないじゃん!世界はいま危機にあるんだよ!不謹慎なことすると叩かれて晒されて謝罪Tweetがデジタルタトゥーとして永久に残るんだよ!いくら無名翻訳家の誰も読まないnoteでもな!って言い過ぎだ!意外に人気あるんだぞ!(錯乱)

……はっっっっ!?

た、たいへんだ。せっかくがんばってすごくまじめ(当社比)に書いてきたのに反動で取り乱してしまった。。

ええと、笑いが少ないのはそういうわけでご容赦願うとして、理由1と理由2まで読んで、こんな風に思った方も少なくないのでは?

「やってみたいけど、外国語で情報収集なんて自分にはまだ無理」「新聞は文章が難しいし」「ニュースは速くて聴き取れないし」

うんうん、気持ちはわかります。けれどそんな、やってみたいけど自信がない、あるいは挫折した経験があり躊躇しているアナタこそ、今が挑戦に絶好のタイミングです。難しい新聞もニュースも、いまなら確実にいつもよりよくわかるはず。

なぜならいまのあなたの理解力はいつもの何倍もパワーアップしているからです。いえ、日本中の語学学習者の理解力はいま、別段なにをしているわけではなくても普通に暮らしているだけで知らず知らずのうちに日々パワーアップしているのです。

あっ。

待って!

宗教とかそういうアレではないから!最後にパワーストーン販売のリンクとか貼らないからお願い続きを読んで!!

世界は同じ話をする

なにもしなくても理解力が、それも日本中の人達の理解力がパワーアップするなんて、いったいぜんたい、そんなことが本当に可能なのでしょうか。

それが、可能なのです。いえ、一時的に可能になっているというべきでしょう。そしてそれを可能ならしめている因子こそ、他でもないコロナウイルスです。

コロナウイルスが全世界規模の疫禍となって以降、コロナは全人類共通の脅威として地球上のいたるところで昼夜を問わず語られ続けています。フランスやイタリアの報道も当然コロナ一色、国営放送のニュースも特別編成の完全コロナ特番です。

日本の報道も、ロックダウン状態にある欧州の国々ほどではないかもしれませんが、都知事が首都封鎖の可能性に言及したうえで外出自粛要請を出すに至り、感染爆発を防げるのか否かの瀬戸際で加熱していますよね。

これほどまでに全世界が同じ話をし続けるという現象は、ドイツのメルケル首相の表現を借りれば「第二次世界大戦以来」のはずです。これはつまり、世界中が日々、同じ文脈を共有し続けているということに他なりません。

そしてこの「文脈の共有」こそが、言語情報を理解する上で速度と深度を加速させる最大の鍵なのです。

「文脈≒予備知識」の絶大な力と最適化される身体

言語情報の正確な伝達に際して文脈がどれほど決定的な意味を持つかということについては前回の記事でも触れましたが、どれほど強調してもし過ぎることはありません。以下はその抜粋です;

韓国の人と居酒屋さんに行ったとしますよね。その人が「私はとりあえずピルにします!」って言ったとします(韓国人にはパ行とバ行の区別や「長音(ー)」の苦手な人が多いので、こういう発音になりがち)。
あなたはそれを聞いて「え?経口避妊薬を飲むの?」って思いますか?
思いませんよね? 思うならあなたとは友達になれないと思います。ごめんね☆

「居酒屋≒飲酒する場」という合意があり、「とりあえずビール」という慣用表現に聞き覚えがあれば、ほとんど本能的に「ビール」だと理解できるはず。人間はみな絶えずそうした「脳内補正」をしながらコミュニケーションしているのです。 (平野暁人「日本人は発音が悪い」は本当か」より

このように、ちょっと発音が悪かったり不適切な単語を使ってしまったりしても、その場の文脈さえ正しく了解されていれば情報は正確に伝達・理解されるもの。

この「文脈」という観点をもう少し広義に解釈して、「予備知識の有無」と言い換えてみるとよりわかりやすいのではないでしょうか。

たとえば、私はまがりなりにもプロの翻訳家であり通訳(あっいま無職だけど☆)ですが、サッカーやラグビーのニュースに関してはほとんど意味がわかりません。どれが人名でどれが技の名前でどれが競技場の名前なのかすら判別できない。

これは私がスポーツ全般に全く関心をもっておらず、その分野の予備知識がほぼゼロに近いためです。なんならいつの間にかオリンピックやW杯が廃止されても死ぬまで気づかない自信があります

ゲームもやらない、クラブも行かない、音楽も聴かないからミュージシャンの話題も全然ダメ……な、なんかこう書くとつまらない人間みたいだな(しょんぼり)。

そして、考えてみればこれはなにも外国語に限った話ではありません。上に挙げたような分野に関しては、たとえ日本語で見聞きしたところでやっぱりぜんぜん内容が意味をもって入ってこない。予備知識がなければ母語でも読み解けないのです。

要はアレよ、知らねえ話はわからねえってこった!(謎の江戸っ子再び

そういう意味では演劇の現場に初めて入ったときも泣きそうになりました。怖そうなベテランの照明さんに「つりてんのばみりじぇにーいりますか?」って言われて固まったあの頃のオレはまだウブだったぜ……(遠い目)。

でも今は大丈夫!鎮だって蓄光だってオーバーハングだってケタ吊りだって訳せます(ドヤ)。演出家の語る形而上的な世界や、舞台美術家が脳内に描く図面の詳細だって聞き取り理解して訳出することができます……だ、大体ならね!(弱気)

それもこれも、今では舞台芸術の世界が通訳としての私の主戦場となり、日々その文脈に身を置いて予備知識を蓄え、更新し続けているから。いわば今の私の言語感覚は、舞台芸術の話をするという用途に最適化された状態なのです。

今日も明日もコロナを語り続ける世界で

さあ、めずらしくプロの通訳っぽい話をしてマウントをとった(許してほしい。ほんとは無職だし)ところで本稿もいよいよ大詰めです。

相手がなにを話しているか、いま問題とされていることはなにか、を正確に理解するためにいちばん大切なのが文脈の把握や予備知識の有無だという点を念頭に置いた上で、私たちがいま、最も頻繁に接している情報とはなにか考えてみましょう。

いうまでもなく、コロナウイルス関連のニュースですよね。

感染予防、手洗い、感染爆発、ロックダウン、蘇生装置、人工呼吸器、マスク(不足)、アルコールジェル(不足)、クラスター感染、入国拒否、出国制限...etc

こうして改めて自分で書いてみるととても現実とは思えないし思いたくありませんが、ともあれ私たちはいま、多少の個人差こそあれ、誰もが平時とは全く異なる災害の文脈に身を置き、ほとんど接することのない予備知識を日々蓄えています。

つまり、今の私たちの言語感覚は、ウイルス禍についての情報をやりとりする、という用途に知らず知らずのうちに最適化された状態なのであり、ウイルス禍に関する情報であれば母語以外の言語による受信、理解力も大幅に底上げされている

もうおわかりですよね。

私が本稿「理由3」の冒頭に記した「日本中の語学学習者の理解力はいま、別段なにをしているわけではなくても普通に暮らしているだけで知らず知らずのうちに日々パワーアップしている」とは、つまりそういうことです。

要はアレよ、オレらいまみんなコロナ通だからよ!(あっまだいた謎の江戸っ子

日本を含めた世界中が「ウイルス禍」という共通の文脈に身を置き、先ほど羅列してみせたような共通の語彙を日々、大量に用いて情報を発信している。

日本人もフランス人も中国人もケニア人もアメリカ人もインド人もウルグアイ人もブルキナファソ人も、みんなみんな共通の危機を共通の語彙で訴え続ける。この疫禍が収束するまで、ずっとずっと叫び続ける。

うつくしい悪夢のようなこの現実に最適化されてしまっている今の私たちはみな、元々の語学力の3割増し、5割増しで情報を理解することができるはずです。以前なら途中で投げ出してしまったであろう長文も読み進められるかもしれません。

もちろん最初はわからないことも多いでしょう。初めて見聞きする単語に動揺の連続でくじけそうになったりもするでしょう。

でも大丈夫。

残念ながら新聞は、ニュースは、その新奇な単語を何度でも繰り返してくれます。事態が解決せぬ限り、知らずにいたかった医療や救急の用語、不安、安堵、希望、絶望を綴る数多の形容詞を、覚えるに十分な頻度で反復してくれることでしょう。

そうしていつしかあなたは以前よりずっと細かく聴き取れるようになっている自分に、記事を読むスピードがぐんと上がっている自分に気づくはずです。

小池都知事が会見で「ロックダウン」という言葉を用いて「なぜ重要な局面で馴染みのない英語を使うのか」と批判されたのはわずか数日前ですが、既に多くの人が当たり前に口にし、記事やテロップに註が付けられることも少なくなりました。

私たちはみな、こうしているあいだにも刻々と最適化されているのです。

もっと明るく楽しい出来事に最適化されたらどれほどよかっただろうと思います。けれどこれが現実である以上、せめても積極的に聴解や読解に打ち込み、内外の情勢を見比べ、成長しながらサバイブすることを目指してみませんか。

なんだか思いのほか深刻なトーンになってしまいました。状況が状況ですから仕方がありません。最後に私からみなさんに、3つだけお願いがあります。

ひとつめ。積極的に情報収集に努めるのはよいことですが、その情報を片っ端からSNSなどで共有するのではなく、立ち止まって信憑性を吟味すること。生半可な理解でみだりに情報を拡散するのはとても大きなリスクが伴います。

ふたつめ。ウイルス禍の情報だけに浸かり過ぎないようにすること。災害情報の過度な摂取が人の心にしらずしらず大きな負荷をかけ、時に病ませてしまうことを、私たちは2011年の震災で学びました。

みっつめ。明るいのか暗いのかふざけてるのかまじめなのかよくわからない仕上がりになってしまったこの記事に「スキ」を押してからブラウザを閉じること。どーせならウイルスよりもぴらののnoteが全世界に爆発的に広まりますよーに!!

感染者の方の1日も早いご快癒と事態の収束を心より祈念しつつ

平野暁人


訪問ありがとうございます!久しぶりのラジオで調子が狂ったのか、最初に未完成版をupしてしまい、後から完成版と差し替えました。最初のバージョンに「スキ」してくださった方々、本当にすみません。エピローグ以外違わないけど、よかったら最後だけでもまた聴いてね^^(2021.08.29)