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おがみ屋たま子

「:*:~m~☆:゚#*'*゚:☆■~∮ m▲∮~ヘ☆゚+.ヽ๑☆゚+.――チャァ.:*:」
「視えます。視えますぞ~」
たま子の元へはいろんな人がやってくる。

亡くなった母ともう一度話したいという人。夫の浮気封じをしたい妻。
ライバルを蹴落としたい部長職の男。行方不明になった亀の居場所。
資産家の爺さんが隠している金の延べ棒の在り処など・・・
見つけてくれだの、呪ってくれだの、実に様々な悩みを抱えた人がやってくる。

たま子がお天道様へ拝むと解決するというのが口伝えで広まり、悩み人はいくらでもやってきた。

悩み人が「夫が浮気しているんです」と言えば「浮気してますね。若い女ですね」とオウム返しでテキトーなことをいってやるだけで、みんなありがたがって2万だ、3万とポンポンお札を出した。

けれど、実際には、たま子にそんな能力はなかった。

たま子は、これも人助けと思って悪びれる様子もなく、かれこれ二十五年ほど拝み屋を生業としていた。

ある日のことだった。
たま子の元へいつものように悩み人がやってきた。
五十代後半と思しき女性はいう「ウチには娘とその下に息子がいるんですけど、その息子が突然出ていったきり帰ってこなくなってしまいまして・・・」

「行方不明?」

「いえ、行方不明というか・・・時々ショートメッセージがくるので元気は元気みたいなんですけど・・・何をしているのか、どこに住んでいるのかを訊いても一切言わないんです。」

「はいはい。なるほど、それで?」

「息子がどうして突然家を出ていったのか、理由が知りたくて・・・」

「息子さんが家をお出になるきっかけはありましたか?」

「ええ、そうですね・・・私が夫と離婚して3か月位した頃だったので多分離婚が許せなかったのかしら。一生懸命育ててきたのに、こんなのあんまりだと思って・・・」

「ほうほう。それではちょっとお天道様に訊いてみましょう」

たま子はいつものようにテキトーに手に掛けた数珠を揉んで「:*:~m~☆:゚#*'*゚:☆■~∮ m▲∮~ヘ☆゚+.ヽ๑☆゚+.――チャァ.:*:」テキトーな呪文を唱える。

さてさて、どんな風に言おうかとあぐねていると、突然、たま子の瞼裏になにか浮かんだ。

いつもは視えないものが視えた。
思わず「ひっ」と声を上げそうになり、「はにゃ~ああああ~」と誤魔化した。

大丈夫、女性には気づかれていないようだ。

古びた3階建てのアパートの三階の部屋へ優しそうな青年がスーパーの袋を持ってやってきた。慣れた手つきでカギを廻しドアを開けて入る。どうやら自宅らしい。
青年は袋から長ネギや豆腐を出すと居間に座っている初老の男性に「父さん今日は鍋だから」といった。

ご飯を食べ終わった青年は、ベランダに出ると携帯のライトをつけてカチカチと振ってみせるとちょうどそこから見えるアパートの一階の窓から同じようにカチカチと返事の合図がきた。

青年は携帯でメッセージを打ち始めた。「父さんの入院は来週になりました。肺を切れば大丈夫みたいです。姉ちゃん、お母さんそろそろ誕生日だよね。なにがほしいかわかる?」

《結》



山根さんの青ブラ文学部企画「習作」に参加してみました。素敵な企画をありがとうございました。
(企画参加は初めてなのでちゃんとなっていなかったらごめんなさい)

青豆ノノさんの「つぶやき」にわたしなりの答えになります。
つたない文章で申し訳ないのですが伝わったらいいなと思います。

「親の心子知らず」とは言いますが、この小説の中では
逆で、子どもたちが離婚した両親を慮っているストーリーになります。
息子さんは、お母さんに居場所を知らせたくないのではなくて、病気のお父さんの面倒を見るために家を出て、お母さんが訪ねてきて両親が鉢合わせしては困るから知らせないんですよね。

子どもって両親が別れてもどちらも同じくらい大切で親が思う以上に思っているんだということを「#気づかなかった愛」という形で伝えたくなりました。


お読みいただきありがとうございました。

#気づかなかった愛
#青ブラ文学部
#習作
#短編小説

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