見出し画像

マイナンバー問題、国はどこを間違ったか?

マイナンバー情報総点検本部が開催され、大体の原因がはっきりした。報道以上の情報を持たぬので、この評価の是非はわからない。しかし、原因は原因として、国に、あるいはマイナンバー制度自体に問題はなかったのか。反省すべきはなんなのか。

問題の原因は

結局、個人番号利用事務実施者において正しくマイナンバーが取得できていなかったことが原因とされている。これは以前「マイナ保険証問題とか公金受取口座問題とかは個人番号利用事務実施者問題ですから」で書いた通りだ。
マイナンバカードに問題はないし、データ連携を行う情報提供ネットワークも正常に動作していた。ところがマイナンバー制度を支える根本である「マイナンバーを用いて正しく情報が管理されている」という大前提が狂っていた。

マイナンバーを用いた情報の管理は個人番号利用事務実施者の責務であり、その点では今回のトラブルの責任は個人番号利用事務実施者にある。
では、国やマイナンバー制度そのものには問題なしと言えるのか。反省すべき点は多々あるのではないか。
(もっとも、公金受取口座登録制度に関しては個人番号利用事務実施者は国だけど)

国は急ぎすぎたのではないか

マイナンバーカード普及を急ぐあまり、トラブルにつながったとの意見がある。国の性急な要請に自治体を中心に現場が混乱し、間違いが起きたとの指摘だ。

公金受取口座登録制度に関してはこの指摘は妥当な点がある。一方で、健康保険や障害者手帳でのトラブルにこの指摘は当てはまらない。
たとえば健康保険問題。いわゆるマイナ保険証の導入を契機に健康保険組合がマイナンバー収集を開始したと誤解する向きがある。実際にはマイナンバー制度の開始に伴って収集、利用が始まっている。つまり2017年頃から脈々と続いている話でマイナンバーカードの保険証利用など全く決まっていない時期からの話だ。
マイナ保険証導入が急速に行われ、慌てて収集したから間違いが起こったというわけではない。
障害者手帳も同様で、5年以上も前からの制度だ。マイナンバーカードが普及し、注目度が上がった結果、潜在的問題が顕在化したと見る方が妥当だろう。
(マイナンバーカードへの保険証機能搭載については当時からロードマップでの言及があるとのご指摘をいただきました。構想としては制度検討初期からあるものです)

公金受取口座登録の意義は理解されているか

公金受取口座登録制度に関しては、マイナポイントの締切が迫る中、自力で登録できない住民が自治体窓口に殺到した。現場が大変な混乱に陥る中、間違いが発生してしまった。

もちろん、本来個人が自分のスマホでそれぞれに登録する前提にデザインされたUIを共有端末で連続して手続きするという異なる手順にそのまま利用してしまったことは問題だ。しかし、窓口にもっと余裕があれば防げた可能性は十分あるのではないか。
もっとも、どんなに期間があっても結局締め切り直前に殺到するなら一緒だろうという話もなくはない。住民側のリテラシーの問題もある。

むしろ、国は公金受取口座制度の意味についてもっと国民に丁寧に説明すべきではなかったか。
操作上の問題から他人の口座番号が登録されてしまった問題よりずっと多かったのが、意図的に本人以外の口座が登録されてしまった問題。要するに子供など家族のマイナンバーに自分の口座を登録してしまったもの。

そもそも公金受取口座登録制度では個人給付に全面移行する前提なのか?それらの方針について国民に丁寧に説明されてきたか?
新型コロナに関する特別定額給付金は世帯単位に給付された。それがこれからは個人単位になるということか?
たとえ0歳児であろうと給付対処となれば個人に給付され、親に渡すものではないと言われれば、0歳児でも本人口座を登録せねばと思うだろ。しかし、世帯単位と思えばわざわざ0歳児に口座を作って登録するか?

結局は制度の意義ではなく、一人でも多く登録すればポイントがたくさんもらえますよ、無意味な0歳児でも登録さえすればポイントは同じだけどもらえます、ラッキーですよとポイントで釣ることに専念した結果ではないか。
ポイントをもらう方便だと思えば、本人口座かどうかなんて深く考えない人がいても致し方ないことだ。

個人番号利用事務実施者を信じた制度設計がおかしいのでは

上で、正しくマイナンバーが取得されなかったのは個人番号利用事務実施者の責任であると述べた。これは事実なのだが、この点について、そもそもそのような主体にマイナンバーを取り扱わせるマイナンバー制度の制度設計自体が問題ではないか。そのような設計をした国に本来責任があるのではとの指摘がある。

現状の混乱を見れば、このような指摘ももっともだと言わざるを得まい。
しかし、同時に健康保険組合や都道府県などをとても安心してマイナンバーの運用など任せられない組織であると認識する状況が正しいのか。
健康保険組合は日々医療レセプトを取り扱う主体だ。都道府県は障害や難病などの情報を取り扱う主体だ。これら日々機微情報を扱う主体をもって、マイナンバーを預けられないとは。

しかし、このたび顕在化した現実こそが真理だ。5年ほど前、マイナンバー制度導入の頃、作業が集中したことも問題だったかもしれない。それにしてもである。
人手不足が根本原因かもしれない。十分な人手があれば慎重な処理ができたのかもしれない。
しかし、人口減少社会において人手不足は悪化することはあっても改善することはない。5年前より今はもっと悪いはずだ。そしてこれからはさらに悪くなる。

まだなんとかなるだろう、頑張ってくれるだろうと過剰な期待をかけた制度設計は甘かったのかもしれない。自体をもっと深刻に受け止め、慎重に進めねばならなかったのかもしれない。

それでもデジタル化を進めねばならない

すでに重要な社会制度を支える基盤がほころんでいることが明白となった。どこかみんな気づきつつも、目を背けていた現実が目前に突きつけられた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?