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自治体DX実現に標準化は必要なのか?

自治体のDXが注目されている。総務省が設置した「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」では国が進める自治体システムの標準化を土台にDXを推進するとしている。ここで、DXでは抜本的にアーキテクチャを見直すべきで、現状の標準化など必要なのかという意見がでてくる。自治体DXを進めるうえでの標準の意味合いについて改めて整理したい。

自治体のDXとは

デジタル社会の到来をうけてデジタル・トランスフォーメーション(DX)が不可欠だと言われている。自治体も例外ではなく、今こそ強力にDXを進めなければ未来はない。

ここでDXというのは決してデジタル技術を単純に今の業務に適用して効率化を図るといったレベルの話ではない。デジタル社会という新しい社会構造に適用すべくアーキテクチャから変革を行うことだ。そのあたりは「デジタルというもう一つの次元」でも書いた通りだ。

だからといってデジタル技術の適用を戸惑うのもばからしい。あるべきアーキテクチャの検討は進めなければならないが、その完成を待っていられるほどデジタル社会のスピードはのんびりしていない。できるところから積極的に試してみる、完璧を求めないチャレンジと、理想的な全体像、あるべき姿の検討が並行して両輪として駆動しなければならない。
その「できるところから」の積み重ねを、「あるべき姿」を目指すロードマップの中にどうプロットするのか、どう生かしていくのかが全体ガバナンスにとっての肝になってくるだろう。

システム標準化との関係

自治体DXが抜本的なアーキテクチャ見直しを伴うものであることは「地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会報告書」の以下の記述からも明らかだろう。

システムの標準化を行う際には、今のシステムや業務プロセスを前提にしたインクリメンタル(漸進的)な改築方式でなく、今の仕事の仕方を抜本的に見直す引っ越し方式が求められる。

システムの標準化は仕事の仕方の抜本見直しを前提として議論されている。さらには、

日本は官民問わず既存の業務プロセスに固執し、それに適合するためのカスタマイズを行い続けた結果、世界に大きく立ち遅れてしまった。私たちは、この失敗を二度と繰り返してはならない。

とまで言及している。

だが、標準化においても「あるべき姿」を検討する取り組みと、現状を分析・把握する、まず揃えられるところを揃えるといった「地道な取り組み」が両輪とならなければならない。
「あるべき姿」が見えなければ無駄だと「地道な取り組み」を否定してみても仕方ない。まず現状がはっきり見えなければあるべき姿も見えないし、ある程度足並みをそろえてからでないと大きなジャンプは無理がある。

業務プロセス・システムの標準化について、まずはミクロに見て、現状を詳
細に把握した上で実務上の課題を整理し、その後、マクロに見て、標準化を進めるために取りうる方策を検討することとした。

の所以である。

現状肯定の標準化

では、今進んでいる自治体システム標準化の取り組みはどうなのだろう。今の取り組みは、現状肯定の上で必要とされている機能を整理するにとどまっている。この点は「住民記録システム標準化」でも書いたとおりだ。
確かにこれでは自治体DXという視点ではとうてい十分とは言えないだろう。もちろん、「住民記録システム標準仕様書【第 1.0 版】」に

(目的3) 自治体行政のデジタル化に向けた基盤整備を行う
デジタル社会に必要な機能のうち現段階で普遍的に有用性が認められるものを搭載することで、自治体行政のデジタル化に向けた基盤整備を行う。

とあるようにDXを目指した取り組みであり、そのための要素は取り込まれている。しかし、あくまで基盤整備である。

その意味ではこれは「地道な取り組み」の方に該当する。まさしく手間がかかるのに結果は地味だ。しかし、大きなジャンプを考えると、この地味な取り組みがどうしても必要な面がある。

DXを推進すべきといっても、今の自治体には個々独立にDXを検討できるほどの体力など残っていない。共同化できるものは共同化し、共通化できるものは共通化し、足並みをそろえて協力し合って難局に向かわなければならない。だから、そのために共通認識がどうしても必要になってくる。ある程度足並みをそろえた段階が必要となってくる。

しかし、「あるべき姿」を検討するにも自治体が必要としている業務機能を体系立てて理解したものがない。共通認識があるようで存在しない。足並みも当然、そろっていない。

すさまじいスピードの中で

地道に現状認識を整理しつつ、まず最低限足並みをそろえた段階に到達し、そこから一気に自治体全体のDXを検討する必要がある。そのためには標準化が不可欠だ。

と言いたいところなのだが、昨今のスピード感はそれすら許してくれないようだ。「最低限足並みそろえた段階」というフェーズを持つ余裕がなくなってきている。いきなりDXへ爆走といった空気感が漂う。
「あるべき姿」をすぐにも目指さないと納得してもらえなさそうな空気感が現状の標準化の取り組みに対する懸念につながっているのだろう。
たしかに、一足飛びにならないといけないのかもしれない。ただ、確実に言えることは現状分析・認識はどうあっても必ず必要になるということだ。今を見ないで未来を見ても、そこに到達すべき道筋が描けない。地道な標準化の取り組みは決して無駄な労力ではない。

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出典:地方自治体における業務プロセス・システムの標準化及びAI・ロボティクスの活用に関する研究会報告書

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