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出中浩二の平凡な人生

note空想映画劇場 ゴールデン・フェイク ただいま開場いたします。

それには別に価値はない。誰もそれは必要としない。しかし、確かにそれは存在する。

〇ごく普通?

 出中浩二、53歳。S市市役所、特殊生活相談部参事。お役所勤務30年余り、妻との間には長男・長女の子供が二人。長男は来年大学受験を控えており、娘は高校に入学したばかり。はたから見ると平凡だが順調な人生を歩んでいる。
 だが、彼には、彼にとっては重大な悩み事があった。
 俺は過少評価されている。
 内なる怒りは常にこの言葉に繋がる。
 何で、俺がこんな事をしなければいけないのだ

〇いつもいつも……

 デスクワーク中はもちろん、仕事を依頼した者に対しても、そして家族に対しても同じように愚痴をこぼす。
 何で、俺がこんな事を……。彼はいつも不機嫌だ。
 自分は優秀な人間で、周囲はそれにふさわしい態度を取るべきだ。俺はこんな事をするために生まれてきたのではない。お前たちもっと俺に敬意を示せ。
 冗談ではなく、彼は本気でそう思っているのだ。

〇お前は別に……

 実際の所、出中はとりわけ優秀な男ではない。むしろ無能。周囲のフォローによって、何とか仕事を成立させているに過ぎない。しかし、彼はそれに気づいていない。〝公務員〟というステータスは高級ブランドのロゴではないのだ。自分の評価は自分で証明しなければならないのに、彼はそれをする必要はなく、世間がそれを怠っていると考えている。
 要はバカなのだ。しかも陰湿である。市役所の職員がそんなにエライのか。
 絶えず周囲にネガティブな空気を巻き散らかし、根拠なく他人を見下すので、当然嫌われる。アイツはめんどくさい、と。そして、その事に彼は気付いていなのだ。

〇とうとう〝天罰〟が下り始める。

 とある相談に来た市民に、彼は〝誤った〟対応をしてしまった。彼を〝一人〟にしてしまったその部署の不運である。例によって、不遜な態度を取ってしまったのである。恨みを買ってしまった彼は、数々のいやがらせを受ける事になる。
 ハチの巣を自宅に放り込まれたり、犬の糞を玄関先に撒かれたり……と、彼の特権意識と同様に歪んだ仕返しである。

〇当然の報い?

 報復はますますエスカレートする。
 自家用車のタイヤにナイフが刺さっていた。コンビニ会計を拒否された。通りすがりの見知らぬおばさんに、腹パンチをされダッシュで逃げられる……。
 彼の個人情報が筒漏れで、そして数多くの人間から忌み嫌われていることを意味するのだが、この期に及んで彼はこうぼやく。
 何で俺がこんな目に……。

〇だんだん……。

 確かに今回は彼が正しい。だが、観客が望んでいることはそれではない。
 反省をしてほしいのだ。己の半生を振り返り、生まれ変わってほしい。
だが、彼はそうしない。バカだからだ。
 何で俺が……。しかしそれでも彼は反省しない。
 ここで風向きが変わる。
 観客はもっと彼にひどい目にあってほしいと願うようになる。
 そしてそれは叶えられる。見事に。この映画は嫌がらせのバリエーションを楽しむ作品になってくるのだ。その顛末は劇場で確認してほしい。自分が持つサディステックな一面を感じて、しかも秒でそれを忘れる人間の本性に気付くだろう。B級映画でも〝人間〟を描けるのだ(そしてこのコンテンツで紹介するに相応しくない作品でもある)。


おばさんが渾身の一撃を出中に見回す画。おばさん役の梅川トミ子(56)はこの一発のために1年間、ボクシングジムに通い詰めたという。 

〇名誉の問題

 憎々しい主人公:出中浩二を演じた霞啓次郎は、普段は物腰の低い紳士だそうだ。休日にはボランティア活動にいそしみ、やんごとなき事情で家を失った人たちに対して炊き出しなどを率先して行い、貧困格差の問題に真摯に取り組んでいる。

〇最後に

 このコンテンツはフィクションであり、実在の人物・組織とは一切関係がありません。数字なども同様です。すべてはフェイク。


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