30歳のご褒美ジュエリーはシャネルのカメリアがいい
私は来年で30歳だ。
人生、30周年記念にご褒美ジュエリーが欲しい。
私は、20代のほとんどを貧民として過ごした。
一人暮らしと中小企業の福利厚生の手薄さのコンボでは、実家暮らし・大企業勤めなどの同世代と比べると悲しくなってくるぐらい、生活必需品にお金を使ったら余力がない。
ジュエリーは、生活必需品じゃないので、インフルエンサーでもない私は買えないのだ。
そんな私も、1つだけジュエリーを持っている。
K18にオパールがあしらわれた、「月光」をモチーフにしたジュエリーで、当時15万円。
宝石店に入社して半年、同期がどんどんやめていく中で、
「私は周りに流されずに、ちゃんと仕事を続けよう」
と、自分の中で誓いに近い気持ちで、買ったものだ。
オパールは誕生石ではなく、本当に色の移ろいの魅力に取りつかれていて、大学時代から絵にかくほど好きだったから、「買うなら絶対オパール」と決めていた。
自社の物もいろいろとみていたけれど、結局こだわりが強いので、宝石の色、形、デザイン、込められた意味も含めてひとめぼれした他店のデザインジュエリーを選んだ。
店員さんもよかった。
多くは語らず、商品の魅力を伝えてくれた後、そっと
「お仕事頑張れますよ」
と言われて、コロッと買ってしまった。
大満足で買って、しばらく毎日つけていた。
ところが、1週間ほどでオパールにひびが入ってしまった。
オパールは、もともと水分を含んだ状態で結晶化している宝石なので、傷が入りやすい。
分かっていたが、まさか自分が買ったものにひびが入るとは思っておらず、相当ショックだった。
けれど、お店の対応がよく、同じデザインで似た石から選ばせてもらえて、交換してもらえた。
それでも、割れたショックはトラウマなので、次ジュエリーを買うときは、絶対にダイヤか地金がいいな、と心底思った。
しかし「次」は20代のうちには訪れなかった。
新卒で買った15万円は、本当に重たかった。
3回の分割で買って、3か月間5万円ずつ引かれる生活。
手取り18万円、家賃6万円、固定費5万円、奨学金2万円、宝石5万円で、なくなってしまうのだ。
つまり、生活費がジリ貧。
「宝石のために貯金を切り崩すのは身の丈に合わなすぎる」
と思い、それ以来、宝石店勤務で数多の誘惑があっても、私の財布のひもが緩むことはなかった。
ほしいジュエリーはあった。
かの有名な、ヴァンクリーフのアルハンブラだ。
私は、27歳ごろからかれこれ2年間ずっとアルハンブラが欲しかった。
大学時代からヴァンクリーフの展示を京都や東京で見たり、ハイブランドには詳しくなかったときから、その世界観の柔らかさと上品さに惹かれていた。
大学時代は見る専門だったので、買う気はなかったのだが、年を重ね、いろんなジュエリーを見ているうちに、アルハンブラが一番自分が付けているイメージが湧いて、デザインもちょうどよくて最高だな、と思っていた。
オパールが割れたショックは覚えているので、プラチナとダイヤモンドのアルハンブラの小さいサイズが一番お気に入り。
ずっと待ち受けにもしていた。
金額は50万円。
本当を言うと買えないことはないのだ。
貯金崩せば買えるし、今の私ならそれで生活が苦しくなる、といったこともない。
でも、勇気が出なかった。
そう思っていたら、友達と遊んだとき、彼女は、私が悩んでいるより一回り大きいアルハンブラをつけてやってきた。
たぶん100万円する。
友達のことは大好きだけれど、ここ一番のお気に入りジュエリーがお揃いみたいになるのは、ちょっと気まずい。
そうこうしているうちに、親友もアルハンブラを親から結婚祝いとしてもらっていた。
全く同じではないにせよ、アルハンブラはアルハンブラだ。
やっぱりちょっと気まずい。
そして、ダメ押し。
見ていた恋愛リアリティショーで、ちょっと苦手だな、と思っていた女の子もアルハンブラだったのだ。
この3連打で私はちょっとアルハンブラ熱が冷めてしまった。
不朽の人気デザインで同世代からの支持が厚すぎるあまり、人と被りすぎてしまう。仕方ない。関係ないと言い切れたらいいけれど、やっぱり先に友人が持っていると知ってて買うのは、かぶせに行ったような気持にもなるので、より気まずい。
ちょうど、部署異動で買取専門店に勤務するようになり、私はブランドの知識を今まで以上に身につける必要があった。
特に、3大ブランドと呼ばれる、エルメス・シャネル・ルイヴィトンは必修科目。
真贋の知識だけでなく、歴史も調べるようになると、ハイブランド=高いけどかわいい、ぐらいの認識だったのが、それぞれのブランドの哲学に感動した。
中でも、シャネル。
元々、海外旅行に行く予定があったとき、ビビりで怖くて仕方なく、「何か、現地でも強くいられるお守りが欲しい(落としても替えがきいてショックの少ないもので)」と思っていた時に、さんざん悩んで買ったのが、シャネルの口紅だった。
プチプラ女で、口紅3年同じの使っていたので、5000円オーバーのリップは相当気合がいったが、本当に買ってよかったと思っていて、ずっと愛用している。
仕事中でも、プライベートでも、シャネルのリップを塗っているときは、ちょっとだけ気分が高々。
やっぱり、なぞの自信が湧くぐらい、「シャネル」にはエネルギーがある。
と思っていたら、そのブランドの成り立ちがまさに「女性の自立」をテーマとしていたのだ。
ブランド創設者のココ・シャネルは、孤児。
帽子屋さんとしてモノ作りを始めたそうだ。
当時女性の社会進出がはじまったばかりで、カバンが手で持つタイプの物しかない時代に、マトラッセをはじめ、女性のためのショルダーバッグを作ったのもシャネルだ。
シャネルにはメンズがあまりないのも、シャネルというブランドが「女性が社会で輝くために」作ったからだろう。
調べていくうちに出てくるのが、「カメリア」、白い椿の花。
これはシャネルが生涯愛した花と言われている。
↑最高。
そして何より、私の胸に刺さって抜けないのが、
シャネルにおけるカメリアは「自立と反逆精神のシンボル」として位置づけられているということ。
自立と、反逆精神。
あまりにも、最高だ。
そう、私は宝石を買いたいと思ったとき、変化が強い環境でも自分自身が倒れてしまわないように、周りに流されず自分らしく強い女でいられるように、いつだってそう思っている。
道楽で買うほどの余力はないけれど、これからの人生、仕事・結婚・出産・育児…負けそうな気持ちになったときの、お守りが欲しいのだ。
それは、人から買い与えられるものではなくて、自分が自分自身への誓いとして、自分の稼いだお金で買いたい。
「自立と反逆精神」のシンボルを人から買ってもらうのは、ちょっと笑ってしまう。
20代頑張ったご褒美と、30代頑張る私へのはなむけに、節目として選ぶなら、「シャネルのカメリア」がいい。
ネックレスをずっと探していたけれど、指輪の方がいい。
ネックレスは人に見せるもので、指輪は自分が見るもの。
そう思うと、指輪がちょうどいい。
落としそうという不安もあるが、落としたら落とした時だ。
物はいつかなくなるし、その時には指輪に頼らなくても、自立した強い女になっていると信じている。
値段もちょうど30万円ぐらいのものがある。
30歳の記念にはぴったりだ。
売る時の値段を考えてしまうのは職業病だが、売らないので大丈夫だ。
宝石は思いを形にするもの。
私の気持ちと、シャネルの持つエネルギーで、なかなかいい「ご褒美ジュエリー」が手に入るのではないだろうか。
誕生日が来るのがちょっと待ち遠しい。