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こんにちは ジーニー

有名な物語の中のランプの魔神は擦ると主人の願いを三つ叶えてくれる。
「ジーニー、願いを叶えてくれ。」
「何が望みだ。」
「僕の願いは・・・」

小学生から中学生になるのはあまり実感がなかった。
でも中学生から高校生になると俺の周りの環境は一変した。


今日は朝から晴れている。
晴れていると言っても雲ひとつない快晴ではなく、普段よく見る空と言っても失礼にならない空だ。

「なあ、玄人。」

隣の席の幕田貴春【マクダ キハル】が俺を右に振り向かせた。

「あのさ、もしも何でも願いが叶うなら何を犠牲に出来る?」

いつもながら突然意味のわからない質問をされた。
うん、無視しよう。

「おい、無視するなよ。」

と、俺の正面に回り込んできた。

「いやなんかどうでもよくて。それにそれを話し合っても、どうにかなるわけじゃないしさ。」

「そうでもないんだよ。」

「どゆこと。」

「とにかく放課後、僕の家に来てよ。」

「今日はゲームしたいし、ちょっと・・・。」

「じゃあ決まりな。」

半ば強引に約束を取り決められると、午後の授業とホームルームを終えた僕は、貴春に連れられ家に向かった。

「ただいま。」

「お邪魔します。」

「今父さんも母さんも居ないよ。」

「そうなんだ。」

「僕の部屋覚えてる?」

「まあ、高校に上がってからは来なくなったけど、中学の時はほぼ毎日来てたし。」

「OK、お菓子とジュース持ってくから待ってて。」

貴春に促されるまま、俺は貴春の部屋で待った。
最後に来た中3の時から約2年経ったが、あの頃とあまり変わっておらず、自然と笑みが溢れた。

「まだこの漫画好きなんだな。」

「お待たせ。」

「ありがとう。」

「その漫画また読みたけりゃ貸すぜ。」

「まだ好きなんだな。」

「一回離れたんだけど、最近また面白くなってきてさ。 またハマってる。」

「じゃあ、今度貸して。」

「今日読んでっていいよ。」

「ありがとう。」

それから俺たちは互いの時間を楽しんだ。
部屋に遊びに行った時も2人で何かするわけではなく、その時したい事をして寛げる。
まさに親友だからできる心の距離感が俺には心地よかった。
貴春に貸してもらった漫画を懐かしんていると、

「あのさ、教室でした話覚えてる?」

「なんだっけ。」   

「だから、もしも何でも願いが叶うなら何を犠牲にできるかって話。」

「それより俺はなんでこんな話を唐突にしてくるのかが知りたいよ。」

「実はね。」

貴春は俺に部屋で待つように言うと3分後くらいで部屋に戻ってきた。
怪しいランプと共に。

「この間夜ご飯の買い出しにスーパーに行ってこようと思ったら、ゴミ捨て場にこれが置いてあってさ。」

「それで。」

「なんだかすごく目を惹かれて持って帰ってきたんだよ。それでじっくり見てるとさ、中から出てきたんだよ。」

「ランプの魔人が?」

「ゴミが。」

「ゴミかよ。」

「でも、ここからがポイントなんだよ。」

「何それ、ゴミはゴミでしょ。」

「それがこれなんだけどさ。」

貴春が見せてきた紙クズは、色が黄ばんでいかにも古そうな紙に真ん中に文字が書かれていた。

願いを叶えるには犠牲を払え。 お前は何を選ぶ】

「何これ。」

「だろ、だから玄人を呼んだんだよ。」

「別に俺を呼んだってわかんないよ。」

「まま、そう言わずに。 もし魔人とかが出てきたら一回分譲ってやるからさ。」

「一度きりだったとしても譲ってくれるの?」

「そん時は話し合おうぜ。」

「調子良いやつ。」

そうして俺たちはこのランプと紙切れについて考えた。
この紙に書いてある意味はなんなのか。どうしてこんなものがゴミ捨て場に捨ててあったのか。拾ってよかったのか。

「この犠牲って事は何かを差し出さなきゃいけないんだよな。」

「俺もそう思ってる。」

「だろ。」

「あるいは、何かを我慢するのかも。」

「我慢?」

「最近だとYouTuberとかがやってるじゃん。」

「1年◯◯禁止生活みたいなこと?」

「そう。」

「でも僕の考えでは何かを魔人にあげることで願いを叶えてもらうイメージなんだよね。」

「俺もそのイメージ、等価交換だよな。」

「だから、僕たちが何かを我慢したところで魔人にメリットなくない?」

「あるいはめちゃくちゃドSで我慢に苦しんでる俺らを見てお酒を飲んでるかもよ。」

「怖!」

「で、もし我慢できなくて破った時は王への生贄にされるんじゃない?」

「怖!!!」

「なんて漫画の読み過ぎだよな。」

「あはは、ほんとそうだな。」

この日、俺達は結局この紙に書かれている暗号の答えが出せぬまま、お開きになった。
約2年ぶりに貴春の部屋で遊んだ今日は、俺にとってとても楽しかった。
高校生にとって大切な休日の土曜日を潰して、明日もまたこの紙についてここで考えてもいいと思えるくらいには。

「じゃあまた明日な。」

「また明日、来る時メッセージして。」

「オッケー。」

家に着くと、母さんがペットのセキセイインコのハナを肩に乗せ料理をしていた。

「おかえり玄人、遅かったわね。」

「今日貴春の部屋で遊んでたから。」

「あらそうなの。ならこのみかんのお裾分け持って行って貰えば良かったわ。」

「明日も行くから、その時持って行くよ。」

「ありがとう。」

「にしても久しぶりじゃない?貴春君の部屋に行くなんて。」

「なんか変なもん拾ったんだってさ。」

「何それ?」

「ランプと紙切れだって。」

「玄人もあんまり変なもの触っちゃダメよ、もしかしたらすごく汚いかもしれないじゃない?」

「わかってるよ、貴春にも言っておく。」

「ささ、早く手洗いうがいをしてお皿並べるの手伝ってちょうだい。」

「はい。」

「ところで母さん、なんでハナが肩に乗ってるの。」

「ゲージを掃除しようとしたら出て来ちゃって、もう夜ご飯の支度もしなくちゃいけないから放っておいたらずっとここにいるのよ。」

「そうなんだ。俺が戻しておこうか?」

「じゃあそれもお願いね。」

俺はハナをゲージに戻し、手洗いうがいをして母さんの手伝いをした。

「そういえば、前にハナが外に飛び出した時貴春くんが一緒に探してくれたわよね。」

「そんなこともあったね。」

「ほんと見つかって良かったわ。まさかよそ様のペットフードを食べてたなんて凄く可笑しかったけど。」

「貴春の家の向かいの家、確か犬とインコを飼ってたよね。」

「そうね。」

「まあ、ちゃんとハナが見つかったからこんな笑い話でいられるのよね。」

「ほんと。」

「ただいま。」

「おかえり貴方。」

「おかえり父さん。」

「ただいま。今日はカレーかな。」

「そうよ。さあ席に着いてちょうだい。」

「はい。」

「貴方は手を洗ってちょうだいね。」

「わかってるよママ。」

家族3人で食卓を囲み今日あった出来事を話していると。

「そういえば玄人、さっき言ってたランプってなんなのよ。」

「なんか貴春がゴミ捨て場に捨ててあるランプを見つけたんだよ。その中に紙が入ってて。」

「なんてかいてあったんだ?」

「これなんだけど。」

俺はスマホで撮らせて貰ったランプと紙切れの写真を2人に見せた。

「本当おとぎ話や寓話みたいだな。」

「ちょっと物騒ね。」

「2人ともどう思う?」

「イタズラじゃないか?」

「貴春くんも魔人は見てないんでしょ?」

「そうだけど。普段俺に親切にしてくれるあいつがすごく真剣になって考えてたからさ、俺もちょっと力になりたくて。」

「いい友達を玄人は持ったな、ママ。」

「そうね。」

「玄人も大切にするんだそ。」

「うん。」

「そうだわ、明日は貴春くんを家に呼んだらどう?」

「いいの?」

「いいわよ、一緒にお昼も食べましょう。」

「俺たちも玄人の友達は大事にしたいもんな。」

「わかった、今連絡してくる。」

「ちょっと、それは食事を終えてからにしなさい。」

「ごめんなさい。」

「うふふ、早く食べちゃいなさい。 あと貴春くんの好きなもの聞いておいてね。」

俺は食事を終え、寝る前に部屋で貴春に電話をかけた。

「もしもし、今大丈夫?」

「大丈夫だよ、どうしたの?」

「明日なんだけどさ、貴春が俺の家に来ない?」

「いいの?」

「うん、お昼も一緒に食べようってさ。」

「まじ、俺おばさんの手料理好きなんだよね。」

「好きなものとかあるって母さんが聞けってさ。」

「うーん、じゃあ野菜炒めかな?」

「オッケ伝えておくね。」

「ありがとう、楽しみにしてる。」

「じゃあまた明日。」

「また明日。」

「おやすみ。」

「おやすみ。」

俺はベッドに寝転び目をつぶって考える。

「願いを叶えるには犠牲を払え・・・。また明日考えよ。」

次の日の12時を10分ほど過ぎた時に家のチャイムが鳴った。

「いらっしゃい。」

「お邪魔します。」

「貴春くん、いらっしゃい。」

「ご無沙汰してます、おばさんおじさん。」

「ささ、お昼ご飯にしましょう。貴春くんの好きな野菜炒めよ。」

「ありがとうございます。やった!」

俺たちは昼食の野菜炒めを食べながら、最近の学校のことや、面白かったこと、中学時代の思い出などを話した。

「貴春くんのアンカーかっこよかったわよね。」

「恥ずかしいですよ、おばさん」

「何言ってるのよ、クラスのお荷物だった玄人の分まで巻き返してくれたじゃない!」

「母さんやめてよ、もう!」

「あらごめんなさい、ついつい懐かしくて。」

「久しぶりだもんな、玄人が貴春くんと遊んでるのは。」

「いろいろあって俺たちのタイミングが合わなかっただけだよ。」

「そうだね。」

「またいつでも来なさい。」

「ありがとうございます、おじさん。」

「そうだ、貴春くん帰りにみかん持って帰ってね。」

「ありがとうございます。」

「玄人も手伝ってあげてね。」

「わかってるよ。」

「いいよ大丈夫。」

「そう?じゃあ見送りだけしてあげなさいね。」

「うん。」

「チッチッチッ。」

「ハナもご飯かな。」

「おー久しぶりだな、ハナ。」

貴春はハナのいるゲージの前で隙間から指を入れて遊んでいる。

「昨日思い出したんだけど、貴春くんハナが外に飛び出した時一緒に探してくれたわよね。」

「確かにありましたね。ハナが僕の家の向かいの家で一緒にインコ用の餌食べてたやつ。」

「そうなの、本当笑っちゃうわ。」

「あそこの家のインコとワンちゃん元気かな?」

「あそこは最近引っ越したわよ。」

「そうなんですか。」

「なんでも息子さんの高校受験で都内の私立に行くんですって。」

「おばさんはなんでも知ってるね。」

「息子と同年代のお子さんがいると話の流れで入ってくるだけよ。」

「母さん、俺のこと喋ってないよね。」

「喋ってないわよ、あんまり。」

「少し喋ったみたいだね。」

「全く‥」

「ママは玄人のことが好きなんだよ。」

「やめてよ父さん、恥ずかしい。」

「本当仲良いね!」

「貴春の家もだろ。」

「最近は弟の受験で遊びにいけてないんだけどね。」

「高校受験だっけ来年。」

「そう。それより引っ越したのって最近ですか?」

「そうね、先々週ぐらいかしら。」

「そうなんだ。」

「貴春くんお代わりどう?」

「お願いします。」

「俺はご馳走様。部屋で待ってるから貴春も食べ終わったら来いよ。」

「オッケ。」

俺の部屋に貴春も合流し、午後から俺たちはまた謎を解き始めた。

「全く分からんね。」

「・・そうだな。」

「ん?何かわかったの。」

「わかったっていうかあくまで推測なんだけさ。」

「なになに聞かせてよ、玄人の推理。」

「さっき貴春の前の家が引っ越したって話したでしょ。」

「うん。」

「だから、このランプはそこの家のゴミだったんじゃないかな?」

「ゴミ?」

「そう。だからまとめると貴春はゴミを拾ったんだよ。」

「じゃあこの中の紙は何?」

「中二病。中学生はみんな患ってる。」

「中二病って。」

「母さんも言ってたろ、来年高校受験だってさ。」

「でも、僕はこのランプに運命的なものを感じたんだよ。」

「それもだよ。昨日俺に漫画貸してくれたろ。」

「H×Hね。」

「H×H好きな奴8割中二病。」

「そんなこと言うなよ。」

「でも事実だろ、貴春だって好きだろ旅団や念能力とか。それこそ中学の時水見式したよな。」

「俺特質系。」

俺たちはランプを見つめた。

「じゃあ僕が中二病だから中二病が捨てた中二ランプを拾ったと。」

「まあそうなるな。」

「ははっ。何だよ中二ランプって」

「でも貴春らしいわ。」

俺たちは笑い合った。中学の頃に戻ったように。

「そういえば、真剣に謎解きしてたけど貴春はどんな願いを叶えたいんだよ。」

「黒歴史を犠牲にもう叶ったからいいかな。」

「なんだよそれ。」

「ありがとな親友。」

「恥ずかしいこと言うなよ親友。」

「また一緒に遊ぼうぜ。」







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