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【短編】 機械の妹

 妹は欲望を持っている。見た目は褐色の小石であり、表面がつるつるしているので触り心地は悪くない。
「あんまりじろじろ見ないでよ」と妹は言うと、私の手からそれを奪い返した。「兄さんみたいに欲望を持っていない人には分からないでしょうけど、これは誰かに見せたり、触らせたりするのはとても恥ずかしいことなの」
 世の中のほとんどの人間は私のように欲望を持っていないので、妹のように持っている人間はうらやましく思われたりもする。欲望は一生働かなくていいほどのお金で売れるとか、欲望を使えば一度だけ生き返ることが出来るといった話があるからだ。
「でもあたしは誰かに売る気はないわ」と妹は遠くを見ながら言った。「それに、死んだあと生き返るっていうのも、ゾンビみたいで嫌ね」

 妹は、以前に宣言した通り欲望を売ることはなかったが、あるとき、空から降ってきた隕石に当たって死んでしまった。生前の妹は、生き返りをあまり望んでいなかったようだが、私はどうしても妹の死を受け入れることが出来なかった。
 実際にやってみて初めて知ったのだが、欲望を使った生き返りとは、誰もが想像する肉体の生き返りではなかった。それは欲望の小石を機械に組み込んで、本人の欲望を受け継いだ機械人間を作ることだったのだ。そして妹に当たった隕石というのは、調べてみると、どこかの宇宙人が持っていた欲望の小石だということが分かった。なので私は、それをお金に換えて機械の妹を作る資金にした。

 機械の妹を完成させるのに十年もかかってしまったが、見た目や声はそっくりに作ることが出来たし、妹の欲望も上手く機械に移植することが出来た。長い眠りから覚めた妹に一連の事情を説明すると、悪い冗談はやてめてよと言って信じようとしなかった。
「もしその話が本当だとしても、あたしはただ生きていくだけよ」

 それからしばらくすると、妹を一度死なせてしまったあの隕石の元々の持ち主が現れて、妹に結婚を申し込んできた。彼は宇宙人だったが、耳が少し長いというところ以外は我々と変わらない姿だった。彼の隕石を勝手に売ってしまったことを私が謝ると、彼は妹に隕石をぶつけてしまったことを謝った。
 結局、妹は宇宙人と結婚することはなかったが、今度は宇宙飛行士になって旅へ出てしまった。三百年後には帰ってくる予定だと言っていたので、今私は、未来の妹を迎えに行くためのタイムマシーンを作っているところだ。

(18/10/08新作)

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