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【短編】 物語の終わり

「ねえ旦那、アタシのこと好き?」と、その小鳥は確かに言った。
 私は木陰に寝転んで何かを考えているつもりだったが、小鳥の言葉ですべてが消えてしまった。それは、ほんのささいな質問かもしれないし、場合によっては、この世を終わらせてしまうような質問かもしれないと思った。
「ねえ旦那、アタシのこと好き?」
「その質問に答える前に一つだけ約束して欲しいのだけど」と私は言いながら眠い体を起こした。「返答しだいで、この世界を終わらせるようなことだけは勘弁してくれないか」
 すると小鳥は地球の重力を利用して、木の枝から私の膝へ飛び移った。
「アタシ、世界を終わらせるためにこの質問をしてるの。だってアタシたちは出会ってしまったのだから、もう後ろには戻れないでしょ」
 私は大きく溜息をついたあと、そのわがままな小鳥を愛することにした。

 世界はその後も続いていったが、あれから数日後に《物語》が終了してしまった。
 中央政府から届いた手紙にはこう書いてあった。
「《物語》は終了してしまいましたが、世界は今までと何も変わることはありません。デマなどに惑わされないよう冷静な対処をお願いします」
 私には意味がよくわからなかったが、何も変わらないということを知って安心した。どうやったら小鳥を愛せるのか悩んでいたし、そのうえ世界のルールまで変更されたら、もうどうにもならないからだ。
 小鳥に手紙の内容を読んで聞かせていると、古い友人が家を訪ねてきた。彼は今、哲学者のアルバイトをしているのだという。
「お前もその手紙を読んだのか」と言って彼はソファに腰を下ろし、タバコに火を点けた。「しかしお前に小鳥を飼う趣味があったなんて知らなかったよ。肩に乗せたりして」
 別に飼っているわけではなくて愛しているんだと説明すると、哲学者の友人は鼻の穴からタバコの煙を吹かした。
「お前は愛することを選んだのか。俺はきっと絶望を選ぶことになるが、いずれどちらかを選ばなきゃならないんだ」
 彼が言っていることもまた、私にはよく理解できなかった。唐突すぎる出来事ばかりだ。
「明日世界が終わると想像してみろ。愛するか、絶望するか、どちらかを選ぶしかない。《物語》が終わるとはそういうことだ。」

 友人が帰ったあと、小鳥はタバコ臭い人は嫌いだと言った。
「でも何かを選べるということは、まだ希望があるということでしょ。あの人、ほんとうに哲学者かしら」
 なにしろ彼はアルバイトだからねと私が言うと、小鳥は小さく笑った。

(2015/03作)

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