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#音楽

【短編】 廃校と少女と、午後の音楽

 とくに何もすることのない午後、僕は真っ白なCDから流れる音楽を日が暮れるまで聴く。  真っ白なCDは、広い体育館の中にディスク剥き出しのままで無数に積みあがっており、どれも題名や音楽家の名前は書かれていない。  体育館は、廃校になった学校の校舎とセットになっているものをゼロ円で買った。  周辺に誰も住んでいないから不動産としての価値が低く、無数にあるCDという廃棄物の処理に困ってゼロ円という価格になったようだ。    学校を買ってから三年後、校内を歩いていると、廊下に髪がボ

【短編】 ちょうどいい距離感

 白い服を着た男が、いつも私の後ろに付いてくるようになった。  顔は黒人男性のように見えるし、ストーカーや探偵にしては目立ちすぎる。 「アイムソーリー。フーアーユー?」  私は、男が気を抜いた瞬間に腕を掴み、とりあえず知っている英語で話してみた。 「あ、俺ふつうに日本語話せますよ」  男が笑顔でそう言うので頭が混乱し、思わずまたアイムソーリーと言って腕を離した。 「俺はダニエルで、あなたを守護するためにやってきた者です。ちなみに、俺の姿はあなた以外の人間には見えていませんから

【短編】 日曜日の音楽

 祖母は朝や夕方の決まった時間、祭壇の前にひざまづき、静かにお祈りをしていた。  祭壇の中央には小さな何かの像が置かれていて、その右側に花を差した花瓶が、左側には古くて分厚い本が置かれていた。  幼い頃の私は、なぜか、祭壇に置かれたその古い本に興味があって、初めてその本を開いたとき、文字がびっしり書かれていることに圧倒されて、思わず閉じてしまったことを今でも覚えている 「そこに書いてあるのは、ただの物語なのよ」  祖母は幼い私の肩に、優しく手を置きながらそう言った。 「ものが

【短編】 できるだけ素っ気なく、でも優しさを忘れずに

 寒かった。  男はピストルを動物に向けながら、私の質問に答えた。 「つまりやつらが、無抵抗だからさ」  男は動物を撃った。 「生きたければ、抵抗するしかない」 「では、抵抗する手段がない場合は?」 「知らんよ」  私は自分のピストルを取り出した。 「俺を撃つ気か?」 「ええ」 「撃てよ」  私は男を撃った。 「意外と痛みはないぜ、でも……」  私は動物園を出ると路面電車に飛び乗った。 「次の駅は、論理の痛み、論理の痛みと、言葉と詩と恋……」  向かいの席に腰かけているミニ