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社会・戦争の小説

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「社会的な問題」や「戦争」をテーマにした話。
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記事一覧

【短編】 アウラカチューレ

 私は、牛の背中にまたがっており、目の前には田園風景が広がっている。 「ねえ、アウラカチューレはまだなの?」  声に振り返ると、一人の少女が私の腰にしがみついている。 「あたし、昨日から何も食べていないのだけど」  そういえば子どもの頃、泣いている私にキャンディーをくれた親切な叔母さんがいたなあと思い出して、上着のポケットを探すとそれらしきものがあった。 「なんか古くてベトベトするけど、甘いからまあいいわ」  アウラカチューレとは何かという疑問はあるが、私も空腹だ。  そこで

【短編】 地下鉄とファーストフードと少女

 地下鉄の電車の床には、「ここは地獄だ。言葉さえ通じない」というスプレーの落書き。  車内はゴミのような匂いがするし、生きているか死んでいるか分からない人が横たわっていてたしかに地獄だ。  しかし、言葉は通じるはずだと私は思って一メートル隣に座っていた男にハローと声をかけると、男にいきなり胸ぐらを掴まれた。 「俺はハローという言葉が世界で一番嫌いなんだ!」  私は声をかけたことを後悔した。 「ハローなんて、友達みたいに近寄ってきては相手を騙すだけの言葉だろ?」  今度あんたに

【短編】 Aの生徒と、Bの生徒

 この学校では、入学すると二種類の生徒に分けられます。  私はBの生徒で、親友のトモカはAの生徒に分けられましたが、クラスは同じだったのでとりあえず安心しました。  入学した次の日、朝の教室でトモカとお喋りをしていたら、担任教師がやってきてホームルームが始まりました。 「みなさん、おはようございます。えー突然なのですが、入学のときにBに分けられた生徒は、制服を体育用のジャージに着替えて下さい。Aの生徒はそのままで構いません。Bの女子生徒は保健室や更衣室で着替えてOKです。

【短編】 二千年前の話と、遊園地と、テロリスト

「この土地は、二千年前までわれわれの土地だったので、あなたたちは出て行く必要があります」  スーツ姿の青年はそう言って、私に書類を差し出す。  ここは、まわりに田んぼしかないような田舎だ。 「国連と、政府の承認によって、この地域一帯はわれわれの土地だと認められたのです」  いやあ、急にそんなこと言われましても。 「だから、この土地は二千年前までわれわれの土地で、そのことは先日、国連や政府にも認められたので、あなたたちにはこの土地に住む権利がないということです」  はあ、私は東

【短編】 人形の国

 人形の国は、城壁に囲まれた都市国家だ。  城壁の入口には槍を持った門番が二人いて、その傍らにいるメガネを掛けた男が、私に質問をする。 「我が国に入国する目的は何ですか?」  はあ、旅の途中に寄っただけで、特に目的なんて。 「ようするに旅の宿を求める目的ですね。まあ、許可しましょう」  あのう、とても失礼な質問かもしれませんが、あなたも人形なのですか? 「ははは、わたしはただの人間ですよ。他の門番もね」  いやあ、人形の国だって聞いていたからみんな人形だとばかり。 「まあ、そ

【短編】 怪物と人間

 怪物は、人間の五倍ぐらいの大きさがある生き物だ。  昔は、農作業や土木工事などでよく使われていたが、今は便利な機械が普及してきたので、怪物の力を使う必要がなくなった。  田舎にある私の実家は昔から農家をやっており、今でも何百年も前から使っている怪物がいた。 「ようケン坊、元気そうだな。東京でイジメられてないか? 土産は買ってきたか?」  私は、東京でさんざんイジメられているけど、たまに田舎へ帰って、怪物と話をしていると少しだけ自分を取り戻せる。  でも土産はいつも忘れて

【短編】 民間人と軍人と、英雄

 工場の仕事に採用されてホッしたけど、明日から早朝に起床しなければならない生活が始まるのかと思うと、僕は急に、憂鬱になった。  それで街の道端で寝転んでいたら、突然もの凄い音が鳴り響いて、人々が逃げ惑っている姿が見えた。  遠くを眺めると、巨大な人間のような何かが雄叫びを上げている。  街の中には人間型の巨大ロボットが横たわっていて、操縦席を開けると死んだ人がぽろっと落ちてきた。  機内のコンピューターはまだ起動できたので、僕はロボットの姿勢を立て直し、ロボットが持ってい

【短編】 絶対に、言葉を売ってはいけません

 街を歩いていたら、チラシを差し出された。 「あなたの言葉を、一個あたり一万円で買います。例えば、『犬』という言葉を一個売れば、あなたは一万円を手にできるということ!」  今の時代って、こんな商売があるのか?  数カ月後、スーツ姿の女性が私のアパートを訪ねてきて、いきなり私の胸ぐらを掴んだ。 「どんな言葉でもいいのです。今日、誰かの言葉を買取らなければこの仕事を首になってしまいます」  私は暴力的なことに不慣れで、あなたの話を聞きますからとりあえず手を放して下さいと懇願す

【短編】 昼休みの公園で出会う少女は危険

「ねえ、一緒に遊んでよ!」  昼休みに公園のベンチに座っていたら、小さい女の子がそう話し掛けてくる。  私は腕時計を見て、五分だけならいいよと。 「じゃあ、この木の枝を投げるから、拾ってきてね」  女の子の投げた木の枝は、ベンチから五メートルぐらい先へ飛んでいった。  私は、首をかしげながら小走りで木の枝を拾い、すたすたと戻って女の子に木の枝を差し出す。 「よくできましたね!」  そう言うと女の子は、小さな手で私の頭をなでた。  次の日の昼休み。 「今日はね、投げた木の枝

【短編】 教師失格!

 アパートの郵便ポストを開けたら真っ黒な封筒が入っていて、開封すると中から真っ赤な紙が出てきた。 「あなたは教師失格です。地図に記した場所へ○月○日に来て下さい」。  私は教師なんてやったことないし、きっと何かの詐欺だなと思いながら、私は手紙を小さく折り畳んでゴミ箱へ捨てた……。  数年後、アパートのドアを激しくノックする音が聞こえた。 「あなたは教師失格です!」  恐る恐るドアを開けると、全身黒服の人が立っていて真っ赤な紙を私に差し出す。 「たくさんの生徒があなたの助け

【短編】 名前のない人々

「民間人でも学生でも構いません。現在、戦闘機のパイロットが不足しています。志願者の受付は……」  そんなアナウンスが流れ、巨大なビルに避難していた人々は不安の表情を浮かべる。  でも俺は、戦闘機に乗れるかもしれないというワクワクを止められず、避難している人々をかき分け、ビルの中にある受付の場所へ向かった。 「あなたが搭乗するのは、FF26AI7・タイプC・バージョン8という最新鋭機です。タイプCのバージョン8は全てAIが操作しますから、搭乗者はただ乗っているだけでよい仕様

【短編】 耳の谷

 講習室に入って指定された席に座ると、私の目の前の席にいるポニーテールの女性の後頭部が見える。 「皆さん席につきましたね。では、お手元にある教本の二ページ目を開いて下さい」  教官がそう言うので本の二ページ目を開いたが、何も書かれていない白紙の状態だった。  他のページも全部白紙で、きっと印刷ミスだろうけど、まあそんなこともあるだろう(ノートの代わりに使おうかな)。 「AIと人間には根本的な違いがあります。しかし、そのことを理解するのは容易ではないからこそこのライセンス制度が

【短編】 わたしも今夜、あなたのことを考えながら眠ります

 箱ティッシュの最後の一枚に、『わたしはここに存在します』という文字が書かれていた。  一センチほどの活字で印刷された文字だ。  私は鼻をかみたかったが、その一枚を使うのはためらわれたのでトイレの紙で用を済ませ、あらためてそのティッシュを眺めてみる。  もしかすると箱の中に何かがあるのかと思って、中を覗いたり、カッターで箱を切り開いたりしてみたがとくに何も見つからない……。  急に話は変わるけど、十年後に戦争が始まって、私は戦場で銃を握る毎日を過ごしていた。 「そいつ童貞

【短編】 AI小説の時代

「あなたのアイデアを、人間が小説化します!」というサービスを冗談半分で始めたら、意外と利用者が多くて仕事に追われることになった。 「料金は一〇〇〇文字なら一〇〇〇円で、一万文字なら一万円/つまり一文字一円で、人間の書いた小説が作れます!/現在、一万文字以内の小説に対応可能です/本サービスは、AIに書かせた良く出来た小説に飽きた人におすすめ/人間がAIの代わりに小説を書きます!」  最近は、自分の読みたい小説をAIに書かせるのが主流になっていて、AIもかなり優秀になってきたから