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さなぎの時

非常事態にみつけたこと

 私の場合、この地球規模の非常事態に、自分の非常事態が見事に重なった。

 3月末で、14年継続した仕事が終了した。
 まだしばらくは、現役で働きたい。生活のためにも、収入が必要だ。
 私の地元では、働かずに家に居ると、「遊んでいる」と言われる。それで、今までは、一つの仕事が終わると間隔を開けず、すぐに次の仕事に就いた。何回か転職しているが、一度も雇用保険を使って受給したことがない。今回は、焦らずじっくりと自分にできることを探してみようと思う。

 みつけた中の一つに、「朗読」がある。
 私は仕事の中で読み聞かせをしていた。絵本を見せて読むこともあれば、物語を朗読することもあった。語ることは、好きだった。けれど読むのは、本として世の中に流通しているお話だった。
 先日、ラジオ出演をした際、自作を読む機会があった。さすがに自作は照れた。しかしパーソナリティさんから「温かい声ですね」と言われたことが、とても嬉しく、羞恥心が吹き飛んだ。
 読みたくなったのだ。
 探してみると、在宅でナレーションや朗読のお仕事があるので、驚いた。
 サンプル音源を録り、どんどん応募している。

 SNSでも発信している。
他の作家さんの作品は、著作権の問題がある。
まずは、私の童話を読み、公開している。
 家にいる、お子さんに聞いてほしい。
 いつ終わるともわからない。自分が感染してしまうかもしれない。そんな不安から夜も眠れない方もいるだろう。その寝物語りに聞いてほしい。

言葉の大切さ

 ウィルスは目に見えない。
 ワクチンもまだ開発段階だ。
 試行錯誤を繰り返しながら、最善の策が何かを探求してくださっている。
 命の危険がある中で、お仕事をなさっている方たちに、敬意を表したい。

 先日、ショッピングセンター内の野菜直売所で野菜を買った。スーパーで一玉500円のキャベツに恐れをなし買えずにいたところ、そこでお値打ち価格で買えたので嬉しくなった。それで、レジの若い店員さんに、話しかけてしまった。ここがあって良かったということと、危険だけど頑張ってねと、励ましの言葉が言いたかった。
 娘にそのことを話すと、「えええ、嫌だなあ、おばちゃんだ」と拒否反応を示された。
 そうだろうか。こういう時だからこそ、声掛けが必要なのではないか。余計なことを口角泡飛ばして言っているわけではない。ちゃんとマスクをしている。
 人と触れ合うことが良くないとされている。けれど、心のつながりまで希薄になってしまっては社会が破綻してしまう。

 そして、言葉は大切なのだ。みんなの気持ちがひりひりしている、こんな時だからこそ、心を振るわす言葉を紡ぎたい。
 実際、3月から4月、私は言葉をいただいて、乗り切った。どん底まで落ち込まずに済んだのは、言葉のおかげだ。

 書き手みんなで、この状況を詳らかに記録しよう。
 どんな経緯で、どういう事態になっていったか。
 人々がどう行動し、どういう感情が生まれたか。
 残していこう。
 それが、後世への指針となるように。

 今は、飛ぶ前なのだ。
 ゆったりと心をしずめ、さなぎの中で、美しい羽の準備をしよう。
 いつか、羽を広げる時期がくる。
 そう信じて。

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